* 「その1」はこちら
ライブドアのニッポン放送株取得に対抗するためにニッポン放送がフジテレビに新株予約権発行をおこなった。
新株予約権の目的(発行する最大株式数)は4,720万株、新株予約権の行使価格はTOB価格と同じ5,950円、これにより調達する資金は最大2,967億円になる。
(新株予約権の対価(オプション料)等の詳細は省略)
調達資金の使途は「新株予約権の行使は、新株予約権者の判断によるため、現時点において払込みの金額および時期を資金計画に織り込むことは困難であります。したがって、具体的な金額については、行使による払込みのなされた時点の状況に応じて決定いたします。」
としている。
これに対し、ライブドアは新株発行差止請求仮処分を提起するとのこと。
僕の意見は「その1」のとおり、筋を通してきっちりとやってほしい、というものなので、ライブドアは新株発行差止請求をやってるのには賛成。
(一方で、僕は堀江社長自体は人間的に魅力があるとは思っていないことは、さらに前に言ったとおり)
で、新株発行差止請求の要件は
① 会社が法令または定款に違反し
または
② 著しく不公正な方法で新株を発行
した場合に認められる(商法280条の10)
まずは法令違反。この場合、新株が「特に有利な発行価額による発行」(商法280条の2第2項)といえるかどうかが問題になる。
そもそも会社が株主全員でなく特定の株主や第三者に対して株式を発行する場合には、既存株主の権利を保護しなければいけない。
たとえば、時価が100円で1万株の株式を発行済みの会社が株式を第三者にさらに1万株、しかも50円で発行してしまうと、株価は、(発行前の時価総額(100万円)に払い込まれた資本金(50万円)を足して発行後の2万株で割った)75円になってしまう。
商法では、このように特に有利な発行価額で新株を第三者に割り当てる場合は、株主総会の特別決議が必要とされている。
逆にいうと、今回はニッポン放送の取締役会だけで決めたので、「特に有利な発行価額」=割安ではない、というのがニッポン放送の主張ということになる。
ただ、何をもって「特に有利な発行価額」とするかは難しく、通常であれば時価を基準とするのだが、今回のように株価が高騰している場合は、そうした異常な株価の影響を受けない段階の市場価格を基準とすべき(具体的には過去6ヶ月間の平均株価の90%以上、という証券業協会の自主基準に沿っていれば有利な発行価額とはいえない)というのが判例のようだ。
この点からは、今回の新株発行価額はTOB価格と同じなので、一応の合理性はありそう。
つぎに、新株発行が「著しく不公正な方法」にあたるかどうか。
この「著しく不公正な方法」というのは、上で述べた発行価格が適正であったとしても資金調達の必要性がなければならないとされている。
要するに無駄に株式を水増しするのはダメ、ということ(=新規投資をしないということは配当可能利益も増えないので既存株主の取り分が減る)。
裁判例は、新株発行の主要な目的が資金調達でなく乗っ取り防止である場合は不公正発行に当たる(「主要目的ルール」)としているが、実際に不当目的が動機だったとはめったに認定しない。
これは、従来の株式買占めが、会社の支配権取得が真の目的でなく、会社関係者による株式の高値買取をねらったもの(いわゆるグリーンメイラー)がほとんどだったので、裁判所も会社の対抗措置を容認せざるを得なかったからで、買占め側が真に支配権獲得を目的とする株式取得を行っている時点で会社側が第三者割り当ての方法による新株発行を行えば原則として不公正な方法にあたる、というという学説が有力(江頭憲二郎「株式会社法・有限会社法 三訂版」p583~)
一方これに対して、資金調達の目的さえあれば不公正な発行に当たらない、という学説もある。
これの代表が河本一郎神戸大学名誉教授。
面白いのは、河本名誉教授は、今回ライブドアがニッポン放送株を大量に買い付けて問題になった東京証券取引所時間外取引システムが「市場内取引」であり、TOB規制にあたらない、とお墨付きを与えたひとりだ、ということ。ちょい皮肉。
さて、今回の新株引き受け権割り当ては明らかに乗っ取り対策である。
ニッポン放送も資金使途は未定、と言っている。
発行予定株式数が現在の発行済み株式総数より多い、つまり資本を倍にしますということ。
これは現在の3,200万株のうちフジテレビがTOBで買える目処が立っている25%以外を全部ライブドアに買われてしまったとしても(その場合ライブドアは2,400万株)、ライブドアに株主総会で特別決議に拒否権を行使させないように持ち株比率を1/3未満にしてしまおう(2,400÷1/3=7,200に対して3,200+4,700=7,900)という逆算なのだろう。
堀江社長もたいがい大人気ないが、ここまで大規模に新株発行するのも相当大人気ないと思う。
要はニッポン放送は、ライブドアはグリーンメイラーだと決め付けての一勝負に出たわけだ。
そうなら大人気ないなんて言っていられない。
しかしフジテレビは(実際にはそこまでは行使しないだろうけど)最大3,000億円をつぎ込んでも、ニッポン放送をグループにとどめておく必要性について、自分の株主に説明がつくのだろうか?
