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山本薩夫『戦争と人間』

2010年08月21日 | 映画
 山本薩夫(やまもと さつお、1910年 - 1983年)監督の大作、「戦争と人間」を全編通して観る機会を得た。
 この映画は全三部作で、一本あたりが平均3時間超、合計で9時間23分という強者である。
 放送時間が夜9時からということもあって、都合が良かったこともある。
 
 出演者がとてつもなく豪華だ。
 
Yoshinaga
 まだ20代の吉永小百合。今とは違って大熱演型だった。
 
Kitaoji
 今では白戸家のお父さんの声。若き日の北大路欣也。
 
 ちなみに以下はキャストの一部。
 
 滝沢修、芦田伸介、高橋悦史、浅丘ルリ子、北大路欣也、吉永小百合、高橋英樹、三国連太郎、高橋幸治、山本圭、加藤剛、和泉雅子、岸田今日子、山本学、地井武男、栗原小巻、石原裕次郎、二谷英明、伊藤孝雄、田村高廣、松原智恵子、丹波哲郎、大滝秀治、西村晃、加藤嘉、夏純子、藤原釜足
 
 この豪華キャストと海外ロケの連続で、配給元の日活が経済的に火を噴いてしまい、当初四部作だったものが三部で完結となってしまった。したがって、第三部は完結編とはいうもののちっとも完結していない。
 
 映画は、日中戦争前の満州事変から、ノモンハンで日本が大敗するまでを大河ドラマ形式で追う。
 山本薩夫監督は、南京事件や日本軍の三光作戦などを漏れなく描いているが、しかし、「ふれている程度」でしかないのは残念だ。これはおそらく、配給元の日活が右翼による妨害をおそれて自主規制したのではないかと思える。
 
Sanko1
 共産匪(八路軍)を隠匿しているという名目で、日本軍は中国の村を襲い略奪し、皆殺しにした。
 
Sanko2
 女と見れば、子供や老女でも犯されたという。中国は日本軍の傍若無人な行いを「三光作戦(殺しつくし、奪いつくし、焼きつくす)と呼んで強い怒りを表した。
 
 田中義一首相は、対中国強硬政策を実践するため、治安維持法を強化した。自由をうったえるもの、戦争に反対するものはすべて、アカ「共産主義者」であるとして、証拠の有る無しにかかわらず拘束され、自分が共産主義者であることを認めるまで拷問を受けた。
 小林多喜二は、この拷問によって虐殺されている。
 
 第一部の中心は、「張作霖爆殺事件」と「盧溝橋事件」を発端とする日中戦争の始まりまで。
 第二部は、満州で利権を拡大する新興財閥伍代家内での意見の対立による葛藤。そして、ヨーロッパで戦争が拡大し、第二次世界大戦となる。
 第三部は、南下する日本軍による三光作戦と南京事件。そして、ノモンハンの大敗で終わる。
 
Nomonhan
 最新鋭のソ連軍戦車に、旧態依然とした日本軍の戦車はまったく歯が立たなかった。「一人1台破壊すれば勝てる」と、理屈に合わないことを平気で命じるのが当時の日本軍だった。しかも、火炎瓶で戦車に立ち向かえと言う。
 
 軍隊というタテ社会の理不尽さが実に良く描かれ、それを山本学、圭の兄弟が好演している。
 長丁場なので、DVDを借りて観るというのもそれなりの覚悟がいるが、一度は見ておくことをおすすめする。
 
Gensaku
 
 この大作の原作は、五味川純平(ごみかわ じゅんぺい 1916年 - 1995年)『戦争と人間』全18巻(三一新書)。
 太平洋戦争の終結後、米軍の進駐までが描かれているが、18巻が完結したのは1982年である。
 映画の第三部が公開された1973年11月にようやく15巻が刊行されているのだから、映画では最初から完結させるつもりはなかったのだろう。もし四部まで製作されたとしてもやはり途中までである。
 ちなみに、ノモンハン事件は原作では11巻である。
 
 ぜひとも残りを映画化して欲しいが、社会派の映画監督で山本薩夫と比肩する監督は、現在見当たらない。当時のキャストの多くがすでに個人であることも鑑みて、新たなキャストで大河ドラマにする方がいいかもしれないが、この不景気でどこが作るのだろうか。

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