日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

タクシーおじさんの商売っ気

2009年11月01日 | お仕事な日々
仕事をする気はあったのだが、
いいのが見つからず、休みにするつもりでいた。

が、前日の夜7時を回って、仕事依頼の電話がリンリン。

でもね、でもね、
いくら近くの仕事先でも、
「あ、揚げ物は……できません……カンベンしてください……」
と、とても幼稚だと思われても仕方がない理由で、
一旦断ったの(トラウマがありまして、揚げ物作れませんねん)。

でもね、でもね、
「じゃ、すでに決まっている揚げ物以外の仕事をとっている人と、
交渉して、仕事を交換してもらいます。
揚げ物じゃなければ、行ってくれるんでしょ?ねっ!ねっ!」

という、派遣会社のおねぇさんの押しがありまして。

また、私のために、
自分が決めた仕事ではなく、
揚げ物の仕事へ行く人の気持ちを考えると、
心苦しくなりまして。

あるコーヒー会社の仕事を引き受けた。
行く先は、和歌山。

妥協するには、
あまりにも南の地だった。ひぇぇぇえええぇぇ。

     ★

JR和歌山駅の改札を潜り抜けると、
観光の匂いがした。

その駅の佇まいや、周辺が。
なんとなく、私には。

どう頑張って調べても、
その仕事先へ行くのには、
バスでは時間が合わなかった。

タクシーに乗る。

私は、自分がどんな仕事をしているか説明をし、
「帰りはバスにしようと思っているんですけどね、
頻繁にでているんですかねぇ~」と、探りを入れた。

行きはOKなのだけど、
帰りのタクシー代は、交通費として、支払われないからだ。

「さぁ、知らないけど、多分少ないんじゃないかなぁ。
特に、日曜日だし」

だろうなぁ……。

「タクシー乗り場はあるんですかねぇ」

特急券の代金も、交通費として支払われない。
あくまで、1時間に3本しかない、快速急行に乗らなければならないので、
例えバスがあったとしても、
その乗換がスムーズに行かなければ、
翌日の仕事も早いので、やはり、
タクシーで妥協するしかないだろうと、覚悟はしていたのだが、

タクシーだって、捕まえられるのかどうか……。

「あるにはあるけど、最近、厳しくなってね。
走っているかどうか……。
お客さん、何時に仕事終わるの?6時?
今日、日曜だからねぇ。早めに仕事切り上げるからなぁ。
その乗り場に、タクシーが止まっているかどうかは、
不確実だなぁ」

あぁ……おうちに帰りたい。
仕事をする前の段階から、望郷の念が、じわり。

6時と言っても、後片付けがあるから、
店を出られるのは、早くても6時15分。

できれば、1時間に3本しかない快速急行の2本目、
6時37分には、乗りたい。

「そりゃ、お客さん、タクシーでも、ギリギリだわ」

そうなんだ……。

「じゃあ、もう諦めて、6時57分の3本目の快速急行に乗れるような、
バスの時間があることを、祈ります……」

と、言った時、
タクシーのおじさんの、商売っ気がうずいたらしく。

「おっちゃん、電話をくれたら、迎えにきたろうか?」

と、言ってきた。

私はためらった。
もしも丁度いいタイミングのバスがあったり、
すでにタクシー乗り場にタクシーがいた場合、
この約束を結んだら、どう展開していくのか、
想像がつかなかったからだ。

少し考えた末、

「もしも、6時37分の電車に間に合うように、
飛ばしてくれるって言うんなら……」

と、いうと、

「じゃ、仕事の後片付けを早くして、連絡をくれて可能なら、
迎えにいったるわ」

と言ってきた。

具体的には、6時15分までに連絡を、と、いうことで。

お店に着いたとき、
タクシーのおっちゃんを待たせて、
念のために、バスの時刻を確認した。

おそらく乗れるであろう、バスの時刻は、6時21分。
あちらこちらを蛇行しながら、
バスは進むから、おそらく、6時37分の電車には間に合わないと、
タクシーのおっちゃんは、断言した。

私は、その時の状況が、全く想像できない不安があったが、
タクシーのおじさんと、ケータイ番号のメモを交換し合った。

     ★

こんな奇抜なことをする日は、決まって雨だ。雨女。

昼からは、「ザーッ」という文字が、
ブルブル震えているかのような、
激しい雨が降った。

郊外の、車でなくっちゃ、
買い物に来れそうにない、
巨大スーパーの中は、寒々しいほど、人が少なかった。

帰りたい……。
望郷の念も濡れる街角。

私は、多少反則なのだが、
「遠いところからきているので、バスの時間の関係上、
早めに後片付けを始めさせて欲しい。
お客さんも、この分だと夕方も見込めないし」と、
担当者に願い出る。
よくあることなのだろう。担当者さんは、あっさりOKをくれた。

もう、5時半の段階から、後片付けをし始める。

それでも、コーヒーを淹れるための機械を洗ったり、
派遣会社へ送り返す手配や、
特設の試食台などを破壊する作業は、
思った以上に時間がかかり、
気がつけば、6時10分となっていた。

あと5分、余裕があると思って、
財布の中にあるタクシーのおっちゃんのケータイ番号を書いた、
メモ用紙を探す。

が、ない!ないないない!

折り畳み傘を開く余裕も失って、
焦りながら、店から歩き出しながら、
濡れながら、探す。

黒いジャンバーが濡れて、
黒マグロのようなテカリを持ち始めた時、
ズボンのポケットから、ようやくそれを見つけ、
電話をかけたときは、6時17分。
ほんの2分オーバー。

まさか、

「連絡遅いわ!今からそっち行っても、6時37分のには、
おっちゃん、よう間に合わせられへんわ!」

と、言われるとは思わなかった。

どうやら、この店付近で、流して待っててくれてたわけではなかったらしく。

なんやそれぇ~、
おっちゃん、ケーサンしときぃやぁ~!!
と、すっかり黒マグロの私は、
ツッコマずには、いられなかったが、
こっちにも、全く非がないとは言えないので、

「じゃいいです。バスで帰ります」

と、あっさり引き下がった。

中途半端に、希望を持った分、
バスに乗って、JR和歌山駅について、
次の快速急行まで、15分程待つと知ったとき、
味あわなくてもいい悔しさがあった。

結局、6時57分……7時前の電車に乗って、
ぐぅぐぅお腹を鳴らしながら、
JR和歌山駅を後にした。

さらに、日根野で、
新今宮で線路妨害があったということで、
10分ほど電車が出発せず。

ヘトヘトになってとうとう、
最寄り駅まで車で夫に迎えにきてもらったのだが、

「ビデオ返しに行くから、立ち寄るで」

と、これまた遠方まで、ドライブがてら走られて。

「な、何か、食べさせて……」と懇願したのは言うまでもなく。

今度和歌山へ行くときは、
仕事ではなく、
双子のパンダちゃんを見に行くときだと、
心の底から、決めた。

最新の画像もっと見る