大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第214回

2015年06月26日 14時27分11秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第210回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~道~  第214回



携帯が鳴った。 文香からだ。

「もしもし」

「琴音? 今から家を出るからね」

「あら? 酔っ払い覚えてたの?」

「その言い方なにー? 確かに気分上々にはなってたけど、正体不明にはなってないからー」

「へぇー。 それは、それは」

「今日も暇なんでしょ?」

「今日もって何よ!」

「あ、悪い。 言い直す。 毎日暇でしょ?」

「文香!」

「とにかく今から家を出るけどいい?」

「暇ですからいつでもどうぞ」

「じゃ、待っててね。 あ、お昼にお弁当を買っていくからね。 一緒に食べよ。 何も食べないでいてよ」

「分かった。 気を付けて来てね」 携帯を切った。

「お弁当を買っていくか・・・暦ならありえない言葉ね。 ・・・って、私は暦の方がありえないけど」 


2時間後、ドアチャイムが鳴った。 ドアを開けるとコンビニ袋を下げた文香が立っていた。 

「ゴメン、ゴメン。 遅くなっちゃったー」 

「ホントに遅ーい。 何してたのよー。 まっ、その前に入って」 文香が玄関に入り靴を脱ぎながら

「琴音との電話を切った途端に 今日、出勤してる部下から電話がかかってきて」 ここまで言うと

「え? 会社に行かなくちゃいけないんじゃないの?」 先に廊下を歩いていた琴音が振り返って聞いた。

「うううん。 大丈夫。 取り立てて難しい話じゃなかったから」 脱いだ靴を揃え廊下を歩きながら言うと

「本当に良かったの?」 先を歩きだした琴音が言った。

「うん。 大丈夫。 取引先の社長の奥様が私を気に入って下さってるみたいで一度お断りしてたんだけどね。 どうしても今日私と会いたいって仰ってさ、優し~くお断りするのに時間を取ったってだけ。 トラブルとかじゃなかったから大丈夫よ」 キッチンに入った文香がコンビニ袋をテーブルの上に置き、バッグは椅子に置いて上着を脱ぎだした。 

「ふーん。 それならいいけど・・・」 横目で文香を見た。

「なに? その目は何が言いたいわけ?」 脱ぎかけていた動作がとまった。

「部下だって」 文香を茶化すように言うと

「部下は部下よ。 それがなによ」 上着を脱いだ。

「はぁー。 昇進したものね。 同じ会社に居たとは思えないわ」

「なに言ってるのよ。 琴音だって前の会社に居たらどうなってたか分からないじゃない。 急に辞めるからよ。 それより、お腹すいたー。 すぐ食べるでしょ?」 上着を椅子の背もたれに掛けた。

「うん。 お茶入れるわね」 

「あ、パスタを買ってきたから コーヒーの方がいいかな」

「そうなんだ。 えっと、文香はブラックだったわよね。 変わってない?」

「うん。 お願いしま~す」 琴音が文香のブラックコーヒーと琴音のお茶を入れている間に文香はコンビニ袋からパスタとサラダを出し始めた。

「あ、サラダも買ってきてくれたの?」

「うん。 サラダから食べなきゃ太るでしょ?」 

「そんな事考えてるの? 文香は細いからいいじゃない」

「この歳になるとそんな事言ってられないじゃない。 引力に逆らえないお肉をちょっとでも増やせないわよ。 で、言ってる事とやってる事がちょっと違うスイーツ付き。 美味しそうでしょ」 笑いながら琴音に見せた。

「美味しそう。 でも細い文香でもそんなこと考えるんだー。 あ、いくらだった?」 テーブルにコーヒーとお茶を置きながら聞くと

「いいわよ。 おごり。 昇進してるんだから。 高給取りのおごりよ」 順に蓋を開けていく。

「ぐ・・・言い返せない」

「でしょ? でもね事実なのよ~」 わざとらしく言う。

「じゃあ、お言葉に甘えて」 薄給の自分に少しでもお金を出させないようにと気づかってくれているのが分かるから素直に受け取る。

「甘えて、甘えて。 ね、和室で食べちゃ駄目?」

「いいわよ。 でも、なに?」

「毎日椅子だから和室にベタンと座りたいの」

「わー、そんなに思うほどハードなの?」

「今まではね。 でも営業として大きく道を敷いて あとは他のチーム任せだから、これからはゆっくり出来ると思うわ」 パスタを持って和室に行こうとしている文香を見ながら スイーツを冷蔵庫に入れている琴音が

「その仕事がよく見えないんだけど。 いったい何なの?」 冷蔵庫を閉め、琴音もお盆にコーヒーとお茶とサラダを乗せて和室に歩いた。

「ゴメン。 琴音が口外するとは思ってないんだけど まだ本格的に動いてるわけじゃないから言えないの」 持っていたパスタを机に置く。

「そうなんだ。 うん、いいわよ。 気にしないで」 琴音も机にお盆を置きお茶やコーヒーをお盆からおろす。

「わぁ、この感覚がいいのよねー」 文香が座布団の上にペタンと座って言う。

「どうして? 家で座ればいいじゃない」

「ほら、うちはリビングがソファーだし、それにまだ寒いじゃない? わざわざ北側の和室に行って座ることもないからね。 ・・・だけど何か違うのよね」 人差し指を顎に当てながら目だけで上を見る。

「何かって?」

「なんだろ? 何か分からないんだけど、この部屋がいいのかしら?」 顎に指を当てたまま顔を傾ける。

「この部屋?」

「分からないけどなんか落ち着くのよね。 ね、食べよう」 顎から指が離れその手でフォークを持った。

「ふーん。 何だろう。 まっ、うん。 頂きます。 美味しそうなパスタね。 さっきのスイーツといい、この何年かコンビニなんかに行く事がなかったけど 進化してるのねー」

「なに? お昼とかは社食なの?」

「社食なんてないわよ。 お弁当」

「毎日作ってるの?」 フォークでパスタをクルクルと巻いていた動作が止まった。

「うん。 って言っても前の日の残り物を詰めてるだけだけどね」

「っていう事は夕飯はちゃんと作ってるのね。 私なんて殆ど外食かコンビニよ」 

「あのね、外食をしたくてもコンビニに行きたくても お給料が少ないからそんな贅沢は出来ないだけなの。 スーパーで食材を買って適当に作ってるだけよ。 私が料理が好きじゃないの知ってるでしょ?」

「そうよね。 琴音も私も家の用事は苦手だもんね」

「ほら、喋ってないで文香も早く食べなさいよ。 それでなくても食べるのが遅いんだからパスタが冷めちゃうわよ」

「あ、うん」 途中で止まっていたクルクルと巻く動作を続け、ようやく口に運んだ時、文香が叫んだ。

「サラダから食べるんだったー! 太るー!」


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« みち  ~道~  第213回 | トップ | みち  ~道~  第215回 »
最新の画像もっと見る

小説」カテゴリの最新記事