東北地方太平洋沖地震による津波が大規模だった機序について1⃣

2022-06-27 15:29:00 | 地球物理

まずは2012に出された論文で巨大津波メカニズムに関する論文(脚注1)である。

この論文の要旨は、極めて大きくプレートがずれた(水平距離で50m)。これが長時間、長周期で起こりこれによる海底変動が、海水を大きく揺り動かし、2つの波のピークを作り、これが合成されて大津波を発生させたということである

以下本文から引用する(1部本文通りでありません)

「宮城県沖では通常の海溝型地震と巨大地震の 2つのサイクルが存在する。海溝型地震は、プレート境界で完全に断層が滑り切るので はなく、滑り残る部分ができる、ゆっくりとした(エネルギー) (silent earthquake)で、巨大地震は、滑り残りの部分の歪みを数100年 蓄積し一気に解放されたと考えられる、いわば 「スーパーサイクル」として発生する。東北地方太平洋沖地震は後者であった。」

「東北地方太平洋沖地震の発生機構も少しずつ明らかに なっている。日本海溝寄りの領域での断層滑り が約 100 秒間も続いたことが挙げられる(八木、 2011)脚注(2)。そこでは、同じ領域が長く滑り続けた ことで断層滑りが拡大し、さらにいくつかの破 (断層滑りのことだろう)の段階が存在していると分析されている。第 一段階での断層滑りは、震源の宮城県沖から始 まり 20 ~ 30 秒ほどで、想定宮城県沖のエリア に到達していた。しかし、その後も破壊は継続 し、さらに 30 ~ 40 秒で様相が変わったようで ある。三陸沖南部海溝寄りから日本海溝寄りに 断層滑りが拡大し(東側に広がったということだろう)、この 10 秒間で 8.9 m の巨大 滑りが発生したと推定されている。この結果、 同じ場所で100秒も滑り続け、平均で30 m以上の断層すべりが生じたことになる(国土地理 院が推定した最大値は 59.2 m に及んでいる)

「東北地方太平洋沖地震のような巨大地震が海底で生じると津 波が発生する(首藤ら2007) (脚注3)。いま、特に津 波波形を利用した断層運動の推定(例えば、藤 井・佐竹、2011;東北大学、2011)(脚注4)が行われて いるが、特徴としては、宮城・福島沖での海底 変化(断層のすべり量)が大きいこと、しかも、日本海溝沿いの値が大きいことが示唆され ている。深い海域で大きな海底変化が生じる と、それだけ大きな規模の津波が発生する。」

「図 2 に示されるように釜石沖での海底津波計の記録は興味深く、30 分程度の押し波の成分(2 m 程度)の上に、分程度の短い成分(3 m 程度が重なった波形が見られる。この2つの成分が三陸沖に伝播する中で、押し のピーク(波の山)の位相を一致させて6 m の波高を発生させたのだろうと考えられる。」

GPS 波浪 計は、2段階の津波の発生を捉ていた。地震発生から 10 分後にはゆっくりとした海面の上 昇がみられ、そのさらに約 10 分後には急激な 水位上昇が生じており、ここでも2段階の津波 が来襲したことが分かる。第1段階の津波は、 1 m程度の波高で周期が1時間程度であると推 定されるが、第2段階の津波は、波高にして 3 m 以上、周期が 10 分以下であると読み取れる。 前者は M9 の巨大地震によって発生する通常の 津波であるのに対し、後者は異例な規模の津波 である。この津波の発生メカニズムについては、 現在(この論文が出たのは2012)、様々な解析がなされ、議論されていると ころであるが、海溝沿いの幅の狭い範囲で急激 な海面上昇があったものと考えられる。」
 
 

1)東北地方太平洋沖地震における津波発生のメカニズム今村文彦 、日本学術会議連携会員、東北大学災 害科学国際研究所教授・副所長 専門:津波工学

2) 八木勇治, 東北地方太平洋沖地震「地震波形から見た震源像」, パリティ , vol. 26, 11 月号 , pp. 28-33, 2011.

