村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

「ティクルス」?

2016-10-25 18:46:22 | ことばの意味を実感する
あるサイトで、「ベートーヴェン・ティクルス」という表記を見かけました。
 例えば、野球の「チーム」を英語のteamに近く「ティーム」と言ったり、書いたりすると、なんとなく格好いい、と思えるようですが、普通「チクルス」と書く語を「ティクルス」とするのはどうでしょう?
 以前、「ぐっど・もうにんぐ」という題のCDを見かけたことがあります。「もー」と延ばすのを「もう」とすると英語らしくなると思われたのでしょうが、英語のmorningは二重母音ではありません。
 「チクルス」はドイツ語 Zyklusから来ているので、「ティ」が日本人に発音できなかったので「チ」になった「チーム」とは事情が異なります。

時制の違い

2016-10-25 13:42:39 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその最後の文の英訳である。

 看護婦は首を振った。「お父様はここに入られてすぐ、住民票と本籍地を市川市から千倉町に移されたの。いざというときに手間が省けるだろうと」
「手回しがいい」と天吾は感心して言った。まるで最初からここで死ぬことになるとわかっていたみたいだ。
「本当に」と看護婦は言った。「そこまでなさる方はあまりいません」
No one else has ever done that.

英訳は現在完了時制になっていて、和訳すると、「ほかのだれもそのようにはしませんでした」となる。
 原文の場合、「あまりいませんでした」とするより気持ちのこもった表現になって、お父さんの行動に感心しているようすが表現される。以前扱った「どうして番号で答えるの?」と同様と考えられる。

「薬品の匂いが残っていた」は「残っていた」?

2016-10-25 13:38:11 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

部屋にはまだ薬品の匂いが微かに残っていた。病人が残していった息づかいをかぎ取ることさえできた。
The room still had a medicinal smell, and you could still detect the breath of a sick person hanging in the air.

何度か本ブログで指摘したが、「残っていた」「残していった」は推測なので、英語頭の英訳者には言語化できない。また、「部屋には」がhanging in the airと訳されている。