大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第195回

2015年04月21日 14時20分50秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第195回



会社での最後の大掃除は午前中で終わった。 

忘年会もなければ何もない。 寒いだけだ。 何処にも寄らず琴音はそのままマンションへ帰った。

「寒ーい」 すぐにエアコンのスイッチを入れ、お湯を沸かした。 お湯が沸くのを見ながら

「年明け3ヶ月で閉鎖。 帳端が2ヶ月かかるのがあるから、少なくともあと5ヶ月で悠森製作所とさよならなのよね」 やかんのお湯が湧きお茶を入れた。 湯呑みを持って和室に座ると

「私、どうしよう・・・」 年末の部屋の掃除の事かい?

「どうすればいいのかしら・・・私に出来るのかしら・・・」 掃除くらい出来るだろう?

「みんなの痛みや悲しみを取ってあげられるのかしら・・・」 掃除じゃないようだね。
時が迫ってきたが故、段々と自信がなくなってきたんだね。 でもね、そのことは考える必要は無いんだよ。 今考えなきゃいけないのは掃除だよ。

「あ、実家に電話を入れてないわ。 あら? そう言えばどうしてお母さんからのいつ帰ってくるのかの催促の電話がないのかしら?」 お茶を一口飲み

「とりあえず・・・明日一日、部屋の大掃除をしなきゃね」 今日からでもいいんだよ。

お茶を飲みながらテレビを見ていると電話が鳴った。

「あら? お母さんかしら? まだいつ帰るか決めてないのに」 持っていた湯呑みを置き電話に出た。

「もしもし?」

「やっほー 琴音ー?」

「なんだ、暦?」

「なんだって何よ」

「ゴメン、ゴメン。 お母さんだと思って電話に出たから」

「あら、それはそれは。 おばさんじゃなくて御免なさい」

「イヤミ言わないでよ。 それより主婦がこの時期に電話なんてどうしたの? 大掃除の真っ最中じゃないの?」

「大掃除は終わっちゃった」

「え? もう終わったの?」

「そう。 今年は早目に始めたからね。 琴音は?」

「去年は大掃除出来なかったのよ。 それに今日まで仕事だったから、明日一日かけてじっくりしようかと思ってる」

「あ、じゃあ 私手伝いに行くわ」

「え?」

「早く終わりすぎて明日暇なんだもん」

「暇って・・・暇で掃除の手伝いをしてくれるの?」

「明日、遊びに行こうと思って電話をしたから丁度いいわ。 でもね明日だけよ。 それ以外の日は予定があるからね」

「旦那さんや子供たちは?」

「どっちも留守。 みんな勝手にやってるわ」

「でも色んな役とかで毎日忙しいんでしょ? それにそんなに予定が入ってるなら一日くらいゆっくりすれば?」

「なに? 手伝いに来て欲しくないの?」

「そうじゃなくて、暇の時間つぶしに掃除を手伝ってもらうのって、やっぱり気が引けるじゃない」

「あー、そんな事? 別にいいのよ。 掃除も話しながらすると楽しいでしょ? それにほら、私って掃除だけは苦じゃないし」

「そうね、暦ってどっちかって言えばいっつも掃除してるもんね」

「綺麗になると気持ちいいじゃない」

「はぁ、日本の母ね。 いいお母さんだわ」

「それって褒めてるの? けなしてるの?」

「褒めてるの。 じゃ、お願いしちゃおうかな?」

「OK。 それじゃあ・・・こっちから掃除道具はある程度持っていくね」

「あ、いいわよ。 こっちにある洗剤や雑巾を使ってくれるといいから」

「うん。 そっちのも使うけど、いい洗剤と雑巾を見つけたのよ。 琴音の分も持っていくからね」

「はぁー、さすがね。 じゃあ、お願い。」



玄関のベルが鳴った。

「はーい」 琴音の返事を聞く前にもうドアが開き

「お早う」 両手に荷物いっぱいの暦が入ってきた。

「お早う・・・って、なにその大荷物?」

「こっち持って」 片方の荷物を差し出した。 琴音がそれを持つと

「わ、何が入ってるの? 重ーい」

「そっちはお重箱。 ほら早く歩いて」

「はい、はい。 え? お重箱?」 キッチンに向かって歩き出した。

「お昼ご飯におにぎりとおかずを作ってきたの。 あ、勿論 琴音の夕飯の分も入ってるわよ」

「ええ? 朝から作ってきたの?」

「そう。 あー重かった」 持っていた荷物をキッチンに下ろした。

「そっちは?」 琴音がお重を出しながら聞くと

「こっちは洗剤類。 この洗剤凄くいいわよ。 マルチに使える上に地球に優しいの。 あ、それとこの雑巾も最高よ」 次々と袋から出し

「あ、琴音 朝ご飯食べた?」

「う・・・ん。 お茶を飲んだ」

「なにそれ? 朝はしっかりと食べなさいよ」 琴音が出していたお重箱を一つ開け

「ほら、座っておにぎり食べなさい」

「えー・・・お昼に一緒に食べようよー」

「お昼も食べるわよ。 多めに作ってきたんだから充分足りるわよ。 ほら、食べる食べる」 そう言って琴音のお茶を入れだした。

「暦も一緒にお茶飲もうよ」 おにぎりを一つ手に取りそう言うと

「私は掃除を始める。 琴音はゆっくり噛んで食べるのよ。 はい、お茶」 琴音の前にお茶を置き掃除用具を入れた袋の中から割烹着を出し袖を通して

「もうどこか掃除したの?」 後ろの紐を括り始めた。

「トイレだけ済ませた」 おにぎりを頬張りながら返事をした。

「そうねぇ。 じゃあ、洗面場とお風呂場をしてくるわね」

「水回りは私がするからいいわよ」

「他の場所って言っても、琴音が食べてる時に埃を立てられないでしょ?」 おにぎりを咥えた琴音が止まった。 それを見た暦が

「なに?」

「暦ってホントに気がつくのよねー」

「なに言ってるのよ。 常識じゃない。 それじゃあゆっくり食べるのよ。 雑巾と洗剤ここに置いておくから勝手に使うといいわよ」 そう言い残して水回り用の洗剤と雑巾を持って洗面所へ向かった。 

残された琴音は他の重箱を覗きながら

「朝からこれだけの料理をしてくるなんて。 それに色んな味のおにぎり・・・私ならおにぎりだけでテンテコ舞だわ。 ああ・・・あんなお嫁さんがほしい」 分かったから早く食べなさい。

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