ひまわり博士のウンチク

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棟田博『サイパンから来た列車』と倉本聰『歸國』

2012年12月31日 | 本と雑誌
 倉本聰の『歸國』は、2010年にTBSの制作で放送されたドラマで、棟田博の『サイパンから来た列車』をヒントに脚本が書かれたという。
 戦死した兵達が、列車で現代の東京駅にやって来て、終電車が出てから始発が走り出す前のわずか数時間を過ごすという設定の物語である。
 
Saipan
 棟田博『サイパンから来た列車』は、神保町の古本屋の100円ボックスの中に、あと数日もほっておかれたら古紙扱いにされてしまいそうな状態で投げ込まれていたのを救出した。
 1956年に出版された新書版で、発行元は「大日本雄弁会講談社」とある。現在の「講談社」の旧称である。240頁ほどで定価が140円。今の物価水準からすれば、1000円以上になる。当時,岩波文庫が価格を星の数で示していて、星一つが40円。現在500円から600円する200頁程度の文庫が、星二つの80円ほどだった時代である。
 
 「サイパンから来た列車」はこの本に収録されている40頁ほどの短編である。ウィキペディアによると、倉本聰はこの小説に「感銘を受け50年以上温めてきた」とあるが、ドラマを見る限り、感銘を受けたと言うよりは「アイデアのヒントを得た」と言った方が近いように感じる。
 原作は、深夜東京駅についた列車から降りてきた「英霊」達が、10年後の東京の復興に驚きながら、縁のあった人々の現在を訪ね歩く。年取った元女房に涙を流し、立派に成長した息子に笑みがほころぶ。出世したものもいれば実を持ち崩してこそ泥になった知り合いもいた。
 要はそれだけの小説で、ドラマチックな出来事はない。ただ、列車に乗って「英霊」達が東京駅に到着するという発想はユニークで、倉本聰はそれをもとに50年もの間構想を練ってきた。
 
Kikoku
 
 大きな事件も感動的な出来事もない原作と比べ、ドラマの『歸國』は実によくできていた。当然、戦後10年と60年では「英霊」達にとって大違いで、そのギャップは一層生半可なものではない。人々の精神は大きく変化し、価値観は彼等にはまったく受け入れられないほどだった。しかし、ある程度の「事前学習」があったのだろうか、彼等が極端に慌てたようすはない。まあ、その辺を描くと物語がごちゃごちゃになるので、脚本の段階で調整したのだろう。
 ドラマは大きく二つの流れを持つ。一つは、ギャップを受け入れることが出来ない人間達の物語である。その一人、ビートたけし演じる大宮上等兵は、仕事優先で親の死に目にあわないどころか,葬儀も他人まかせにする甥を銃剣で刺殺してしまう。
 もう一つは、音大生だった当時に召集され、年老いた恋人のもとを訪れ、今も変わらぬ思いにカタルシスを得て帰っていく、自らの死を受け入れる人々だ。
 前者はドラマチックで衝撃的だが、なぜか穏やかな後者に感銘を受けた。
 戦後の日本が、経済的な成長とともに失っていった大切なものを、倉本聰は突きつけている。不景気なこの時代、景気回復は優先課題だが、日本国民の多くが経済最優先になり、人間の心を失いつつあることに警鐘を鳴らす。
 
           ◆

 今日は大晦日。明日からは新しい年が始まる。それにしても1年の経つのが早い。
 我が家は今年1月に義父が亡くなり喪中で、プライベートでは正月の祝いをしない。
 ブログ上でも、新年のご挨拶を遠慮させていただく。

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