『「アメとムチ」の構図』
普天間移設の内幕
渡辺 豪 著
沖縄タイムス社 発行
この本は、正月休み中のすっぽり空いた日に読んだ一冊です。
普天間基地移設にともない、防衛庁(省)と政府と沖縄県、それに移設予定地の辺野古を擁する名護市による、綱の引き合いのルポルタージュです。
登場人物は防衛庁長官だった額賀福志郎、防衛次官で防衛庁の天皇と呼ばれ、後に収賄事件で逮捕される守屋武昌、佐藤勉沖縄局長、稲嶺敬一、中居真弘多、両沖縄県知事、島袋吉和名護市長をはじめ、よくぞまあと呆れるほどのくせ者ぞろいです。
彼らが考えるのは、国益であり、米国への配慮であり、あるいは県の利益、市の利益で、この本からは民意がほとんど感じられません。
たとえば、滑走路建設にともなう環境問題については「環境保護団体がうるさいから」であり、彼らの間から自らの意見としての環境保護は、話として出て来ません。
それは軍用機の発着にともなう危険度についても同じで、政府や行政が率先して住民の安全に配慮しているようには見えないのです。
市民、農民、漁民など、それぞれの声はほとんど吸い上げられることはなく、「反対派」という言葉でひとくくりにされていて、個人の生活に対する配慮は、利権によって押し潰されているのです。
沖縄県や名護市にとっては経済支援というアメを失いたくありません。防衛庁と政府は、そのアメを差し出しながら、基地建設をスムーズに推進するため、多少の犠牲は受け入れろとムチを地元に押し付けます。
経済振興と基地負担、まさにアメとムチによって沖縄を懐柔する方法は、沖縄が本土復帰して以降、長年続けられて来た常套手段であると言います。
この本には、基地そのものを全撤廃しようという話は一切出て来ません。
それよりも初めに基地ありきで、基地をどうにかすることで、どれだけ自分たちに利益がもたらされるかと、丁々発止とやっている醜い争いに見えます。
このように見えるのは、ぼくが沖縄の住民でないからでしょうか。
しかし、基地問題は沖縄だけにとどまりません。今後、在日米軍再編を機に、自衛隊との融合が進んでいきます。
そうなると、全国にある自衛隊基地が米軍による演習で利用され、米軍の基地機能は全国に拡散し、沖縄だけの問題ではなくなります。
こうした事態にブレーキをかけるには、住民軽視の基地政策を沖縄県民だけの問題にせず、全国民が一丸となってすべての基地を撤廃することに意識を向ける必要があるでしょう。
しかしそれにしても、よくぞまあ聞き出した、調べ上げたという内容で、沖縄の基地再編をめぐるカネと権力のドロドロ状態が手に取るように分かります。
取材は実に立派なものですが、編集があまりにも稚拙で雑です。
項目が細か過ぎて、話のテーマがどこにあるのか分からなくなる個所がしばしば。
また、写真や図版が巻頭にまとめられているので、本文で関連事項にふれた時には、いちいち頁をめくり直さなければならない煩わしさと、欲しい図版が掲載されていなかったりもします。
新聞に連載されていたものを加筆訂正して一冊にまとめたと「あとがき」にありますが、覚え書きをつなぎ合わせたようで、登場人物や事件の発端などについての説明が不十分で唐突感があり、沖縄問題・基地問題について予備知識のない人には分かり難い本です。
まあ、分からない人は読者対象としていない、ということなのかもしれませんが。
しかし、これだけ優れた取材をしているのですから、多くの人に読まれないということは実にもったいない。編集し直して、再発行されることが望まれます。
◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆
◆出版と原稿作りのお手伝い◆
原稿制作から出版まで、ご相談承ります。
メールでお気軽に galapyio@sepia.ocn.ne.jp まで