◇ ある熊の最後 ◇
怪物と呼ばれし熊の
知らぬ間に撃たれてさばかれ
人々の胃に
北海道庁はその熊を仕留めんと必死だった
四年間に65頭もの牛が被害にあっていたからである
真夜中に牛を襲ってむさぼり食い、明け方にはこつぜんと姿を消してしまうのであった
北海道のひ熊は山菜や木の実を常食とし、肉食ではないのだという
ところがそのひ熊はある時に肉の味を覚え、放牧牛を襲うようになったらしい
oso18(オソベツ(地名)の前足巾18㎝の熊)と固有名詞までもらって指名手配されていたその熊は、依頼を受けていた猟師たちではなく、地元の町の一職員の手で撃たれ、その熊とは知られず食肉業者の手に渡り、すぐに解体されてしまった
用心深いその熊が里近くで撃たれるなど、だれにとっても想定外だったのである
食肉業者は何十軒ものお得意先に肉のかたまりを送ったであろう。さらにそれは食べやすく刻まれ何百人もの胃袋を満足させたのに違いない
念のため取っておいた毛をDNA鑑定したところ、道内各地の現場に残されていた毛のDNAと一致し、oso18の死が確認されたのだという
残されていた牙の鑑定で、九歳のオス熊と判明した
ちなみにoso18は家族を持たない孤独な熊だったようである
oso18の死は大勢の記者たちの前で発表され、報道され、先日はテレビで特番が組まれ、東京の料理屋でその肉と知って笑いながら味わう人たちが映しだされていた
野生の一頭の熊にもこれだけの物語があるのである
いまさらながら、人の世に物語が生まれ続けるのも、うなずけてしまうのである