(『パッチギ!』2005年 (C)2004「パッチギ!」製作委員会)
当然観ていていいはずなのに、見落としている映画が少なくない。『パッチギ!』もその一つ。
井筒和幸監督作品で2005年公開。翌2006年には韓国ソウルでも公開されたという。
ブックオフにDVDが950円で出ていたので買って帰り、その勢いですぐに観た。仕事をはじめてしまうと観ずに積み上げてしまうからだ。
正月だというのに原稿を読んでいる……やれやれ。
京都の朝鮮高校と、対立する普通高校の生徒との葛藤と恋と友情を描く。日本版『ウエストサイド物語』である。
この映画で言う「朝鮮」は必ずしも北朝鮮をさすわけではなく、朝鮮半島一般を指す。
日本人の高校生松山康介(塩谷瞬)は在日朝鮮人の少女リ・キョンジャ(李慶子 - 沢尻エリカ)に一目惚れする。
日本人と朝鮮人にまつわる民族問題が主軸でありながら、激しい差別的言動は押さえられている。
最近、ヘイトスピーチ問題など極端な民族排斥主義が取りざたされているが、実際、現実的には表立って露骨な差別表現をする人間は少数である。もっとも、根の深いところで差別意識が隠れているものはすくなくない。だから、それらを総合して、この映画での表現はリアルだ。
時代背景は70年安保闘争当時のことで、学校の先生が授業に毛沢東思想を持ち出すなど、世相を反映している。その先生が、朝鮮高校との友好関係を深めるためにサッカーの試合を提案するのだが、試合中に喧嘩が始まってしまい、目論見は破綻する。
映画の製作に当たって、朝鮮総連の協力があったためか、公開当初から「朝鮮総連翼賛の宣伝娯楽映画」などという批判があったらしいが、一般的には高い評価を得てヒットした。
同時に、音楽監督の加藤和彦によって作品内で使われた「イムジン河」や「あの素晴しい愛をもう一度」が実に効果的で、映画の質を高めた。
この「イムジン河」という曲、レコード会社が「政治的配慮」から発売を中止し、同時にほとんどの放送局も、放送も自粛してしまった。映画内ではその事実とともに、地元ラジオ局が「放送して悪い歌などあるか!」とオンエアする。
北と南だけでなく、日本と朝鮮の壁も取り払ってしまう若者パワーに感動。
ただ、日本と朝鮮の間にある歴史問題についてはほとんどふれられていない。文化の違いについても、もう少し説明があってよい気がした。
そう思っていたら、この続編とも言える『パッチギ! LOVE&PEACE」では彼らの父親世代のことについても触れていて、「朝鮮人強制連行」など、政治色が多少強くなっているようだ。こちらも是非観てみたい。
ところが、マドンナのリ・キョンジャ役を沢尻エリカが断ったと言う。何が気に入らなかったのか。その代役として、在日コリアンの中村ゆりが演じている。
沢尻エリカが、もし朝鮮・韓国に偏見を持っていて民族問題に引っかかっているとしたら、残念なことだ。