『ギャツビー』の過去の記事を何人かの方にご覧いただいているようで、ご注意がてら、続きを。
もし論文等で引用をされる場合は、それぞれ原著にあたってご確認をお願いいたします。私の側の引用ミスがあると思いますので。
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(81)Here’s another thing I always carry.
もうひとつ、私が肌身離さず持ち歩いているものがある。(村上)
これはもう一つ、ぼくが肌身離さず持っているものですが。(野崎)
もう一つ、いつも持ち歩いているものがあるのですよ。(小川)
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(82)I saw him opening a chest of rubies to ease, with their crimson-lighted depths, the gnawings of his broken heart.
癒えることのない心痛をやわらげるべく、ルビーの詰まった宝石箱を開け、その緋色の光の深みを愛でる彼の姿が目に浮かんだ。(村上)
ルビーの箱を開いて、その深い深紅色の輝きに、失意の胸の痛みをやわらげようとしているギャツビーの姿が髣髴とする。(野崎)
引き出しを開ければルビーのコレクションが深々とした赤い光沢を放っていて、ギャッツビーの心の苦悶をいくらか癒してくれたのかもしれない。(小川)
(コメント)
小川はchestを「引き出し」ととっているが、「[2](ふた付きの頑丈な)大箱, ひつ; 道具箱; 茶箱[3]=CHEST of drawers(→複合語)」『新グローバル英和辞典』ではないか。
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(83)You see, I usually find myself among strangers because I drift here and there trying to forget the sad thing that happened to me.
ごらんのとおり私はおおむねいつも、見知らぬ人々のあいだに身を置いている。ひとところに身を定めることなく、あちらこちらと移ろって暮らしてきたからだよ。過去の切ない出来事を忘れようとしてね。(村上)
ご承知のとおりわたしは、自分の身にふりかかった悲しいできごとを忘れようとあちこちさまよい歩いているものですから、いつもまわりは他人ばかりということになりましてね。(野崎)
たしかに、あまり知り合いの多い人間ではありません。昔の悲しみを忘れようと、あちこち漂流して暮らしておりますので、どこへ行っても知らない人ばかりということになる――。(小川)
(コメント)
(村上)(小川)はto meを訳出していない。
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(84)I was sure the request would be something utterly fantastic and for a moment I was sorry I’d ever set foot upon his overpopulated lawn.
その頼みが通り一遍のものではあるまいということについては、いささかの確信があったから、ギャツビーの屋敷のにぎやかな庭園に足を踏み入れたことを、僕はその瞬間悔やむことになった。(村上)
「お願い」というのは、きっと、何かとてつもないことだろうと思って、ぼくは、彼の人口過剰の芝生に足を踏み入れたことを一瞬後悔した。(野崎)
どんな「お願い」をされるのか、とんでもないことになりそうで、こうと知っていたらパーティ客でごった返す芝生の庭などへ出ていくのではなかったと恨めしくなった。(小川)
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(85)With fenders spread like wings we scattered light through half Astoria—only half, for as we twisted among the pillars of the elevated I heard the familiar ‘jug—jug—SPAT!’ of a motor cycle, and a frantic policeman rode alongside
フェンダーを翼のように広げ、アストリアの半ばまで、我々は光をまき散らしながら進んでいった。そう半ばまでだった。というのは、高架鉄道の支柱のあいだを身をねじるように進んでいるときに、あのお馴染みの「ぱた・ぱた・ぱた」というオートバイのエンジン音を耳にしたからだ。そしていかつい顔つきの警官が車のわきにぴたりとついた。(村上)
フェンダーを翼のようにひろげ、光をまき散らしながら、ぼくたちの車はアストリアを途中まで走り抜けた――途中までである。というのは、ぼくたちが高架線の支柱のあいだを縫うように走って行くと、あの耳なれた「ド、ド、ド、ドッ」というオートバイの音が聞えて、いきり立った警官の姿が横に現われたのだ。(野崎)
大きな自動車はフェンダーを翼のように広げて反射光をまき散らしながら、アストリア近辺を走り抜けた。いや、その半分ほども行ったろうか。高架鉄道の支柱をくぐっていると、あのドドドドッという音を響かせるオートバイの警官が、がむしゃらに追いついてきた。(小川)