ここ2週間ぐらいか、それまでとはうって変わって、プーチンに騙されたのだ安倍は、という意見がネット上やら雑誌の記事やらに見えるようになった。
これは、ミサイル配置問題の効果でしょうかね。
で、なんてか日本ってもう、政権だけでなくマスメディアを含めてほとんど外交的無能力者状態だなとか思う。だって、まともな国なら、既にG20、そしてマトヴィエンコ氏の来日のところで、現状では領土問題を話しあう環境にないとロシアが言ってることを率直に受け止める。
しかし、にもかかわらずまたまたペルーで、NHKはトップニュースでプーチン、プーチン、プーチンとなにか期待をもたせるようなことをしたわけです。嘘なのね、要するに。国内の政治のために外交を犠牲にしている、というか、相手先に失礼なことをしていることにまったく自覚さえない。もはや無能力者でしょう、これは。
で、わかりやすくミサイルの話を持ち出し、ウルカエフ退任が来たら、ようやく日本のバカメディアもくいついた、政権もその線は了承してる、みたいな感じじゃなかろうか。
もうこのへんで終わってると思うんですよね。日本はずれてる。
G20小ネタと「つきもの」
あと、インドの元外交官さんがあっさり書いたこの短文が事態をもっともよく表しているでしょう。
安倍の発言は日本のジレンマをよく表している。日本は米国との同盟を破棄するようなことはできないし、クリル諸島の支配圏を再び取り戻すという夢を捨てることもできない。
しかし、日本は地域で孤立感を感じており、さらに、中国が積極的、断定的になって、そこがロシアとの関係正常化を非常に上手く使っていくだろうことを気にしてる。ロシアは、アジア太平洋地区の「バランサー」になることを志向する眠れるプレーヤーだ。
マトヴィエンコ上院議長訪日と東アジア版NATO
■ 9月の杭州サミット
で、9月に行われたG20で、プーチンはジャーナリストたちとのQ&Aセッションで日本との関係をわりと長く説明している。ここ。
この一説をちょっと訳しておこうと思う。
で、私はこれを映像でも見たんだけど、プーチンは日本をかばってさえいるなと思った。というのは、ジャーナリストが質問で、日本はG7の国で、G7のウクライナ問題についての共通の立場は日露間に影響するのか、と尋ねた時、プーチンは、そういう具合に私たちの関係(日露)に問題を見つけようとするもんじゃないよ、といなしてから話をはじめてた。
日本はアメリカと特別な関係があるから外交方針がそうなるのであって、G7だからという話じゃないです。日本は主要な戦略的パートナーである米国を考慮にいれ、かなりの程度までその意見に傾斜します。
過去12~18カ月私たちの接触が限定的だったのはこのためです。私たちにとっては、日本は私たちとの対話を、特に平和条約と関連する問題の解決についてのそれを求めているように見えたので、それはへんな話だと思いました。しかし、日本側のイニシアティブによって、連絡関係は事実上停止になりました。
しかし私たちは現在交渉のテーブルに戻り、問題に取り組んでいます。私は、安倍首相はソチに来られた時いくつかの非常に興味深い提案をされたと思います。彼は私たちが検討し、開発する8つの分野での経済協力を提案しました。それは両国が現在直面している喫緊の経済的問題の解決にとっても、政治的な状況を含むその他の問題を解決する状況を整備する上でも非常に重要だと思っています。
ここで、ウクライナについての日本の立場は障害となり得るでしょうか? いいえ、なり得ません。私は私たちの関係を妨害するだろうものはここには何もないと思います。これについては私は安倍首相とよく話し、彼は問題を提示しました。私は彼に状況を説明しましたが、全体として、私たちはここに問題があるとは思っていません(少なくとも現状では)。しかし、平和条約を含むすべての問題を解決するための好条件を整備することは非常に重要です。
さっき、私たちと中国との関係、領土ではなくて国境ですが、その問題に言及した人がいましたが、私はここでもそれを繰り返せると思います。私たちは国境の問題を解決するのに中国と40年間話し合って、最終的に問題を解決しました。これは、私たちが長い時間をかけて達成した高いレベルの信頼と協力に基づいて合意に達したものです。
