かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠11(アフリカ)

2017年05月20日 | 短歌一首鑑賞

  馬場あき子の外国詠2(2007年11月実施)
    【阿弗利加 1サハラ】『青い夜のことば』(1999年刊)P155~
      参加者:崎尾廣子、T・S、N・T、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:崎尾 廣子
     司会とまとめ:鹿取 未放
  
11 不愛なる赤砂(せきしや)の地平ゆめにさへ恋しからねどアトラスを越ゆ

      (まとめ)
 「ゆめにさへ恋しからねど」は、逆説であろう。ただ、砂漠の方は人間を拒絶しているだろう。人間や文明が踏み込むことを許さない、侵してはならない自然というものがあるのかもしれない。それでも〈教育された感情の方向から未開の感情の深み〉(辻まこと)を求めて人間は沙漠に踏み入るのである。
 レポーターがこの旅の動機をいろいろ推理しているが、朝日歌壇の吟行の旅なので、いわば仕事である。しかし選びはおそらく馬場の希望を入れたものであろう。すなわち、アフリカは馬場の行きたい土地だった。「不愛なる赤砂の地平」に大いなる興味を持って高いアトラスを越えてゆくのである。ちなみにアトラス山脈の最高峰はモロッコのツブカル山(4,167m)であるが、同行者の話によるとこの旅の一行が越えたのはティシカ峠(2,260m・ティシカは羊飼いの意)のルートだったそうだ。(鹿取)


     (レポート)
 この旅は何かに押されての出発なのか、念願が叶ったのであろうか。「不愛なる」「恋しからねど」と詠っている。サハラに惹かれてはいたであろうが、ひょんなことから始まった旅なのであろう。弱音「不」で始めるリズムは赤砂でひびきを高め、「ゆめ」「恋」と潤いを帯び、結句の「ゆ」によって余韻はさめない。うながされてきた旅ではあるが、いつのまにかこんなに遠くにいると感懐にひたっているのであろう。「アトラスを越ゆ」に作者のそんな思いが伝わる。韻律が印象的な歌である。
*アトラス:ギリシャ神話の巨人神。オリンポスの神々と争って敗れ、その罰として両手で天を
       支えることを命じられた。
 *アトラス山脈:アフリカの北西部の海岸と平行に走る褶曲山脈。褶曲とは地層が波のように湾
         曲している状態をいう。 (小学館 言泉)          (崎尾)