大福 りす の 隠れ家

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みち  ~満ち~  第249回

2015年11月03日 14時47分20秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第240回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~満ち~  第249回




愛宕のお山を下り、連なる山々を長く走り、飛び、歩き続けるとやっと皆が待つお山に足を踏み入れた。

「たぁー、やっとお山に着いたー」 バテかけている風狼が膝に手をついて背を曲げる。

「お前・・・ホンットに体力がないな」 後ろを歩いていた平太が突き出された風狼の尻を蹴った。

つんのめって前にこけかけるのを何とか止めると、振り返り平太に文句を垂れる。

「痛ってー、何すんだよ。 修行で疲れてんのに、お山に帰ってくるまでも修行並みだったんだぞ。 疲れるに決まってるだろー」 

「何言ってんだよ。 俺も同じようにしてるだろ。 お前だけじゃないだろーよ」

二人の言い合いを空で聞いていた主が風狼に話しかけた。

「風狼」 振り返る事をせず前を見たままだ。

「はい」 慌てて振り返り主を見る。

「帰ると驚く事があるぞ」

「驚く事ですか?」 風狼が主の後姿に問うと、その会話を聞いていた平太が思わず主の後姿に話した。

「主様、もしや・・・」 平太のその声に主がやっと振向いた。

「そうじゃ。 流石は平太じゃの。 分かったか?」

「はい。 まだまだ薄いのですが」

「なに? なに? 平太兄、教えてくれよ」

「お前、分からんのか?」

「分かんないから聞いてるんだろ」 ふて腐れて言う。

「帰ると分かるよ」 クスッと一笑いしてそう答えた。

「ちぇっ。 まっ、いいか。 帰ったら分かるんだから」 

「それじゃからいつまで経っても分からんのじゃがのう」 どうしたものかと主が溜息をつく。

それを聞いて平太が笑い、風狼は口を尖らせている。

三人でお山を登り、やっと着くと皆が出迎えた。

「主様ー! お帰りなさいー」 小さい子供達が主に飛びついた。

「おお、おお。 皆元気じゃの。 どうじゃ、怪我などはせんかったか?」 一番小さな子を抱き上げ子供達を見ながら話しかける主。

「こけたけど深堂(しんどう)ちゃまが治してくれたー」 「俺は峻柔(しゅんじゅう)ちゃまに治してもらった」 小さい子らが皆口々に主に話しかけた。

「そうか、そうか。 優しい兄様たちじゃのう」 子供達の後ろに立つ深堂。

「主様、お疲れでございました」

「うむ。 子達の世話、ご苦労であったな」 

「皆が手を貸してくれておりましたので」 すると主の後ろに居た峻柔が横に回り「お疲れでございました」 と言うと手を伸ばして言葉を続けた。

「涼乃(すずの) 主様はお疲れぞ。 こちらにおいで」 幼子を主の手から引き上げた。

「風狼兄ー。 遊ぼう」 今度は子供達が風狼にまとわりついた。 

「そうか。 みなもご苦労であったのう」 弟子達や、少し大きな子供達を労う。

「子供たちのことは風狼に任せて、中で木ノ葉が茶を入れております故」 深堂が言うと

「木ノ葉の入れる茶は美味じゃからのう」 そう言って小屋に向かって歩き出しながら

「それで、いつ帰ってきたのじゃ?」 深堂に聞くと

「少し前でございます」 風狼は子供達とじゃれあっていて会話を聞いていない。

「そうか。 どこにおるのじゃ?」 

「それがすぐに獣のところに行きまして・・・主様が帰ってこられる気も感じられぬとは修行が足りませぬな」

「ははは、言ってやるな。 獣に夢中なのであろう」

「そのようです」

「浄紐(じょうちゅう)と勝流が見当たらんな」

「はい、浄紐兄様は主様が出られた後暫くして里で不可思議な事があると助けの求めがあったので、それからずっと出ておられています」

「そうか・・・それでか・・・」

「何か?」

「いや、それで勝流は?」

「主様が帰ってこられたというのに、どこへ行ったのやら」 深堂の表情が曇った。

「そうか・・・」 その時、子供達と遊んでいた風狼が

「主様! 俺の驚く事ってなに? 何も驚く事なんてないけどなぁ・・・」

「主様? 風狼は知らないのですか?」 深堂が主に尋ねた。

「ああ、何も言っておらん。 風狼も何も気づいておらぬ。 いつになったら分かるのやらのう」

「言ってもよろしいのでしょうか?」

「そうじゃの、そろそろ教えてやろうかのぅ。 教えてやってくれるか?」 そう言うと座布団の上に座り難しい顔をしかけたが、すぐに木ノ葉から茶を受け取ると木ノ葉に優しい笑顔を返した。

「風狼、お前分からんのか?」 荷を下ろしている風狼が顔を上げ深堂を見る。

「え? 深堂兄まで平太兄と同じことを言うのか?」

「なんだ、平太も同じことを言ったのか?」 同じように荷を下ろしている平太の方を見て言うと

「深堂兄様、こいつ本当に何にも分かってないんです。 風狼、お前普通以上に鈍感じゃないのか?」

「けっ、そんな言い方しなくていいだろ」 口を尖らせている風狼を見て深堂が思いがけない言葉を発した。

「風来だよ」 

「え?」 袋から荷物を出しかけていた風狼の手が止まった。

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