モケーレムベンベ井澤聖一の「浮世の散歩」

モケーレムベンベのボーカル、井澤聖一のブログ

ゆるやかな別れ

2018-09-03 13:58:55 | Weblog
おつけもの新時代の終焉である。

以前からブログに書いてたように、
ここ最近、拙者の唯一の友はぬか床であった。

発酵しすぎたり、水分が増えたり。
その度、塩を足したり、キッチンペーパーで吸い取ってみたり。

毎日欠かさず底からかき混ぜ、
毎日欠かさずぬか漬けを食べた。

おだやかな、しあわせな暮らしであった。


そんな関係に亀裂が生じたのは、先日のライブの日のこと。

その日の会場は空調の調子が悪く、ステージ上は灼熱。
代謝の悪さがチャームポイントの拙者もさすがに汗だく。
この熱いエモーション! 燃えるマイソウル!!
うおー!! どりゃー!!!
みたいなパフォーマンスをしそうになるところを必死でなだめ、

まてまて、落ちつくのじゃ。
熱いのは室温、燃えているのは体脂肪かなんかじゃ。
そのソウルは客席には届かぬ。
エモに乗せられるなかれ、エモを音に乗せるのじゃ。

と、丁寧に演奏しきった。
よいライブだったと思う。

ステージを終えた拙者は、珍しくTシャツがびっしょびしょ。
ふっふっふ。しかし案ずるな。
拙者こう見えてわりと無臭の男。
そして除菌強めの洗剤により、部屋干しでも臭わないTシャツ。

いかに灼熱のステージと言えども、
我が鉄壁の清潔感を損なうことは、




……………




ば、



ばかな、




我がTシャツからかすかにたちのぼる、

この臭いは、




この臭いは。




部屋干しのTシャツにうっすらと染みついたか、

あるいはぬか漬けばかり食べすぎて、汗のほうに臭いが出たか、

それは、まごうことなき、
我が友ぬか床の臭いであった。

おつけもの新時代の終焉である。



いかに唯一の友と言えど、ロックミュージシャンが臭くなるとあっては、
もはや天秤にかけようもない。

さらばぬか床。しかし捨てるのはしのびない。
食材に対する敬意はいつも大切にしているところであるし、
ましてやマイベストフレンド、ぬか床である。

それ以来毎日、北九州の郷土料理『ぬか炊き』が我が家の食卓に上ることとなった。
ぬか床を味噌のように使ってサバやいわしなどを煮る、おふくろ感満載の料理である。

ぬか床がもつ複雑な旨味。
いままで数えきれぬほど漬けてきた野菜たちの、
共に過ごした日々の旨味。

少しずつ、少しずつ、
友の残量は減っていく。
もうそこにぬかが足されることはない。

終わる時の見えた、ゆるやかな別れ。
塩はもう足した覚えはないのに。



孤独の夜はすぐそこにせまる。
すっかり我が血肉になった友が言う。


今 先が暗いのは、光のやろうがのろますぎるからさ。
そんなのは置いてけよ。
君はその先を見てろよ。

大丈夫だ。気にすんな。
孤独を知ったあとならきっと、
どんな場所にだって行けるさ。



さらばマイフレンド。
ぬか床フォーエバー。