【日中共同歴史研究報告書】南京事件犠牲者数一致せず 戦後史は見送り

2010-01-31 18:22:27 | 世界
日中両国の有識者による歴史共同研究委員会は31日、双方の論文をまとめた報告書を公表した。日本側が「20万人を上限として、4万人、2万人などさまざまな推計がなされている」とした昭和12~13年(1937~38年)の「南京事件」の犠牲者数について、中国側は「30万人以上」と言及。近代を中心に双方の見解の相違が鮮明となった。平成元年(89年)に中国政府が民主化運動を武力弾圧した天安門事件が含まれる戦後史部分は、中国側の要求で公表が見送られるなど課題を残した。

 日本側が発表した報告書は「古代・中近世史」「近現代史」の2本立てで計549ページ。それぞれの時代について日本側と中国側の論文を掲載した。中国国内で報告書がどこまで公表されるかは不明だ。

 公表にあたって報告書は「論文が体現しているのは執筆者本人の認識であり、双方が同意した共通認識ではない」との断りを入れた。両政府は今回の報告を「第1期」と位置づけ、年内にも「第2期」研究に着手する。

 日中戦争をめぐって、日本側は「双方の軍人だけではなく、特に中国の非戦闘員に多くの犠牲を強いた」とし、加害者の立場を明確にした。さらに「非戦闘員の犠牲の多さや日本軍によるさまざまな『非違行為』は、戦後両国民の中に、新しい関係構築を妨げる深い傷跡を残した」と指摘した。

中国側は日中戦争について「日本軍国主義による全面的な侵略戦争」と断定し、「中国人民の抗日戦争における偉大な勝利」で終結したと総括した。

 ただ、日中戦争での中国側の死傷者数をめぐっては、国民政府軍312万人、中国共産党軍58万人超とした日本側に対し、中国側は「軍人・民衆の死傷者は3500万人以上」と数字に大きな差が出た。

 昭和3年(28年)の「張作霖爆殺事件」、6年(31年)の「柳条湖事件」、12年(37年)の「盧溝橋事件」でも、すべての行為を日本の「侵略」意図と強調する中国側と、偶発的事件や旧日本軍の一部による行為などとする日本側で隔たりを残した。

 また、「古代・中近世史」では、日本が中国を中心とした国際秩序「冊封体制」に臣下として組み込まれていたとする中国側と、隋の時代以降、「朝貢はするが冊封は受けない」という関係にあったとする日本側の見解は分かれた。

 ◇日中歴史共同研究◇  平成18年10月、訪中した安倍晋三首相(当時)と胡錦濤国家主席との首脳会談の合意に基づき、同年12月に始まった。両国の有識者各10人で構成され、「古代・中近世史」「近現代史」の分科会で双方が論文を提出し、議論した。日本側は北岡伸一東大教授、中国側は歩平・社会科学院近代史研究所長が座長を務めた。

 日中平和友好条約締結30周年にあたる20年中に成果を発表する予定だったが、記述をめぐり意見が対立し何度も延期された。最終会合も中国側の意向で昨年12月まで開かれなかった。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100131/plc1001311711007-n1.htm

日中両国の有識者による「日中歴史共同研究委員会」(日本側座長=北岡伸一・東大教授)は31日、報告書を発表した。

 焦点となった近現代史では「南京事件」(1937年)の犠牲者数を日本側が「20万人を上限」、中国側は「30万人余り」とするなど戦前期を中心に歴史認識の隔たりは埋まらなかった。

 第2次世界大戦が終結した1945年以降の現代史は中国側の要請で公表を見送った。委員会は今後、委員を入れ替えて第2期の研究に着手する見通しだが、両国の政治体制の違いもあり、作業は難航が予想される。

 報告書は約550ページ。「総論」のほか、「古代・中近世史」と明治維新前後~45年までの「近現代史」を対象とした「各論」で構成し、双方の委員の署名論文計24本を掲載した。

 旧日本軍による中国国民政府の首都・南京攻略時に起きた南京事件について、日本側は「日本軍による集団的、個別的な虐殺事件が発生し、強姦(ごうかん)、略奪や放火も頻発した」と認定した。ただ、犠牲者数は「20万人を上限として4万人、2万人など様々な推計がなされている」と指摘。「副次的要因」として中国軍の民衆保護策の欠如なども挙げた。

 これに対し、中国側は「中国軍人が集団的に虐殺された」と強調。犠牲者数は中国政府の見解を踏襲し、「30万人余り」とした。

 満州事変については中国側が「侵略」と断じた。日本側はきっかけとなった南満州鉄道(満鉄)爆破事件(31年)を関東軍の「謀略」と明記したが、積極的侵略性はなかったとした。日中戦争では、日本側が発端となった盧溝橋事件(37年)を「偶発的」としながらも、「原因の大半は日本側が作り出した」と責任を認めた。中国側は「全面的な侵略戦争」とした。

 一方、文化大革命(66~76年)などを含む45年以降については、中国の現政権批判に直結しかねないこともあり、中国側が公表見送りを強く求めた。

 委員会は2006年10月の日中首脳会談で設立に合意した。昨年12月、4回目となる最終会合で報告書が了承されたが、「総論」だけが公表されていた。

(2010年1月31日20時17分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100131-OYT1T00678.htm

