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「需要と供給のバランス」を教えてくれる、薬価の見直し

2016-10-06 19:50:43 | ビジネス

日経新聞に、「需要と供給のバランスによる価格の変化」を感じさせる記事があった。
日経新聞:超高額抗がん剤、最大25%下げ 大筋合意

取り上げられている「超高額抗がん剤」というのは、「オプジーボ」という名前の「がん治療薬」だ。
見出しでは「抗がん剤」と書いてあるが、これまでとは全く違う発想の「がん治療薬」で、「抗がん剤」という表現をしないコトのほうが多い「治療薬」だ。
そしてこの「オプジーボ」という薬こそ、今年のノーベル賞医学・生理学部門で有力紙されていた本庶博士の基礎研究により、誕生した「日本生まれの日本育ち」の薬でもある。

日本での薬価は、75万円(1回)という「超」がつくほどの「治療薬」。
実は、この「薬」がこれほど高額な理由は、
1.治療対象者が、極端に少ないがん種を対象に承認された
2.「薬価の適正価格」を十分検討されずに、決まってしまった
という点がある。
確かに「世界初」の薬なので、「薬価の適正価格」そのものがわからなかった、というのは仕方のないことかもしれない。
1の「極端に少ないがん種を対象に承認された」ということが、今回の見直しの切っ掛けとなっている。

この「オプジーボ」という治療薬が、最初に承認されたがん種というのが「メラノーマ」という、非常に悪性度が高い皮膚がんの治療薬としてだった。
それまで「メラノーマ」に対して、効果的な治療薬がなかったことで、いち早く承認対象となったわけだが、問題はこの「メラノーマ」という皮膚がんの患者さんの罹患者数が、他のがん種と比べて極端に少ない。
年間でも500人未満なのだ。
500人の命は代えがたいものではあるのだが、現在日本人が一番罹患している「大腸がん」は、年間135,800人と言われている。
国立がん研究センター:2015年の感罹患者数、死亡数予測公開
圧倒的に、罹患者数(=患者数)が少ないのだ。

薬だけではないが、製品には「開発費」などの経費が含くまれている。
それらの「開発費」などの経費に企業の利益を加え、想定される販売数を勘案して「価格設定」がされる。
想定される販売数そのものが、少なければ「開発費」などを含む経費を回収するために、一つ当たりの単価は高額になってしまう。

そして現在、この「オプジーボ」は、肺がんの中でも最近増加傾向にある、と言われている「非小細胞がん」への適用が検討されている。
肺がんの罹患者数は大腸がんに続く、罹患者数が増加傾向にあるだけではなく、実は死亡者数だけで見れば肺がんが1位なのだ。
「メラノーマ」ではなく「非小細胞がん」の罹患者を対象としたとき、「販売数」そのものが飛躍的に多くなり、薬価そのものを下げるコトができるようになる。
もちろん逆の見方もあり「患者数が多いから、薬価を下げ多くの患者さんに使ってもらう」という、考えもあるはずだ。

この「オプジーボ」の薬価引き下げ、という話題は「需要と供給のバランス」ということを、改めて教えてくれているように思う。