現に、今日はフジテレビの株価も下落している。
こうなったら「大人気ない」の元祖である堀江社長には、とことんやってもらいたい。
(余談)
堀江社長は「カネがで買えないものはない」という主義の人なんだから、「命がけで」なんて言わずにもっと功利的に立ち回るほうが「らしい」とも言える。
具体的には
①株価の下落に応じてニッポン放送株をさらに買い増して、フジテレビ側を(新株割当権を実際に行使しなきゃ、と)慌てさせると同時に株価の取得簿価を下げる(ナンピン買い)。
②そして、取得簿価がニッポン放送のTOB価格近くまで下がったら、自分の持ち株をTOBに応じてフジテレビに買わせて損切りして手仕舞いする。
③売却代金でリーマンに割り当てた転換社債を買入償還して(ここも若干損が出るだろうけど買入償還条項がないってことはないだろう)そちらも手仕舞いする。
④同時に下がったライブドア株を会社で自己株取得をして株価維持をはかる。
⑤株価が上がったら個人保有株を担保にまた資金調達をして、今度は株価の下がったフジテレビにTOBをかける
とか、それくらい大暴れして欲しいものだ。
(これは、ライブドアの株主の立場は全然考えていませんけどね)
* この記事は一度アップロードしたものを推敲のため削除して新規投稿しなおしたため、以前の記事のURLには該当する記事はなくなっています。ご迷惑をおかけした方がいらっしゃると思いますが、ここにお詫び申し上げます。
ライブドアのニッポン放送株取得に対抗するためにニッポン放送がフジテレビに新株予約権発行をおこなった。
新株予約権の目的(発行する最大株式数)は4,720万株、新株予約権の行使価格はTOB価格と同じ5,950円、これにより調達する資金は最大2,967億円になる。
(新株予約権の対価(オプション料)等の詳細は省略)
調達資金の使途は「新株予約権の行使は、新株予約権者の判断によるため、現時点において払込みの金額および時期を資金計画に織り込むことは困難であります。したがって、具体的な金額については、行使による払込みのなされた時点の状況に応じて決定いたします。」
としている。
これに対し、ライブドアは新株発行差止請求仮処分を提起するとのこと。
僕の意見は「その1」のとおり、筋を通してきっちりとやってほしい、というものなので、ライブドアは新株発行差止請求をやってるのには賛成。
(一方で、僕は堀江社長自体は人間的に魅力があるとは思っていないことは、さらに前に言ったとおり)
で、新株発行差止請求の要件は
① 会社が法令または定款に違反し
または
② 著しく不公正な方法で新株を発行
した場合に認められる(商法280条の10)
まずは法令違反。この場合、新株が「特に有利な発行価額による発行」(商法280条の2第2項)といえるかどうかが問題になる。
そもそも会社が株主全員でなく特定の株主や第三者に対して株式を発行する場合には、既存株主の権利を保護しなければいけない。
たとえば、時価が100円で1万株の株式を発行済みの会社が株式を第三者にさらに1万株、しかも50円で発行してしまうと、株価は、(発行前の時価総額(100万円)に払い込まれた資本金(50万円)を足して発行後の2万株で割った)75円になってしまう。
商法では、このように特に有利な発行価額で新株を第三者に割り当てる場合は、株主総会の特別決議が必要とされている。
逆にいうと、今回はニッポン放送の取締役会だけで決めたので、「特に有利な発行価額」=割安ではない、というのがニッポン放送の主張ということになる。
ただ、何をもって「特に有利な発行価額」とするかは難しく、通常であれば時価を基準とするのだが、今回のように株価が高騰している場合は、そうした異常な株価の影響を受けない段階の市場価格を基準とすべき(具体的には過去6ヶ月間の平均株価の90%以上、という証券業協会の自主基準に沿っていれば有利な発行価額とはいえない)というのが判例のようだ。
この点からは、今回の新株発行価額はTOB価格と同じなので、一応の合理性はありそう。