3)首藤伸夫ら. 津波の事典, 朝倉書店, 2007
 
4)藤井雄士郎, 佐竹健治. 2011年3月11日東北地方太平洋沖地 震の津波波源, 2011, http://iisee.kenken.go.jp/staff/fujii/ OffTohokuPacific2011/tsunami_ja.html
東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター津波工学研究室, 2011, http://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp/ hokusai3/J/events/tohoku_2011/model/110610 東 北 大 vers1.0.pdf
 
 
東北地方太平洋沖地震による津波が大規模だった機序について2⃣に続く
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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東北地方太平洋沖地震による津波が大規模だった機序について2⃣

2022-06-25 19:55:00 | 地球物理

次はなぜこれほど大きくプレートがずれたのかについての論文である。

national geographicサイトから

3.11津波、巨大化の原因は滑りやすい粘土層であることを解明

「東北地方太平洋沖地震で巨大な津波が発生した原因は、プレートの境界にある滑りやすい粘土層にあることを、JAMSTEC(海洋研究開発機構)と筑波大学、京都大学などの研究チームがつきとめた。これは2012年に地球深部探査船「ちきゅう」で震源域の海底を掘削調査した成果で、126日付の米『サイエンス』誌に関連論文(脚注)3本が掲載された。

 


(提供:JAMSTEC

 この地震では、陸側のプレートの先端部分が水平方向に50メートル、垂直方向に10メートルも大きく滑り上がったことが、大津波の直接の原因であることがわかっている。これは「プレート先端は大滑りしない」とする従来説に逆らう珍しい現象だった
 今回、研究チームは「ちきゅう」で宮城県沖、水深7000メートルの深海底をさらに850メートルにわたり掘削、実際にこの大滑りを引き起こした海底下の断層を採集・分析することで、その要因をつきとめた。

スメクタイトは粘土鉱物の一種。東北沖(日本海溝)ではスメクタイトの割合が飛びぬけて多い

断層のサンプルを筑波大学の氏家恒太郎准教授が分析したところ、その78%がスメクタイトと呼ばれる粘土でできていた。スメクタイトは粘土鉱物で、保湿性があり滑りやすい。火山灰などが海底に堆積し、変質してできたものと考えられている。太平洋プレートが陸側プレートの下にもぐり込むにつれ、この粘土層が固い両プレートの境界にサンドイッチされた状態になっていた。地震が起きれば大きく滑る条件は整っていたわけだ。

 氏家さんはさらに、滑りを増幅させたもう一つの要因もつきとめた。「地震による摩擦熱によって、プレート境界にある粘土層が、まるで水の膜のように滑りやすくなったんです」
 この現象を氏家さんは「Thermal Pressurization(摩擦発熱による間隙水圧上昇)」と呼んでいる。粘土層を挟む両プレートが水を通しにくいのに対して、スメクタイトの粘土層は水分を多く含んでいる。それが地震の発生とともに摩擦熱を受けると、含まれた水分が膨張。水分は上の層にも下の層にも吸収されず、粘土層がまるで流体のように振る舞ったという。巨大なプレートの間に水の膜が挟まれている様子を想像してほしい。あの津波を引き起こした50メートルにもわたる大滑りは、もともと滑りやすい粘土と、摩擦熱による流体化によって起きたのだ。」

 

脚注:J-sageで検索した。3つのうちの1つはこれだと思う。他の2論文はみつけられなかった。

東北地方太平洋沖地震後の緊急調査削(IODP  343 次航海:J-FAST)成果

山田泰広 1, 2 Jim Mori3 氏家恒太郎 1, 4  為人 5, 6 小平秀一 7

1.海洋研究開発機構海洋掘削科学研究開発セン ター

2. 高知大学理学研究科

3. 京都大学防災研究所

4. 筑波大学生命環境系

5. 京都大学大学院工学研究科

6. 海洋研究開発機構高知コア研究所

7. 海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発セ ンター

地質学雑誌  124   1  67–76 ページ,2018  1 

 

 

 

 

 

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