大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第105回

2014年06月03日 13時10分53秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第100回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~未知~  第105回



「あ、そうだ。 僕、双葉史朗。 以前織倉さんがいたフロアーの下の階に居たんだ。 ちなみに平塚課長は今もそのフロアー。 それで僕は今、織倉さんと同じフロアー」

「え? 同じフロアーですか?」

「うわ、やっぱり覚えてないんだ」

「わ、すいません。 あの、私 人の顔を覚えるのが苦手で」

「いいよ、いいよ。 今日でもう覚えてもらった?」

「はい」

「良かった。 絶対、明日無視しないでよ」 二人で歩いて行った先のロビーのソファーに平塚が座っていた。

「課長、お待たせしました~」 双葉がおどけて言った。 顔を上げた平塚が

「お、織倉さん私服もいいね」

「いえ、そんなこと・・・」

「何が食べたい? ・・・っと、とにかく駅の方に行こうか」

「織倉さん食べたい物を言うといいよ。 平塚課長のおごりなんだから」


こうして知り合った双葉と平塚。 このときを切っ掛けに時々三人で退社後食事や飲みに出かけることがあった。

人見知りのあった琴音も段々と慣れてきて 忙しい平塚抜きで双葉とランチに出かけることもあった。 琴音にしてみれば双葉は良い兄貴分であった。

そして琴音が選んでしまったのは妻子ある平塚であった。 平塚への想いはずっと心に秘めていたのだが ある日、社内電話で平塚から退社後の食事の誘いがあった。

「課長から言ってくるなんて珍しいわね。 いつもは双葉さんから連絡があるのに。 双葉さん忙しいのかしら?」 琴音にしてみればいつものように三人と思っていたのだ。

だがその日は双葉抜きで平塚と琴音の二人だけであった。

「双葉さんは来られないんですか?」

「今日は双葉には声をかけてないだ」

「え?」 この日から始まった琴音と平塚の人目を忍んだ交際。 

だが誰にも言わないでいたこの事を双葉は察していた。 平塚だけではない双葉も琴音を想っていたのだ。 双葉にしてみればすぐに自分の所に来るだろうという思いがあったが二人の関係は続いた。 双葉は遠くから見ているしかなかった。

琴音にしてみれば心の中はいつも「奥様に申し訳ない」 その思いに縛られていたが ある日、平塚が

「家の中はもう冷め切ってるんだ。 家庭内離婚の状態だから早く離婚をしたいけれど なかなか家内が別れてくれない」 そんな事を言い出した。

それを聞いた琴音はいくらか気が楽になり、そして平塚との結婚を意識しだした。

そして平塚も

「琴音、離婚が成立したら僕と結婚してくれるかい?」 恥かしげに頷く琴音を見て嬉しそうにしていた平塚。

そんな関係が2年経った頃、琴音に外線が入った。 琴音の仕事上、外線など入ってくるわけがない。

電話交換手は「平塚様から織倉さんにお電話です」 と言うが

「課長が外からかけて来たのかしら?」 そう思い、切り替わりを待ち

「お待たせいたしました。 織倉でございます」 電話の向こうは無言である。

「あの? ・・・もしもし?」 すると少し間を置いて

「平塚の家内でございます」

「あ・・・」 顔色が一気に青ざめた。

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