大福 りす の 隠れ家

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みち  ~満ち~  第250回

2015年11月06日 14時54分06秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第240回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~満ち~  第250回




「風来が帰ってきてるんだよ」 振向いた風狼に深堂(しんどう)がもう一度言う。

「風来が?!」 思わず立ち上がり、目の色を濃くして深堂を見た。

その深堂の横で木ノ葉も同じように目を丸くしている。 風来が帰ってきた事を知らなかったようだ。

「風来の気を感じられんのか?」

「どこ? どこに居るんだ?」 深堂の言葉を他所に辺りを見回した。

「獣のところに居るよ」 その会話を聞いていた主が

「風狼、もうよいぞ。 風来のところへ行ってくるがよい」

「はい!」 すぐに足早に出て行く。

主にお辞儀をしたかと思うと、風狼のその後ろを木ノ葉が追ったが、修行をしている筈もなく、ついて行けるものではなかった。

「ははは、あんなに走って」 深堂のその言葉を打ち消すかのように

「深堂、わしの居らん間に何があった」 厳しく低い小声で聞くと

「はっ」 深堂がすぐに難しい顔に戻り主の横に座ると、同じように小声で答えた。

「主様・・・いや、特に浄紐兄様(じょうちゅうあにさま)が出られてからでしょうか。 勝流の様子がおかしく感じまして。 
浄紐兄様から勝流をみているようにとは言われていたのですが、どうも捉えきれないところがありまして・・・。 
それに今日は朝から探してはおるのですが、どこにも勝流の気が感じられず、どうにも見つからず・・・。 
それと、勝流が関係しているやどうかは分かりませぬが、風来の話では帰ってきたかと思うとすぐに獣達の様子がおかしいというのです・・・それにこの念、今朝からなのですが」


荷を片付けていた平太、聞くとはなしに「勝流」 と言う言葉が耳に入った。 それに、小声で話している、聞かれたくない話なのであろう。

荷を片付ける手を止め、ソロっと小屋を出ると戸の横に立ち、気が沈んだように小屋にもたれた。

「勝流・・・いったいどうしたんだ・・・」 ずっと様子がおかしいことは分かっていた。 

何とかしようと話しかけていたが、でも、最近は声をかけても何も話してもらえなかった。

「・・・勝流・・・」 平太には小屋の中に残っていた念が歪んだ勝流のものだと分かっていた。


「そうか。 これほどの念をここに残して誰も気付かぬとでも思うたのであろうか。 それにしてもこれは・・・うむ、事が起こる前にどうにかせんとな・・・」 その時、外で子供達の喜ぶ声がした。

「浄紐兄様が帰ってこられたようです」

「そのようじゃな」 

浄紐が子供達を制して足早に小屋にやって来ると平太の姿が目に入った。

「平太、どうした?」 様子のおかしい平太に声をかけた。

「あ、浄紐兄様、お疲れでございました。 いえ、何でもありません」 浄紐は今気になっていることに急いている。

「そうか、なら良いが」 それだけ言い残すと、すぐに小屋に入った。

浄紐のその姿を目で追い、平太は自分達の小屋に歩を向けた。

その気配を背で確かめながら、浄紐は小屋に入るやいなや片膝をつき

「主様、お疲れでございました」 

「そなたの方こそご苦労であったな。 荷を下ろして上がってくるがよい」 

「はい」 荷を下ろし、すぐに深堂が空けた主のそばに座ると

「主様・・・」 浄紐の目が鋭く光った。

「うむ。 勝流のようじゃな」

「私が発つ前はこんなことはなかったのですが・・・いったいどうしてこんなに急に・・・」

「勝流の念以外のものが分かるか?」

「はい、しかと。 かなり性質が悪うございます。 早急に何か講じなければと・・・ん? うぬ?」 何かに集中する。

「どうした?」

「はい・・・これは・・・」 念をもっと細かく感じようとする。

その様子に眉間を寄せる主。

「この念は・・・里にございました・・・うむ。 間違いございませぬ」

「なんと!? いったい里で何があったのじゃ」 はい、と答えると言葉を続けた。

「不可思議な事が続いているという話でございました。 里へ下りてみると、急に奇声をあげて走る者がおりました。 頭を抱えて「死ぬる死ぬる」 と叫ぶ者。 夜な夜な出歩いては物取りをしたりする者もおったそうです。 
皆、いつもはその欠片も見られないという事でした」

