大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第219回

2015年07月15日 20時22分16秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第210回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第219回



琴音がすぐに椅子を用意し全員が椅子に座った。 

が、プレハブの中には何もない。 
琴音がお茶の用意をしようとしたが よく考えるといつも正道がお茶を入れてくれていたのだ。 何をどうしていいのか分からない。 

その様子を見ていた正道が

「琴音さん、よろしいですよ。 私がお茶を用意いたしますから」 その言葉を聞いて誰よりも驚いたのが文香だ。

「と、とんでも御座いません。 私がご用意致します。 勝手に触らせていただいて宜しいでしょうか?」

「いえ、いえ。 お客様にそんな事をしていただくわけには・・・」 ここまで言うと奥様が

「正道様、喉も渇いておりませんから何も宜しいですわ。 それより、少しでも沢山お話を致しませんこと?」 琴音と文香への助け舟となった。 

文香も勝手にしようとはしたが何が何処にあるかわからない状態だ。 

すると正道が

「それではお言葉に甘えまして」 椅子に座りなおし

「お知り合いがレスキューをされているとお話を聞いておりますが?」

「私くしの知り合いが直接レスキューをしているわけではございませんの。 そうですわね、お手伝いをしている程度なんですの。 
今は海外旅行に行ってらっしゃいますので そんな時に連絡を取るのも無粋ですから 少しお時間はかかるかもしれませんけれど、その方を通じてレスキューに詳しい方から連絡を取っていただけるように致しますわ。 
正道様が望んでいらっしゃるマネジメントまで出来る方がいらっしゃるかどうかは分かりませんけど・・・探して下さるようにお願いは致しますけど もし見つからなかった時にはそれでも宜しい?」

「何よりもしっかりとした切っ掛けが出来るだけで充分でございます。 嬉しいですなー。 有難う御座います」

「まぁ、正道様にそんな事を仰っていただけるなんて雲の上にいるようですわ。 私くしの方こそ嬉しい限りですわ」

「いえいえ、この事は何も分からない若輩者でお恥ずかしい限りです。 
それにこちらはまだすぐに始める事ができませんから、お急ぎになっていただかなくても結構でございます。 
それとよくご存知の方がマネジメントをして下さるに越した事はないのですが、こちらもずっと人を探しておりましたら とても良い方をご紹介していただいて・・・あ、この方面に関しては素人なのですが 色々勉強していきたいと仰ってくださっておりまして、その方がマネジメントをして下さりそうなんです」

「まぁ、そうなんですの? それをお聞きして少し肩の荷が下りましたわ。 でも、まだ始める事が出来ないと仰るのは?・・・文香さんからは建物からはじめると聞いていましたが、車で入った時に建物を見させていただきましたけれど、もう始められるのではありませんの?」

「いえいえ、建物は大分建ってきてはいるのですが レスキューの方からお話を聞かせていただいて何が必要かをお聞きしてから 色々と揃えていかねばならないところもありますし 何と言っても全てが手探り状態ですから急がず慌てずでしてな」

「ファイナル様のところでお話しをされていた 『必要な時にはそれが来る』ですわね」

「おお、よく覚えて下さって。 あの時にも申しましたが講演なんていうものは生まれて初めてでございまして 何を話していいのやら見当もつきませんでしてな」 恥ずかしそうに頭を掻き そのまま正道と奥様の会話は続いた。

それを後ろで聞いていた琴音が

(ファイナル・・・ファイナル・・・聞き覚えがあるんだけど。 ・・・どこで聞いたのかしら) そう考えていると琴音の隣に座っている文香が小声で話しかけてきた。

「私も奥様にお誘いをうけてたのよ。 その時に行っていればお師匠・・・正道さんの話を聞けてたのよねー。 前日が打ち上げだったからちょっと厳しくて断っちゃってたの」 文香からの耳うちで

「打ち上げの次の日って・・・あ、あの日? 文香がうちに来た日?」

「そう。 あの日に正道さんの講演があったのよ。 ほら、朝も断ったって言ってたでしょ? まさか講演をする人が琴音とこんな関係があるなんて思いもしなかったからね」

「ああ、正道さんが言ってた思いもしなかったお仕事ってその事だったのね。 へぇー正道さんが講演なんてされるのねぇ」

「噂ではそのファイナルさんの・・・あ、ファイナルさんっていうのは 大きな会社なんだけどね、奥様とファイナルさんの社長の奥様がお知り合いなのよ。 そこの営業部長さんだったかしら? その方が正道さんに体調を整えてもらってたらしいの。 それでその流れで依頼したらしいわよ。 ファイナルさんの本社から支社、営業所まで来たからかなりの人数だったはずよ」

「ファイナル・・・営業部長?・・・あ! もしかしたら・・・」 やっと思い出したようだ。

「そのファイナルさんの営業部長さんって何かスポーツをしてるの?」

「えっと・・・何だったっけ? 詳しくは覚えてないけどマリンスポーツみたいよ。 そのマリンスポーツで身体を痛めて病院に通ってるうちに 正道さんの噂を聞いてそれが始まりって聞いたと思うけど」

「うわ、この繋がりって何なの?」 ファイナル社。 悠森製作所での最後の大仕事をした会社だ。 そしてその営業部長が悠森製作所の社長の知り合い。

「なに? どうしたの?」 様子のおかしい琴音を見て文香が聞いたが そう聞かれても今までの色んなことが頭をよぎり 説明するのももう面倒臭くなっていた。

「何でもない」 そっけない返事だ。 

思わぬことに気を入れ直そうと窓から外を見ると 運転手がこちらに歩いてくるのが見えた。 

そのままじっと見ていると 琴音と目が合い運転手は窓の外で会釈をした。 何事かと思い琴音が外に出た。

「どうかされましたか?」 と聞くと

「申し訳ありません。 もうそろそろ次の時間がございまして」 奥様のスケジュールはハードなようだ。

「あ、はい。 遠野様にお伝えします」 プレハブに入ると文香が琴音を見ていた。

すぐに琴音が腕時計を指差す素振りを見せると、その様子を見た文香がコクリと頷いた。

正道と奥様の話の切れ目を伺い、後ろから奥様に伝える。

「お話中申し訳ありません。 奥様、そろそろお時間が」 

「え?」 振り返った奥様の目に一瞬、窓の外の運転手の後姿が映り時計を見た。

「まぁ、もうこんな時間になっていましたのね。 私くしったら一人でベラベラとお恥ずかしいですわ」 琴音と文香が話している間に正道と奥様の話も弾んでいたようだ。

「いえいえ、そんな事はございません。 為になるお話を聞かせて頂いて嬉しゅうございました。 この様なお話はご経験のある方からしか聞けませんから。 有難う御座いました」

「それでは 何か分かりましたらすぐに正道様にご連絡を致しますわ」

「お忙しいのに申し訳ない。 宜しくお願いいたします」

「とんでも御座いません。 少しでもお役に立てるかと思うと私くし、嬉しくって。 今晩あまりに嬉しくって寝られないかもしれませわ」 最初に正道を見たときの興奮が蘇ってくる。

「それでは失礼致します。 文香さん行きましょうか」 

「お気をつけて」 正道が軽く会釈をし琴音は車まで送って行った。

走り去る車を見送り、プレハブに戻ると仔犬と目が合った。

「なに?」 いつもと様子が違うような気がして、しゃがんで仔犬を撫でるとジンと伝わってくる物があった。

「この感覚は何なのかしら・・・」

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