村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

日本語はむずかしい?「荷物を広げる」

2016-04-30 19:16:45 | 村上春樹を英語で読む
『スプートニクの恋人』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

でも荷物はいつものように広げられているし、財布もパスポートも残されていたし、部屋の隅には水着や靴下が干したままになっていた。
But her bags were still open, her passport was still in her handbag, her swimsuit and socks drying in a corner of her room.

「荷物はいつものように広げられている」がher bags were still open(鞄がまだ開いていた)と訳されている。
 筆者の読みでは、例えば、「荷物が床に散らばっている」のである。

「小説の語り手が書けること」の日英比較(73)

2016-04-30 10:03:10 | 村上春樹を英語で読む
『スプートニクの恋人』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

すみれは口もとのこわばりを少し崩した。
The tenseness around Sumire’s mouth softened a little.

英文を和訳すると「すみれの口のまわりの緊張が少し柔らかくなった」となり、主語がtensenessになっている。「すみれ」を主語にして、彼女が「崩した」とは、英語頭の語り手には、判断できないから、と考える。
 と、書いたが、この表情の描写に関しては筆者自身よくわかっていない。また、項を改めて考える(予定)。

「キーボードを打っていたから」わかるのか?

2016-04-30 09:59:28 | 村上春樹を英語で読む
『スプートニクの恋人』に次のような箇所がある。下はその英訳である。原文はミュウのせりふである。

すみれはときどき自分の部屋で書きものをしているようだった。パワーブックを開いてぱたぱたとキーボードを打っていたから。
Sometimes Sumire was in her room, writing apparently. I could hear her opening up her PowerBook and clattering away on the keys.

原文にないI could hear(聞こえた)が追加されている。これは、すみれの様子をミュウが見て判断したのではないから、である。
 また、「打っていたから」の「から」は、「書きものをしているようだった」と判断した理由を表していると考えられるが、英訳では「から」は訳出されていない。これについては、項を改めて考えたい。

英語では眼前の状況を、それ以前の過程を推測して言語化しない

2016-04-30 09:56:07 | 村上春樹を英語で読む
『スプートニクの恋人』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

(1)ありきたりの壁につけられた、ごく当たり前のドアだ。
Just an ordinary door, part of an ordinary wall.

英文を和訳すると、「普通の壁の一部の普通のドアだ」となり、「つけられた」が訳出されていない。
 これは、何度も本ブログで扱ってきた、次例の場合と同様であると考える。『1Q84』から。

(2)そして彼の前にはやはり月が浮かんでいる。ただその数は二つに増えている。
The moon was hanging there again, but this time there were two moons, not one.

「増えている」が例えばincreasedなどと訳されていない。英語頭では「眼前の事態」を推測を含めて描写することはしないからである。「眼前の事態」はthere were two moonsである。
 そこで、(1)の場合「つけられた」は「推測」(いくら当然のものであっても)なので、英訳されないのである。

人物描写はその人物が最初に登場したとき?

2016-04-29 16:02:51 | 村上春樹を英語で読む
『スプートニクの恋人』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

水晶玉を前に置いた女がミュウを手招きして呼ぶ。「マドモワゼル、こちらにいらっしゃい。だいじなことですよ。あなたの運命は大きく変わろうとしています」とその大柄な女は言う。
Crystal ball in front of her, the fortune-teller, a largish woman, beckoned to Miu: “Mademoiselle, come here, please. It’s very important. Your fate is about to change.”

「大柄な」が英訳では「手招きして呼ぶ」の前で訳されている。英語頭の訳者には、原文の「大柄な」の位置は許されない?