大福 りす の 隠れ家

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みち  ~満ち~  第251回

2015年11月10日 14時39分14秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第250回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~満ち~  第251回



「どうして蹴ったりするんだ!」 怯えた目をして動けずにいる獣達。 

腹を蹴られたのか、横たわっている獣もいる。 

その中で、足から血を流している獣がいた。 その傷を見ると何かに気付いたのか傍へ行き屈んで傷をよく見た。

「この傷の入り方・・・」 お山を出る前にずっと見てきた傷と同じ入り方。

「俺の居る間からずっと獣達を傷つけてきたのか!」 睨みつけた。

その睨みつけられた相手が言葉を吐く。

「おお、怖い顔だ。 そんなに大したことじゃないだろう。 ちょっとした遊びだよ。 ・・・それより、随分と背が伸びたんだな」 横にあった岩の上に座って悪びれる様子もなく言う。

「背? 背なんてどうでもいい。 獣を傷つけて・・・どれだけ痛い思いをしたか、怖い思いをしたか・・・」 癒していた時の事が頭をかすめた。 

不安そうに傷口を舐めていた獣達・・・胸が詰まって一瞬次の言葉が口から出なかったが、それでも口を引き結んだ後、続けて口にした。

「こんな事をして・・・獣を馬鹿にするんじゃない!」 見開かれた瞳に閃光が走る。

だが、その瞳で睨まれても何も動じない。 何も感じない。 呆れたような顔をするだけ。

「何を息巻いてんだよ。 それになんだよ、その口の聞き方。 ずっとお前を可愛がってきてやったこの兄様に言う言葉か?」 兄様・・・勝流。

「今は獣の話だ!」

「獣? そんな事はいい。 出来の悪いお前を誰が一番可愛がってきてやったと思ってんだ。 少しの間此処に居なかったからって忘れたんじゃないだろうな?」 

親指に人差し指を引っ掛けて人差し指を弾いた。 すると崖の端に前足から血を流して、動けなくなっていたうり坊の後ろ足の付け根の肉がスパッと切れたかと思うと、血が吹き出て倒れこんだ。

「何を!!」 すぐにうり坊に駆け寄った。

「上手いもんだろ。 骨は残してやってんだぞ。 まぁ、練習の成果ってやつだ。 加減してやってるんだから、それくらいの傷でどうこうなるもんじゃないだろうよ」 段々と無表情に、虚ろになっていくように見えるが、反対にどこか奥底で血を楽しむような感覚が伝わる。

うり坊を抱え傷を手で押さえると、勝流の顔をじっと見る風来。

「勝流兄・・・顔がおかしいぞ」

「俺の顔がおかしい? 何を言ってるんだ? 俺を馬鹿にしてるのか?」 無表情のその顔に冷たさが表れ片眉を上げて問うた。

「違う! いつもの勝流兄の顔じゃないって言ってるんだ。 あの優しい勝流兄じゃない・・・勝流兄、いったいどうしたんだ!?」

「はっ、何も出来ないお前が俺の事を何をとやかく言うんだ?」 

「勝流兄・・・憑かれてるのか?」 睨みつけていた風来の目は哀れみの目と変わった。



(ああ、うっとうしぃ・・・。 なぁ、今度はコイツをやろうじゃないか)



「何だと? 俺が、俺様が誰に憑かれるって言うんだ? この俺様に誰が憑けるって言うんだ?」 声に心が乱される。 だが、その自覚が無い。

立ち上がり、にじり寄る。

「争いたくない、落ち着いてくれ」

「お前が俺と争う? はっ、阿呆が」



(なぁ、早くやれよ。 獣よりこっちの方がやり甲斐があると思わんか?) 



「・・・お前にしろ木ノ葉にしろ・・・」 

可愛がっていたのに・・・手を握ってやってたのに、遊んでやったのに、慰めてやったのに、笑わせてやったのに、褒めてやったのに・・・今は必要とされていない。



(もう腕一本位は簡単に出来るんだ。 いや、腹から二つに割れるぞ。 やってみなよ。 楽しいぞ。 くくく)



「木ノ葉? 木ノ葉は関係ないじゃないか」 

「お前も木ノ葉も誰に一番可愛がってもらったんだ? 風狼だってそうだ、俺より後にやって来たくせにっ!」 拳を握り締めた。

「風狼? 勝流兄、何を言ってるんだ?」

「この俺様にお前如きが! お前みたいないつまで経っても何も出来ないひよっこに・・・何を言われなくっちゃいけないんだよー!」 勝流の気がいっきに上がり獣達の危険を感じた。