■ 平和条約締結の意志
プーチンは他の場面でも、趣旨として同じことを言ってる。
で、私がここから理解することは、ロシアはいつの日か日本と本当に平和条約を結ぼう、普通の関係になろうと思っているんだな、ということ。
それに対して日本にはまずその意志がないと私は思う。
少なくとも、平和条約締結に向けて対話しているとさえ国民に言わず、国民に対するロシアの話は、四島返還という1956年以降に日本が日本人向けに作り上げた話題が主体なのだから、その本気度には限度がある。
そして、1956年の合意以来、平和条約締結時に歯舞、色丹の二島の返還という話になっていると少なくともソ連、ロシアは考えている。これは誰がリーダーになっても同じことを言っている。だから、もし日本国が平和条約を締結しようという気があるのであれば、そして、それによって二島をともあれ返してもらおうと思っているのならば、この差異を国民に教えないとならない。
しかし、それを教えない。
ということは、日本には日露平和条約締結の意志はないということだろうと私は考えています。
別の言い方をするのなら、いつかまた戦争をする気だということです。
もっと現実的な言い方をするのならば、いつか絶対に、アメリカかロスチャイルド(ヤコブ・シフの縁者でもなんでも)だかなんだか知らないけど西側の誰かがきっとロシアを潰しに来る。その時こそチャンス! という思考を今も持ち続けているし、今後も持とうとしているということでしょう。
最近出たロシアがらみの記事の根底には、いつかロシアは経済破綻する、ロシアはソ連のように崩壊するのだ、という願望が透けてみえます。透けてどころか、ほんとに書いてる人もいましたね。森永卓郎は2016年9月に、4年後にロシアは財政破綻すると書いた。それに対して、人口動態が回復し、財政の健全度が保たれた安定した国家になっているように見えるというのが私の結論。
他者の破綻願望:ロシア編を評価してみる
今日は今日とて、ソ連と同じ道を歩み始めた、とかいう記事まで来た。
ソ連崩壊と同じ道を再び歩み始めたロシア ロシアとの安易な提携は禁物、経済制裁の維持強化を
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48550
これはつまり、司馬遼太郎が見た戦前の日本とまったく同じなんだと思います。
いつでも、ロシアの、ソ連の脅威が語られました。日露戦争が終わったあと、軍部はロシアの復讐を恐れていたのですが、そのうちロシア革命がおこりました。
これは幸いだと思ったわけです。
そして、ロシア革命でシベリアががら空きになったときに、シベリア出兵という、実に恥ずかしい、いかがわしいことを日本政府は行動に移しました。
シベリアで兵隊たちは死に、土地の人に迷惑をかけた。そして、ロシア人にいまだにシベリア出兵の恨みを忘れさせない。そういうアクションをして、リアクションを考えず、やがて何をなすこともなく撤兵しました。何億円という当時の金を使って撤兵した。シベリアを取ってどういう利益があると考えたのでしょうか。要するにシベリア出兵は、恐怖心の当の相手が、やや引っ込んだように見えたようなもので、今でも悪評の高いことですね。日本の近代というのは、実にがさつなものであります。
「昭和」という国家/司馬遼太郎
(太字、私)
■ 「幸い」を待つのか
明治朝日本(明治維新後の日本を全体としての日本と分けるための私の造語)は、最初から西欧勢力の極東の番犬のような恰好で世界デビューをしているため、中国、朝鮮、ロシアを西洋人の視点で見る習慣が骨の髄までしみ込んでいると言えると思う。
ヨーロッパ1000年のロシア恐怖症
戦前には50年にもみたない間に、日露戦争、5年にも及ぶシベリア出兵という名の介入戦争、満洲事変、ノモンハン、ソビエトの満州侵攻があったのだから、ほとんど常に戦争をしていた関係だと言っても過言ではない。
さらに冷戦中は、デフォルトで日露は対立しており、ソ連崩壊後にはオウム事件という奇妙な事件もある。要するに、どう見ても通常の関係ではない。
さて、日本は今後も「幸い」を待つのだろうか?
