Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

電子申請の現在と未来(2)、停止の背景にある低価格化の流れ

2009年12月15日 | 電子政府の評価
電子申請の現在と未来(1)、「電子申請の適正化」が加速しオープン化するの続きです。今回は、国や自治体の電子申請が停止となる背景について考えてみましょう。


●期待を裏切る利用状況

停止の背景としては、まずは「利用」が少なかった(利用率、利用件数、利用者数など)ことがあります。

費用対効果で言えば、「効果」の面で、多くの電子申請が期待を裏切るものだったのです。

政府は、「オンライン利用」という曖昧な物差しで、利用件数や利用率を算出し、全体でオンライン利用率は34.1%としています。しかし、実態としては、ほとんど利用されていないのが現実であり、ごく一部の電子申請で何とか数字合わせをしているに過ぎません。

関連ブログ>>平成20年度における行政手続オンライン化等の状況、なぜ実態とかけ離れた利用件数がはびこるのか


●急速に進んだ低価格化

次に、「電子申請システムの低価格化」があります。

電子申請システムの構築費(作る時の費用)や運用費(維持するための費用)は、それこそピンキリですが、ここ5年ほどで急激な低価格化が進みました。10分の一どころか100分の一といった具合です。

低価格化により、「使われないのにお金ばかりかかる電子申請」を改良するよりは、「停止して新しく作り直した方が、断然安いし、今よりも使いやすいものができるんじゃないか」と考えるようになりました。

この考えは、全くその通りです。だからこそ、作者は「使われない電子申請」は、できる限り早いうちに停止した方が良いと主張しているのですね。そう、決断は、早ければ早い方が良いのです。


ところで、いったい電子申請はいくらぐらいなのでしょうか。

なぜ、電子政府で「一件当たりいくらか」を評価するべきなのかから抜粋すると

★専用システムのベスト3(15年度と16年度の支払金額の合計)
1 総務省電波利用電子申請・届出システム 172億9300万円
2 国税電子申告・納税システム(e-Tax) 166億1600万円
3 電子出願関連事務処理システム 13億2400万円

●汎用システムのベスト3(15年度と16年度の支払金額の合計)
1 国土交通省オンライン申請システム 17億700万円
2 法務省 総合的な受付・通知システム 11億7600万円
  (オンライン登記申請システムを含む)
3 厚生労働省電子申請・届出システム 11億300万円
※支払金額が少ない汎用システムは、公正取引委員会(9500万円)、外務省(1億8200万円)など

関連ブログ>>300億円以上の税金投入で利用率0.1%、社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請(2)(2008年12月24日)箱物行政よりヒドイ、使われない電子申請は今すぐ止めるべき


これらを作者の知っている範囲で整理すると、

国の電子申請で
・構築費:数百億円から数億円
・運用費:数十億円から数千万円

地方自治体の電子申請で
・構築費:数十億円から数億円
・運用費:数十億円から数千万円

となります。これは、自前で構築・運用した場合です。

このように当初の電子申請は、とても高価なものだったのです。

なぜなら、費用対効果をあまり考慮せずに、あれもこれもと機能を要求したためです。「用途や金額を考えずに、高価なパソコンをカスタマイズ注文するようなもの」ですね。

費用対効果は、「費用」が少ないほど高くなります。「効果」である利用が悲惨な状況だったので、費用削減へのプレッシャーが強くなるのは当然のことです。

ベンダー側も、多くの電子申請システムを作るにつれて、当初よりは安く提供できるようになりました。

しかし、それでも高いものは高い。

そこで考え出されたのが、費用を割り勘で支払うというものでした。

・各省庁で同じようなシステムが作られたものを統合する
 (ただし、イーガブは、費用面でも効果面でも失敗している)
・県と市町村が共同で構築・利用する
(現在の主流。ただし、同一県内での共同利用がほとんど。)
・他の自治体が構築・運用しているものを使わせてもらう
(横須賀市の電子入札や青森県の電子申請など)

といった具合です。

そんな中で、電子申請の低価格化を決定付けたのが、民間企業が提供するASP型の電子申請です。この場合、構築費や運用費が不要で、導入費と利用料だけで済みます。常に最新のサービスや機能を利用できるのも魅力です。

もはや、電子申請は1千万円でも高いぐらいです。

特別な手続だけを処理する専用システムでなければ、年間1千万円から百万円あたりが妥当でしょうか。

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なお、作者の知る限りでは、まだ本格的なSaaS型の電子申請はありません。

SaaS型の電子申請が登場すれば、「費用」を抑える価格の競争は一段落して、「効果」を高める質の競争へと進むことができるでしょう。

これは「電子申請作りの分業」を意味します。

ベンダー:基本システムの機能向上や改良など
行政:手続(法令や実務)の実装、簡易な修正や改善など
住民:使い勝手のチェックと改善提案

「電子申請作りの分業」を実現できることが、「SaaS型の電子申請」と呼べる最低条件と考えても良いでしょう。

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