「みんな逃げろ!!」 その声と共に獣達の声や蹄の音が響いた。 



「主様これは!」

「うぬ、行くぞ!」

「はっ!」 とてつもない気を感じ取り、主と浄紐(じょうちゅう)が山に出た。



ずっと耳を澄ますようにしていた風狼・・・どこからか声はする。 会話は聞こえない。 どこか分からない。 

そこに獣達の蹄の音が響いてきた。 

「獣の走る音・・・上だ!!」 見上げ、一気に崖を駆け上がった。 

崖を上がりきったそこには獣達を守り、逃がしている風来の姿とその前に仁王立ちの勝流の後姿があった。

「風来!」 血だらけのうり坊を抱え、反対側の崖の端に立つ風来がすぐに風狼を見た。

「風狼!!」 風狼と風来の間には勝流が立っている。 

後ろをチラと見た勝流。

「チッ、風狼か。 何しにきたんだよ」

「勝流兄・・・いったい何が・・・」

「風狼、危ない! 逃げるんだ!! 勝流兄がおかしくなってる!」

「俺がおかしい? 俺のどこがおかしんだ? えっ? 言ってみろよ。 お前如きが俺の何を分かってるって言うんだっ!」 

腕を斜め一直線に動かしたかと思うと太い木の幹が落ち、余波で怯えて逃げる事が出来なかったうさぎの身体から血が噴出し倒れた。

「勝流兄! もう止めてくれ!」 うり坊を抱きながらうさぎに近づこうとすると、勝流が風来ににじり寄ったかと思うと、先に倒れていたうさぎの耳を掴み

「言ってみろよー!」 うさぎが風来の頭上高く放り投げられた。

「なにを・・・!」 風狼が思わず叫ぶ。

「風狼こいつを頼む!」 そう叫ぶや、風来が抱いていたうり坊を下に置き、うさぎを追って地を蹴り上げた。

「なっ!! 風来! 無理だ!」 風狼の言葉も遅く崖を飛んだ風来。 空中でうさぎを受け止め、胸に抱え体勢を立て直そうとした。

その姿を追いながら風来の飛んだ崖に走り風来を追おうとした風狼の後ろから

「生ぬるい事言ってんじゃないよー! お前に何が出来るって言うんだよー!」 その声と共に殺気を感じ振向いた。

勝流が大きな石を持ち上げ風来めがけて投げようとしている。

「止めろー!!」 風浪がすぐに勝流に向かって止めようとしたが、時既に遅くその石は勝流の手から離れた。

「風来ー!!」 風来の姿を追って風狼が飛びかけたその時、勝流が風狼の腕を掴んだ。

「風狼・・・どうして俺がお前に抜かれなくっちゃいけないんだ? どうしてだ? 俺よりお前のどこに筋があるってんだよー!」 その言葉を聞いて目を見開いた。

あの時、主が言ってくれた言葉。 何よりもの励みとなった言葉。 ずっと忘れず覚えている。

主との、その会話を聞いていたのか。

「離せー!」 勝流の手を振りほどき風来のあとを追って崖を飛んだ。 

崖の下は木の藪。 既に風来の姿は見えなくなっていた。

「風来! 風来! どこだー!! どこに行ったー!!」 風来の姿を探す風狼のその下を一直線に崖を駆け下りる一匹の鹿がいた。



疾風の如く山を駆け上がり、風狼の元に着くと血だらけの風来を抱きかかえる傷だらけの風狼の後ろ姿が目に入った。 風狼は木の藪に飛び込んだ。 

「風来! 風来!! 目を開けるんだ!! 俺だ! 帰ってきたんだろ!! 俺を見てくれよー!!」

「風来・・・!」 思わず浄紐が叫んだが、その姿に息がないことは充分見て取れる。

「浄紐! すぐに勝流の元に向かえ」

「はっ」 浄紐は目を瞑り、人差し指を額に当て勝流の気を追う。

いや、もう勝流の気は薄すぎる。 浄紐にも感じる事が出来ないほど勝流の気は無いに等しかった。 切り替え、勝流に憑いた気を追う。

そしてすぐに崖を駆け上がって行った。

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