私は、この態度は、戦後70周年を記念した年に、中国を無視して、日本の戦争とはあたかも4年間の対米戦争のみが日本人が思い起こすべき唯一のものであったかのような談話を首相が発表したことと通底しているとも思う。
そして、米、露、中というリーダー格の国々が日本を見て、確かめようとしているのも結局その心底だと思う。70周年の年というのは、実は非常に大きな出来事だったと私は何度も書いているのだが、日本は本当にスルーした。
ここに流れがあることは、最近キッシンジャーが語ったというインタビューでも確認できると思う。大国間はもう大きな戦争をしないのだ、21世紀の解決法ではないのだと思いしれ、という話が出ていた。トランプとプーチンを支持する米の一般人が思考していたのも同じこと。(米ロは冷戦という管理体制で経験済みなので飲み込みが早い)
[時論] トランプ・ショック 世界の秩序は
ヘンリー・キッシンジャー氏
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO09437040R11C16A1TZA000/
(そこから考えると、2015年、日本の中でこの世界的な流れを認識していたほとんど唯一の政治家は志位さんだったということになるのかもしれない。少なくともポツダム宣言は受け入れたと安倍政権に言わせたのだから。)
■ オマケ
好例の妄想セクションでございますが、まぁぶっちゃけ、待っても日本に幸いは来ないと思うわけですよ。
それでも日本が待つ(つまり、いつか戦争、いつか中国、ロシアは破壊されるのだという願望を捨てない)というのなら、中国もロシアも、極東米軍との付き合いは長いわけで、これが落ち着いているのならこの体制で別にいいか、という落としどころにただ行き着くんだろうな、ってことだと思います。
つまり、安倍だの稲田だのに軍事を任せるぐらいなら、極東米軍の方が遥かに信頼性があるに決まっておろー、って感じ。
別の言い方をするのなら、日本はずっと半独立ということです。
で、だから、ロシアのアプローチというのは、実は非常に奇妙なものではあると思う。長期的には自立的な日本と付き合うことになることを展望しているわけで、これは、ある種のロマンチシズムにも似た期待を持っているんだな、日本に、と考えることもできると思う。でも、それはロシアの中の親日的なグループであって、親中グループが将来日本に構う必要はないと考え出す可能性は否定できないが。
川路聖謨や岩瀬忠震の時代を想像してしまう。あの人たちが快活に振る舞えた日本のままであったなら、と思わずにはいられないのが歴史好きの私の本音ですね。
幕末、日本との交渉にあたったプチャーチンに随伴していた作家のゴンチャロフは、川路の聡明さを愛でる快活な文章を残している。そこからわずか50年の後、日露戦争の仲介人として英米がついたとわかった途端、なんの脈絡もなく樺太を攻めて占領する我らの日本軍がそこにいた。同じ民族とはとうてい思えないぐらいの変化をしたのは、ロシアではなく日本の方だと私は思う。
「昭和」という国家 (NHKブックス) | |
司馬 遼太郎 | |
日本放送出版協会 |
「明治」という国家 | |
司馬 遼太郎 | |
NHK出版 |
私は日本政府だけでなく日本人の多くが、ロシアについては、いわば理解不能なのではと思っています。ロシアは、まさに論理の国、理屈の国ですから、その対極の日本には理解不能。日本にとっての1000年来の唯一の外国は中国。チャイナフォビアで凝り固まっています。成算があるかどうか、正当性があるかどうかなどおかまいなしに、中国敵視、中国破壊願望を止められない。ただ、国際的には日本が中国を破壊しかけたことは確定した事実なので、中国破壊願望は日本人に対しても公然とは言えない。そこで隠れ蓑的にロシアが使われる。「ロシアは悪い」なら少なくとも日本人には通用する。
ロシアは、日本人の大勢が今もやすやすと組みしてしまうチャイナフォビア、その隠れ蓑に使われるルソフォビアを理解していないのではと思います。それはあまりに非論理的だから、わからないのでしょう。
で、私は日本には全般的なチャイナフォビアはないと思ってます。
あと、日本が最も頻繁につきあった外国は朝鮮だろうと思います。
松陰というよりもっと前から大陸構想はあって、幕末期は結構真剣に信じられてる風がありますね。
で、どうしてそうなったのかというと私はやっぱり朱舜水→水戸学 なんじゃないかなと思ってます。
江戸時代、頭の中で考えた妄想が現実に達成可能に見えるような状況が来ちゃって大はしゃぎ、って感じ。
たしかに日本といちばんつき合いが長く密接だったのは朝鮮ですが、朝鮮に対しては外国というよりも、本家―分家みたいな意識ではなかったですか。その意味では、日本が外「国」として意識してきたのは中国だけだったと思ったのです。中国に対しては、フォビアというよりも、一方的ですが、憧れもあり、ライバル意識もあり、劣等感もあり、複雑かもしれませんね。
いずれにせよ、私は日本人はアジア諸民族とくに朝鮮、中国、沖縄に対する自らの意識の歴史的経過を分析してみる必要があると思います。