「里でそんな事が・・・」 二人の様子を見ていた深堂が外に出て、子供達が入って来ぬよう閉めた戸の前に立った。

「要らぬ念が大きくなったようでございました」

「元は持っていたという事か」

「多少なりとも。 ですが、どうして急にそれが大きくなったのか・・・それも一斉に」

「うーむ・・・」

「解せませぬ・・・」 

「・・・まさか」 声と共に主が顔を上げた。

「は? なんと?」 浄紐が主を見る。 

「わしが居ぬ間、そなたを里へおびき出せば好き勝手が出来る」 前を見据えている。

「このお山ででございますか?」 浄紐のその声に前を見据えていた主が浄紐を見て続ける。

「うぬ。 これだけ性質の悪い念じゃ。 里で何やら陰を持つ者に次から次へ憑いて切っ掛けを作った・・・そなたをおびき出す為に」

「・・・何故にこのお山で?」

「勝流じゃ。 勝流に憑きたかったのじゃろう」

「まさか!」 目を見開く。

「そなたも分かっていよう、あの勝流の念。 
その念に今朝、誰にも分からぬように憑いたのじゃろう。 それもこの念じゃ、勝流の念を更に扇ぐ様にしたのであろう」 

「くぅ・・・」 嵌められたのか、と唇を噛み頭を垂れる。

「いや、誰にも分からぬよう前から憑いておったのかも知れぬ」 思いもしない言葉に浄紐が垂れていた頭を起こし、主を見た。 

その主は正面を見て言葉を続ける。

「気を感じられぬ所・・・このお山から離れた所で憑かれては誰も気付かん。 憑いては離れを繰り返しておったのじゃろう。 離れられてはわしにもそなたにも分からぬ。
徐々に徐々に、勝流を取り込んでいったのじゃろう。 勝流の様子がおかしくなってきた事を考えれば納得がいく」

「何故、勝流に・・・」

「里の者に憑いたとて、その肉は知れたもの。 簡単には移動も出来ぬ。 それこそ、まともに山を越える事も出来ぬ。 
じゃが、勝流に憑けばその肉を使って自由に動き回れる。 それに修行をしている身じゃ、里の者にない力もある。 やりたい事が出来る」

「なんと・・・」



山を駆け上がり風来の元へ向かう風狼。

「風来の後ろから驚かしてやろうか。 きっとすごく驚くぞ。 
驚いて・・・あいつ泣き虫だからな、ビービー泣いて鼻水垂らして俺に抱きついて 「風狼ただいま、ただいま。 風狼が居なくて寂しかったよー」 って言うに決まってるな。
あー、あいつの鼻水が俺の顔に付くのか・・・まぁ、それでもいいか。 今日だけは許してやろうか」 喜び勇んで走る風狼の耳に獣の声が聞こえ、同時に崖の上から小石が落ちてきた。 

「ん? 風来か?」 喜んで歩を止め、崖を見上げると人影が見えた。

「あれ? 風来じゃない。 あれは勝流兄?」 勝流の姿を見たがその姿はすぐに見えなくなった。 

「あんなところにどうして勝流兄が? 主様のお迎えがあるのに・・・まっ、いいか。 とにかく風来を驚かせなくっちゃな。 
愛宕のお山の土産話もいっぱいあるんだからな。 ああ、それに礼も言ってもらわなくちゃな。 俺がずっと獣達を見てきたんだからな」 風来との楽しい会話を想像しながら先を急いだが暫くして

「何をしてる! 止めろ! 触るな!」 大きな声が聞こえた。

「風来の声? ・・・どこからだ?」 今までの気持ちが一転し胸騒ぎがした。

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