大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第215回

2015年06月30日 22時02分45秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第215回



琴音が口火を切った。

「あのね、前に言ってた話なんだけど」

「ん? どのこと?」 見当はついていたがとぼけて聞いた。

「会社を閉鎖してその後の事」

「その話ね。 どうするの? 実家に帰るとかどうかって」

「うん、そうする事に決めたの」

「え!? グフッ!」 一瞬喉が詰まった。

「大丈夫?!」 ゴホゴホと咳き込む。

「背中さすろうか?!」 立ち上がろうとした琴音に、要らないと伝えるように手を振り、今度はコンコンと言ったかと思うと大きく息を吸って吐いた。

「・・・もう、驚かすんじゃないわよ」 

「ごめん、ごめん。」

「・・・本当に決めたの?」 咳き込んだときに離したフォークを手に取り、どこか寂しそうな声だ。

「うん。 まだ今の会社がいつまでかはハッキリしないから、具体的にいつ実家に帰るかは決まってないんだけどね」 ケロっと言ってのける琴音。

「そっか・・・」 琴音が決めた事。 自分が寂しいからと冗談でも引き止めるわけにはいかないと腹を据え

「そうなんだー。 決めたんだー」 さっき持ったフォークを置いてコーヒーを両手で包み込むように持った。

「でも、琴音の実家って帰っても仕事がなさそうなんじゃなかったの? 仕事はどうするの?」 やっぱり親の年金を食いつぶすの? と聞く余裕はない。

「それがね・・・」 正道とのことを話した。

「え? 動物の痛みを取るってそんな事ができるの? それに心を癒すとかって、それ何? 言葉が話せないんだから何を考えてるか分からないじゃない」

「実際、正道さんがされてるし、私は今はまだお勉強中だから 出来るかどうかは分からないんだけど、やってみようと思うの」

「あははは、そうなんだ。 じゃあ私が何を言っても琴音は実家にいくんだ」 琴音の話を聞いて自分が何を言っても、引き止めようとも、琴音を困らせる事はないと踏んだ。

「え? 何? 何の事?」 全く見当がつかない。

「はっきり言う。 本当のことだし」 琴音の目を見据えた。

「うん、いいたい事は言って」

「・・・コホン」

「・・・」 文香の目をじっと見ていると

「・・・琴音が遠くに行くのは寂しいんだけどっ!」 一際大きな声。  

「・・・」 その言葉を聞いて鳩が豆鉄砲をくらった目をしている。

「な・・・何よその目」 

「プ・・・くくく・・・あーっははは」 鳩が・・・あ、いや琴音が腹を抱えて笑い出した。

「ちょ、ちょっと失礼ね!」 顔が赤面する。

「くくくー」 笑いがなかなか止まらないようだ。

「いつまで笑ってるのよ」 フォークを手に持ち、パスタをクルクル回しだした。

「ふ・・・文香、顔が赤いわよ」 そしてまた、くくくと笑い出す。

「バカじゃない!」 クルクルクルクル。

「くく・・・もしかして私、文香に愛されてたの?」 

「バッ! バカ言ってるんじゃないわよ! その気はないわよ! 私は男のほうがいいわよ!」

「バカはそっち。 当たり前じゃない。 友として愛してくれてたのかってことよ」 わざとニンマリした顔で文香を見ると、照れたように手元を見ながら

「あ・・・当たり前じゃない」 クルクルクルクル。

「そんな風に言ってもらえると嬉しい~。 私も文香を愛してるわよ~」 

「何? その心のこもってない言い方」 横目で見る。

「簡単に逢えなくなるだけでいつでも逢えるから、ね?」 そんな事は分かっていると思ったが言葉にはしなかった。 その代わりに

「はぁー。 やっぱり琴音はそっちの道に行くようになってたんだー」 そう。 この事を思ったから、自分が何を言っても琴音はこの道を行くと思ったのだ。 だから心のままを言ったのだ。

「うん? そっちって?」

「私には持ち合わせてない不思議能力の道」

「あ、正道さんが言うにはこれってみんな持ってるんだって。 ただそれを上手く使えるかどうかだけの問題なんだって」

「そんなの有り得るわけ無いじゃない」 やっとパスタを口に入れた。

「そんな事ないって。 ・・・って、まだ私にも出来ないから何とも言えないんだけど」

「大丈夫よ。 琴音なら出来るわよ」

「出来るといいんだけどね。 まだまだなのよ」

「そっか、琴音のあるべき道を歩んでいくのね。 私にはよく分からないけど頑張んなさいよ。 応援してるわ」 

「うん、有難う」

「でも、動物相手にってそんなに患者・・・って言っていいのかしら? どう言っていいのか分からないけど、病気を治して欲しいって思っている人がいるの? それにみんな病院へ行かない?」

「正道さんが目指しているのは動物を救いたいと言う所なのね。 だから主に飼い主のいない動物を救いたいの」 

「飼い主のいない動物?」

「そう。 飼い主がいると病気をすればそれこそ病院にも連れて行ってもらえるからね。 勿論、飼い主のいる仔も何かトラブルがあったりしたら見るんだけどね。 
それでね私も初めて聞いたんだけど、動物管理センターから引き取ってきた仔たちの里親探しをしている団体があったりするらしいのね。 
そうなると里親が見つかるまで一時預かりをしているわけじゃない? だからその間に動物が悲しい目にあったことを癒してあげたり、痛めた身体を治してあげたりというのが大きな目的なの」

「へぇー。 そんな風に考える人って他にも居たのねぇ」

「え? 他にもってどういう事?」

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