日中歴史研究報告書のポイント
 日中歴史共同研究報告書の近現代史に関する記述のポイントは次の通り。
 【日清戦争(1894~95年)以降】
 日本=近代の日中関係史において日清戦争は一つの転換点。日本が有利な不平等条約体制が形成され、日本国内でも中国を蔑視(べっし)する傾向が生まれたことなど、それ以前とは異なる傾向が顕著に見られた。
 中国=日本の拡張行為はやむことなく持続して中国人の抗日意識を激化させ、日本軍政決定者に、したい放題の横暴な心理を作り出した。
 【田中上奏文(1927年)】
 日本=対中政策を協議した東方会議に関連して「田中上奏文」と呼ばれる怪文書がある。これは田中義一首相が昭和天皇に上奏したとされるもので、中国への侵略計画だった。だが「田中上奏文」は、実際の東方会議と大きく離反していた。
 中国=真偽に関して学界で多くの議論があったが、いかに作られたかについて不明な部分がある。だが、その後の日本の拡張路線はまさしくこの文書に書かれたようになった。
 【柳条湖事件(31年)】
 日本=関東軍の作戦参謀・石原莞爾らを首謀者とする謀略によるものであった。武力発動は政府や陸軍指導部の基本方針に反する行動として開始された。急進的な軍人たちは、謀略によって日中間の衝突事件を引き起こし、満州の「危機」を一挙に打開しようとした。
 中国=関東軍が中国東北地区を侵略するため発動した九一八事変(満州事変)は、日本が実施した「満蒙(満州・蒙古)政策」の必然の産物。30年からの世界経済危機と国内の政治・社会危機の影響の下、日本は「満蒙危機」を騒ぎ立て、関東軍と軍部はそれぞれ東北地区を武力で侵攻・占領する計画を制定した。
 【日中全面戦争(37~45年)】
 日本=戦闘は8年を越え、宣戦布告による戦争以上にし烈なものとなり、両国国民に大きな負担と犠牲を強いた。特に戦場となった中国に深い傷を残したが、その原因の大半は日本側が作り出したものと言わなければならない。
 盧溝橋における最初の発砲事件は「偶発的」であり、現地では局地的解決の努力がなされた。しかし、衝突事件を好機とみなした支那駐屯軍(後の北支那方面軍)や関東軍は、蒋介石政権の打倒と華北占領という構想を実行していく。
 中国=盧溝橋事件の発生は、かなり大きな程度、日本の中国侵略政策と関係している。事件は非常に速い展開で日本による全面的な対中国侵略戦争につながったが、歴史的変化のプロセスを見ると、盧溝橋事件は必然的に起きたものと言える。
 【南京虐殺事件(37年)】
 日本=日本軍による捕虜、敗残兵、便衣兵および一部の市民に対する集団的、個別的な虐殺事件が発生し、強姦(ごうかん)、略奪や放火も頻発した。日本軍による虐殺者数は、極東国際軍事裁判(東京裁判)における判決では20万人以上(松井石根司令官に対する判決文では10万人以上)、47年の南京戦犯裁判軍事法廷では30万人以上とされ、中国の見解は後者に依拠している。
 一方、日本側の研究では20万人を上限として、4万人、2万人などさまざまな推計がなされている。犠牲者数に諸説がある背景には、「虐殺」の定義、対象となる地域・期間、埋葬記録、人口統計などの資料に対する検証の相違が存在する。
 中国=日本軍の南京での放火、殺人、強姦、略奪は国際法の重大な違反であり、第2次大戦後、連合国は東京と南京でそれぞれ軍事法廷を開き、南京大虐殺に対する審判を行った。
 東京裁判の判決書は、「占領後の最初の1カ月で南京市内では2万件近い強姦事件が発生した」「日本軍隊占領後最初の6週間以内に、市内と付近で虐殺された市民と捕虜は計20万人を超えた」と認定した。南京戦犯裁判軍事法廷は「被害者は総数30万人余りに上る」と認定した。
 【中国人犠牲者数】
 日本=国民政府軍の死者は約132万人、負傷者180万人に上っている。中国共産党軍の死傷者(失跡者を含む)は58万人を超えると推定される。非戦闘員の犠牲の多さや日本軍によるさまざまな「非違行為」は、戦後の日中両国民の中に、新しい関係構築を妨げる深い傷跡を残した。
 中国=不完全な統計によると、中国軍人・民衆の死傷者は3500万人以上、直接的な経済損失は1000億ドル以上、間接的な経済損失は5000億ドル以上に上った。関東軍731部隊や100部隊は、中国人を使った人体実験、生体解剖も実施した。(2010/01/31-17:18)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2010013100094

日中歴史共同研究:内容報道のNHK放送 中国国内で遮断/毎日新聞 ほか
日中歴史共同研究報告書(要旨)/毎日新聞 ほか

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日中歴史共同研究・目次・序(PDF11ページ)
日中歴史共同研究・日本語論文(PDF305ページ)
日中歴史共同研究・中国語論文(PDF216ページ)
*報告書の入手方法は
日中歴史共同研究 日本側事務局
 事務局長 若山 喬一
 電話:03-3503-7795
 e-mail:k.wakayama@jiia.or.jp
 事務局長補佐 畑野 勇
 電話:03-3503-7802(内線233)
 e-mail:hatano@jiia.or.jp
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