大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第106回

2014年06月06日 14時38分21秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~未知~  第106回



「織倉琴音さんですね」

「・・・はい」

「私、今妊娠3ヶ月です。 あちこちの病院を主人と廻ってやっと授かった子です・・・邪魔をしないでください」 プツ。 電話が切られた。

「課長 家庭内離婚って言ってたのに・・・」 受話器を置いた途端内線が鳴った。 

偶然にも平塚からの食事の誘いであった。 
ことの真意を確かめたくてその日の約束をし電話を切った。 

食事の席に行き琴音はすぐに今日の電話の事を言ったが
「え? そんな電話をして来たのか? まぁ、病院廻りは確かにさせられてたけどね、そんな事気にしなくていいよ。 勝手に言わせておけばいいから」 琴音にしてみれば言いたい事が沢山あったが その言葉を聞いた途端自分の言葉を全て飲み、食事を注文する事もなく無言でその場を立った。

「え? おい、琴音!」 その言葉を背に店を出た。

後になり平塚から何度も社内電話がかかってきたがすぐに電話を切っていた。

そんな事が続き一ヶ月が経った。
双葉が平塚のフロアーへ行くと平塚の回りに人が集まっているのが目に入った。 それを横目に用事を済まそうと一人の社員の元へ行き

「さっき電話で言ってたこの書類頼むね」 書類を渡しながら

「課長の席賑やかだけど何かいいことでもあったの?」

「やっと子供さんが出来たみたいですよ。 妊娠4ヶ月ですって。 安定期に入って安心できるって大喜びですよ」 それを聞いた双葉の頭の中はすぐに琴音のことが浮かんだ。 その足で琴音の席に向かい

「琴ちゃん」 仕事をしていた琴音が顔を上げ双葉を見ると。

「あ、双葉さん。 どうしたんですか?」 いつもの双葉の目ではない。

「知ってたの?」 双葉が言おうとしていることがすぐに分かりコクンと頷いた。

「ちょっと一緒に来て」 双葉がスタスタと歩き出した。 慌てて琴音が後ろを歩くと双葉はそのまま非常階段に向かった。 琴音も非常階段に行き双葉がドアを閉めたかと思うと

「いつから知ってたの?」

「一ヶ月程前から」

「そんなに前から?」 下を向いてる琴音が更に下に頷いた。

「どうして・・・どうして相談してくれなかったの!」 双葉の声が大きくなった。

「言っても始まる事じゃないし・・・それに私が悪いのは分かっていますから」 双葉はただ琴音を見つめている。

「それに冷めちゃった所もあります」 双葉にはその言葉が強がっているようにしか聞こえなかった。

「琴ちゃん・・・我慢する事なんてないよ」

「我慢だなんて・・・そんなことはないです・・・」 するとその言葉に思わず

「琴ちゃん」 言うと同時に琴音を抱きしめた。

「わ、双葉さん!」

「僕じゃ駄目なのか! ・・・ずっとずっと好きだった」

「離して下さい!」 抵抗するもその力は全く通用しない。
琴音にしてみれば双葉は兄貴分以外の何者でもない。 それ以上の関係を望んでいるわけではないが双葉はそうではない。

「離さない! 琴ちゃんは僕だけのものだ。 ずっとずっと琴ちゃんだけを見てきた・・・僕が琴ちゃんを幸せにする」 双葉の力が緩んだ時、なんとか手を振りほどき

「双葉さんは・・・お兄さんとしか思えない。 だから・・・」 そう言い残してすぐさま非常階段を出、デスクに戻った。

その言葉を聞かされ呆然自失となった双葉。 琴音を追うこともなく立ちすくんだままだ。 そして気を取り直したときには

「最後には僕のところに来るはずだったのに・・・どうして・・・。 いや、今のは琴ちゃんは訳が分からなくなっているだけだ。 きっとそれだけだ」 そんな風に考えていた。

その後何度も双葉から連絡が入り その度に琴音が「双葉さんとは付き合えない」 そう言うが、今まで長い間 琴音を想う気持ちを我慢してきた分、その想いを簡単に諦めきれない。

それどころかその想いは段々と歪んだものとなっていってしまった。

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