虎尾の会

幕末の草莽の志士清河八郎の会の名を盗用しています。主人は猫の尾も踏めません。

朧の刻(おぼろのとき) 銭五疑獄事件物語 波濤に散った三男要蔵

2013-11-14 | 読書


久しぶりに本の紹介。
石川県の銭屋五兵衛記念館の発行。著者は麻井紅仁子さん。幼い頃から生田流の筝(琴)を学んだ邦楽の大師範。お琴ってでかくて、狭い家にはとても置けなし、持ち運びにも不便だとかねがね思っていたけど、この方は、その大きな琴を小型の琴にする工夫をし「ネオ・コト」(小型のコト)を発明した人。会社も設立している。そればかりか、江戸時代の実在した盲目の琴師を小説にし(「幻の琴師」)、金沢市民文学賞も受賞している。主婦をやり、社長をやり、邦楽の指導で全国を駆け回り、そして小説も書く、という超人的な女性。

今回の作品は、著者、年来の宿願を果たした作品。
銭屋五兵衛といえば、海の豪商としてだれでも知っているだろう。たしか、昔、東映で片岡千恵蔵がやった。でも銭屋疑獄事件となると、よくわからない。また、銭屋五兵衛の三男要蔵となると、わたしも知らなかった。銭屋が外国と密貿易したり、アメリカへ渡った、という噂は、どうもこの要蔵のことらしい。

銭屋五兵衛の屋敷に「てつ」という女中がいた。一般には、「てつ」は銭屋五兵衛の妾とされているそうだ。実は、「てつ」は、要蔵の愛した女性で、「てつ」は要蔵の子どもを生む。要蔵とてつの秘められた愛と、その秘密を生涯守り通した「てつ」の人生を語る。


銭屋のことはよく知らないので、わたしには、判断できないのだが、著者は、銭屋五兵衛が住んでいた金石町(昔は宮越)の人で、地元の史料を調べつくし、また女性独特の直観力で、要蔵とてつの関係を語る。

「てつ」は、要蔵が刑死したあと、「鉄悟尼」という尼になり、「海月寺」の庵主になる。この「海月寺」にしばらく下宿していたのが若き室生犀星。犀星は「海の僧院」という作品で、「てつ」について書いているそうだ。

物語は、女性の語り口調(ございます)ですすめられるが、後半は「「朧の刻」を追った足跡」という取材ノートといってよいノンフィクション。女性の語り口調がちょっと苦手なわたしは、著者が関係者に次々に取材し、真相に近づいていく取材ノートが興味深かった。てつの晩年の肖像画や、てつの子ども「ひさ」の写真もある。

著者は「金沢は土壁の街」という。土壁の内部には小舞竹の下地がある。それは、だれの目にもとまらない。「だれの目にもとまらぬところでただひたむきに生きた数知れぬ人の命と祈りが、この町をささえているような気がする」と著者は書いているが、まさに、だれの目にもとまらないがひたむきに生きた人を作品にしたのが、この「朧の刻」です。

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2 コメント

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Unknown (まい)
2013-12-14 14:39:44
超人的ではないただの好奇心BABAです!(笑)
こんな素敵なご紹介をいただけ穴があれば入りたいほど恐縮しています。
ありがとうございました。

おかげさまで発刊一ヶ月にして増刷がきまりました。
とはいえ、田舎の小さな出版社(叱られるかも?)ですから数はしれてますけどね。

不思議なことに県外の書店様からのご注文が多くて驚いてるようです。
ありがたいことだと心から感謝しています。

あれほど探して見つからず無念の涙をのんでいた市兵衛さんの親族末裔が・・・
なんと!地元でみつかりました。

一人だけ判明していた弟の能登屋仁右衛門さんのご子孫がこの地で営々と存在していて、お墓にも市兵衛さんの名を刻み、法名もきちんと判明しました。

長年、しつこく追い求めていた要藏さんとおてつさんを、たとえ夢のなかでも一度くらい結ばせてさしあげたいと願って企画した邦楽劇が機縁で「秘した娘ひさ」の存在があきらかになり、いままた、本がでたことで、市兵衛さんのお墓が見つかりました

やはり・・・この本は彼岸の方々の代弁として書かせられたのかも?と本当に不思議な想いで一杯です

ありがとうございました。
Unknown (Unknown)
2013-12-14 21:16:43
まいさん、こんばんわ!

>おかげさまで発刊一ヶ月にして増刷がきまりました。

すごい!よかったよかった。

>不思議なことに県外の書店様からのご注文が多くて驚いてるようです。

なにしろ銭屋五兵衛は、金沢の人ではなくて、天下の銭屋五兵衛ですからね。

金沢は、常に人々の目をひきますね。
映画でも、ちょっと前は、「武士の家計簿」、今度は上戸彩の「武士の台所}(だっけ?)が公開ですね。かなり前は利家とまつ。なんといっても加賀100万石だ。

しかし、銭屋の場合は、この地元のお殿様から罪を着せられたことになるので、地元加賀では、出版などもご苦労があったのではないでしょうか。
もう、そんなあつれきはないかな?(一揆などでは、地元ではまだあつれき、遠慮がある土地ももあるようですが)。
銭屋の事件も藩の特定秘密保護になり永久秘密なのでしょうか(笑)

>長年、しつこく追い求めていた要藏さんとおてつさんを、たとえ夢のなかでも一度くらい結ばせてさしあげたいと願って企画した邦楽劇が機縁で「秘した娘ひさ」の存在があきらかになり、いままた、本がでたことで、市兵衛さんのお墓が見つかりました

おお、手代市兵衛、要蔵を助けた傑物ですね。武門出身だったとか。なんとなく、魅力的な人ですね。
やっと墓がわかったとは驚きです。まいさんの貢献が大ですね。

ご本の出版を契機に、銭屋疑獄事件の秘密、真相を究明する動きが再び活発になるといいですね。

今後のご活躍を祈っています。


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