村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

「そこに生まれる」は英語で?

2016-10-11 13:53:46 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその最後の文の英訳である。

 天吾は一時間ばかり天井を睨みながら、相反する二つの感情のあいだを行き来した。彼は何よりも青豆に会いたかった。それと同時に、青豆と顔を合わせるのがたまらなく怖かった。そこに生まれるかもしれない冷ややかな失望と、ぎこちない沈黙が彼の心をすくませた。
The cold disappointment and uncomfortable silence that might ensue made him shudder.

「生まれる」がensue(後に続く)と訳されている。

「なによりも危険なことだ」は英語で?

2016-10-11 12:57:40 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその最後の文の英訳である。

考えなくてはならないことがたくさんある。判断しなくてはならないことも同じくらいたくさんある。彼女は手探りで拳銃の安全装置をかける。人目につかないところでそれをもう一度ジーンズの背中の部分に挟む。期待しすぎてはいけないと青豆は自分に言い聞かせる。多くを望みすぎてはいけない。あの川奈という名前の住人は、あるいは天吾その人かもしれない。しかし天吾ではないかもしれない。いったん期待が生じると、心はそれをきっかけに独自の動きをとり始める。そしてその期待が裏切られたとき人は失望するし、失望は無力感を呼ぶ。心の隙が生まれ、警戒が手薄になる。今の私にとってそれは何よりも危険なことだ。
And right now, she thought, that’s the last thing I can afford.

「なによりも危険なことだ」がthe last thing I can afford(対処できる最後のことだ)と訳されている。

「手探りで拳銃の安全装置をかける」は英語で?

2016-10-11 12:56:48 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

彼女は手探りで拳銃の安全装置をかける。人目につかないところでそれをもう一度ジーンズの背中の部分に挟む。
She felt in her pocket and reset the safety on the pistol. Then, away from any possible prying eyes, she shoved the pistol in the back of her jeans.

「彼女は手探りで拳銃の安全装置をかける」がShe felt in her pocket and reset the safety on the pistol(ポケットを手で探りピストルの安全装置をリセットする)と訳されている。また、原文にないThen,が追加されている。

「スニーカーの底が音を立てる」?

2016-10-11 12:54:46 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその最後の文の英訳である。

どうすればいいのだろう。青豆は唇を強く噛みしめる。彼女の頭はひとつのサーキットの中をぐるぐると回り続ける。どこにも出口がみつからない。どうすればいいのだろう? しかしいつまでも郵便ボックスの前に立ちすくんでいるわけにはいかない。青豆は心を決め、不愛想なコンクリートの階段を三階まで上る。薄暗い床のところどころには、歳月の経過を示す細かなひびが入っている。スニーカーの底が耳障りな音を立てる。
Her sneakers made a grating noise as she walked.

「底」が訳出されていない。「(靴の)底」だけが音を立てるわけではない。また、原文にないas she walkedが追加されている。

「切れかけた蛍光灯」は英語で?

2016-10-11 12:43:41 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

切れかけた蛍光灯がちりちりという微かな音を立てている。
A fluorescent light on its last legs buzzed above her.

「切れかけた」がon its last legsと訳されている。下は『ランダムハウス英和大辞典』の記述である。

on [or upon] one's [or its] last legs死にかけて;終わりに近づいて;疲れはてて;万策尽きて.