ケイの読書日記

個人が書く書評

宮部みゆき 「火車」 新潮文庫

2017-09-15 13:12:00 | 宮部みゆき
 私は見てないが、TVドラマ化されてるのは知っていた。宮部みゆきの作品は、当たりハズレが少なく、どれを読んでも面白い。その中でも、この『火車』は傑作と聞いていたので、期待が高まる。

 
 休職中の刑事・本間は、遠縁の男性から、彼のフィアンセ・関根彰子を探してくれと頼まれる。彰子は、銀行員の彼と結婚するにあたり銀行系カードを作ろうと申し込んだが、できなかった。彼女は数年前に自己破産してブラックリストに載っていたのだ。
 驚いた男性が彰子に説明を求めると、彼女は翌日、姿を消した。徹底的に痕跡を消して。

 どうしても信じられない。何かの間違いだ。絶対に会って一度話し合いたい。そう強く願う男性の依頼を受け、本間は、彰子の勤め先に残されている履歴書から手がかりを得て調べ始めるが、驚くべきことが判明する。その経歴は一切でたらめ、それどころか、関根彰子は、関根彰子ではなかった。誰かが身寄りのいない関根彰子を勝手に名乗っていたのだ。
 一体彼女は何者なのか? そして、本物の関根彰子はいったいどこに消えたのか?


 こういった『別人に成りすます』は、生活に困窮した人がわずかなお金と交換に、自分の戸籍を売り飛ばすことで起こると思っていた。だから、世捨て人みたいにひっそりと生活している年配の男性、というイメージがあった。
 こういった若いキレイな女性が別人になりすます、というのは非常に難しいんじゃないだろうか?

 もちろん、相手を調べ、失踪しても誰も探さないような人に狙いをさだめ、巧妙に罠を仕掛けるのだろうが、もし別人になりすます事に成功しても、この狭い日本、どっかで思いもがけない人に出会うんじゃないだろうか?「あら、〇〇さん、おひさしぶり。ほら、私よ私。中学の時、卓球部で一緒だった」なんて声を掛けられる事もあるかも…。
 今回は、身元がばれそうになったら、結婚の約束をした男をほっぽり出して逃げ出すだけでよかったが、もし、別人の名で結婚し、家庭を持ち、子どももいたら? 子どもを置いて逃げるの?

 偽の関根彰子が、どんな手段を使っても、他人の戸籍を乗っ取らなくては自分の未来はないという苦境は理解できる。しかし、あまりにもリスキー。
 だったら…別の手段。警察や弁護士が当てにならないならば…。
 DV夫から身を隠してくれるNPOとか、どっかの宗教団体に駆け込むとか。

 こう書いた後、佐高信の解説を読んでいたら、なるほどと納得の文章があった。あの、山梨県上九一色村のオウム真理教のサティアンにいる信者たちの中に、多重債務者が多かったらしい。なるほど、取り立てヤクザたちも、あそこには近づきたくなかったのか。だから、借金でにっちもさっちもいかず、取り立て屋から追いかけられていた人たちが、オウム信者となってあそこに逃げ込んでいたのだ。

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