つぎに、新株発行が「著しく不公正な方法」にあたるかどうか。
この「著しく不公正な方法」というのは、上で述べた発行価格が適正であったとしても資金調達の必要性がなければならないとされている。
要するに無駄に株式を水増しするのはダメ、ということ(=新規投資をしないということは配当可能利益も増えないので既存株主の取り分が減る)。
裁判例は、新株発行の主要な目的が資金調達でなく乗っ取り防止である場合は不公正発行に当たる(「主要目的ルール」)としているが、実際に不当目的が動機だったとはめったに認定しない。
これは、従来の株式買占めが、会社の支配権取得が真の目的でなく、会社関係者による株式の高値買取をねらったもの(いわゆるグリーンメイラー)がほとんどだったので、裁判所も会社の対抗措置を容認せざるを得なかったからで、買占め側が真に支配権獲得を目的とする株式取得を行っている時点で会社側が第三者割り当ての方法による新株発行を行えば原則として不公正な方法にあたる、というという学説が有力(江頭憲二郎「株式会社法・有限会社法 三訂版」p583~)
一方これに対して、資金調達の目的さえあれば不公正な発行に当たらない、という学説もある。
これの代表が河本一郎神戸大学名誉教授。
面白いのは、河本名誉教授は、今回ライブドアがニッポン放送株を大量に買い付けて問題になった東京証券取引所時間外取引システムが「市場内取引」であり、TOB規制にあたらない、とお墨付きを与えたひとりだ、ということ。ちょい皮肉。
さて、今回の新株引き受け権割り当ては明らかに乗っ取り対策である。
ニッポン放送も資金使途は未定、と言っている。
発行予定株式数が現在の発行済み株式総数より多い、つまり資本を倍にしますということ。
これは現在の3,200万株のうちフジテレビがTOBで買える目処が立っている25%以外を全部ライブドアに買われてしまったとしても(その場合ライブドアは2,400万株)、ライブドアに株主総会で特別決議に拒否権を行使させないように持ち株比率を1/3未満にしてしまおう(2,400÷1/3=7,200に対して3,200+4,700=7,900)という逆算なのだろう。
堀江社長もたいがい大人気ないが、ここまで大規模に新株発行するのも相当大人気ないと思う。
要はニッポン放送は、ライブドアはグリーンメイラーだと決め付けての一勝負に出たわけだ。
そうなら大人気ないなんて言っていられない。
しかしフジテレビは(実際にはそこまでは行使しないだろうけど)最大3,000億円をつぎ込んでも、ニッポン放送をグループにとどめておく必要性について、自分の株主に説明がつくのだろうか?
現に、今日はフジテレビの株価も下落している。
こうなったら「大人気ない」の元祖である堀江社長には、とことんやってもらいたい。
(余談)
堀江社長は「カネがで買えないものはない」という主義の人なんだから、「命がけで」なんて言わずにもっと功利的に立ち回るほうが「らしい」とも言える。
具体的には
①株価の下落に応じてニッポン放送株をさらに買い増して、フジテレビ側を(新株割当権を実際に行使しなきゃ、と)慌てさせると同時に株価の取得簿価を下げる(ナンピン買い)。
②そして、取得簿価がニッポン放送のTOB価格近くまで下がったら、自分の持ち株をTOBに応じてフジテレビに買わせて損切りして手仕舞いする。
③売却代金でリーマンに割り当てた転換社債を買入償還して(ここも若干損が出るだろうけど買入償還条項がないってことはないだろう)そちらも手仕舞いする。
④同時に下がったライブドア株を会社で自己株取得をして株価維持をはかる。
⑤株価が上がったら個人保有株を担保にまた資金調達をして、今度は株価の下がったフジテレビにTOBをかける
とか、それくらい大暴れして欲しいものだ。
(これは、ライブドアの株主の立場は全然考えていませんけどね)
* この記事は一度アップロードしたものを推敲のため削除して新規投稿しなおしたため、以前の記事のURLには該当する記事はなくなっています。ご迷惑をおかけした方がいらっしゃると思いますが、ここにお詫び申し上げます。