大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第218回

2015年07月10日 14時57分59秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第210回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第218回



車の音が聞こえた。 琴音が窓の外を見ると黒塗りの見知らぬ車が入ってきた。 

「文香の車じゃないわ。 それにしても仰々しい車」 ロールスロイスである。

窓際へ歩いて行き、車をじっと見た。

「奥様の車かしら? え? 奥様の車を文香が運転してきたって言うの? それともあの方向音痴がナビゲーターをしたの?」

「どうしました?」 琴音の横に立ち、正道も窓の外を見た。

「約束の時間より随分早いですけど、もしかしたらお話していた友達かもしれません。 ちょっと見てきます」 プレハブを出ると丁度 運転席からスーツ姿の見知らぬ男が出てきた。

「あら? 男の人? っていうことは、文香じゃないのかしら?」 琴音がそう思った瞬間、運転席の後ろから文香が降りてきた。

「あ、文香・・・」 男は運転手のようだ。 

サッと助手席後ろに回りこんで後部座席のドアを開けた。 文香も後部座席から出てくる奥様を迎えるように、すぐに助手席うしろの後部座席へ移動していた。 その様子を見ていた琴音が

「わぁ・・・貴方の知らない世界どころか 私の全っ然知らない世界だわ」 遠目にその姿を見ていると琴音の姿に文香が気付き

「琴音!」 奥様を憚るように、が、少し大きな声で琴音を呼んだ。 

驚いて我に返った琴音が文香の元に走り寄った。

「文香、こちらの方が?」

「ええ」 琴音にそう返事をすると文香が奥様の方を見て

「奥様、織倉琴音さんです」 と、琴音を紹介した。

「初めまして。 まぁ、いいお顔をされていますわね。 あ、失礼。 私くし遠野愛子と申します」

「始めまして、織倉琴音と申します。 今日はお忙しい中、遠い所を有難う御座います。 プレハブなんですがあちらへどうぞ」 琴音を先頭に三人で歩き出すと、奥様が文香に耳打ちをした。

「真っ直ぐでなかなか良い目をしていらっしゃるわね」

「はい、とても怪しむような人間ではございません」

「そうね。 でもそれだけに素直すぎて騙されていらっしゃるかもしれませんからね。 その師匠とかを見なければ判断は出来ませんわ。 もし、この真っ直ぐな目を利用しているようなら懲らしめなくてはなりませんからね」 なかなか手厳しい奥様のようだ。

窓から様子を見ていた正道が出迎えるためにプレハブから出てきた。 

文香とコソコソと話していた目がその姿を捉えた。

「え?」 一際大きな声、奥様の足が止まった。

正道の姿を見た奥様の目が急に変わった。

「奥様どうなさいました?」 半歩下がって歩いていた文香が何事かと奥様を覗き込むようにして尋ねた。 

もしここで何かあっては、身体の具合でも悪くされては・・・一瞬にして仕事が頭をよぎった。 琴音も歩を止め、振り返る。

だが、そんな文香の思いなどどこ吹く風かと言うように

「あの方は・・・正道様じゃございませんこと?」 琴音と文香が驚いて目を見合わせた。 

「あ・・・あの、奥様?」 文香の言葉が聞こえなかったのか正道の元へ走り寄る奥様。

「正道様ですわよね?」 抑えきれない昂揚感。

「はい、正道と申します。 ・・・失礼ですがどこかでお会いしましたでしょうか?」 申し訳なさそうに、記憶を辿るように聞くと

「正道様が私をご存じないのは当然ですわ。 あ! まぁ、私くしったらなんて不躾な、ご挨拶もせずに・・・私くし、遠野愛子と申します。 先日、ファイナル様の講演で正道様の講演を聞かせていただきましたの」

「あ、ああ そうでしたか。 いや、一度お会いした方のお顔は覚えている方なので少しばかり焦りました」

「あの時のお話は素晴らしかったですわ。 それにこうしてまたお会いできるなんて思ってもいませんでしたわ」

「あの・・・奥様?」 今度は後から走ってきた文香の声が耳に入ったようで

「あ、あら 文香さんごめんなさい。 私くしったら興奮してしまって」 少し落ち着いてきたようだ。

「お師匠様をご存知だったんですか?」

「ええ、素晴らしい方よ。 このお話を聞かせて頂いたときに疑いの心を持った自分が恥ずかしいですわ」 その返事を聞き目を輝かせて文香が続けて聞いた。

「それでは このお話は?」 

「ええ、勿論。 こちらからお願いしてでもご協力させていただきますわ」

「有難うございます!」 我が事の様に喜こび、後ろに立っていた琴音を見て 

「琴音やったね!」 と思わず言ってしまった。

「・・・あ、お品のないお言葉でしたわ」 すぐミセス遠野をみて言った。

「文香さんが喜んでくださって嬉しいわ。 それにこんなチャンスを文香さんから頂いて私くしの方こそ感謝ですわ」 その会話を聞いていた正道が

「ここでは何ですから。 どうぞ中に入ってください」 そう言った時に入り口に繋がれキョトンとしている仔犬にやっと気付いた奥様。

「あら? ヨープーちゃんですわね」

「ヨープー?」 正道がキョトンとした。

「ええ、ヨークシャテリアとトイプードルのミックスですわ」

「ミックス?・・・ですか?」 日頃落ち着き払っている正道が驚きを隠せない。

「ええ、昔はスタンダードを混ぜると雑種と言われましたけど、今はミックスと言いますのよ」

「そうですか。 いや、何も知りませんでした。 ミックスですか・・・」 正道の表情を見て奥様がイタズラな目をして

「下手に雑種って言いましたら怒られますわよ」

「そうですか・・・そんな所でも時代は流れていたんですなぁ・・・いやはや、新しい事を始めると色んな所で時代の流れを感じておりまして」 

「私くしもですわ。 正道様の様に何も新しい事をしているわけではございませんけど、最近は特に時の流れが早すぎますわ。 ついて行けない事が多くて嫌になってしまう時があります・・・それなのに、時の流れが早いのに病気の治りが遅いなんて・・・」 先ほどのイタズラな目とは違う。 

飼っている犬の病気がなかなか治らないようだ。 時の流れが早いのなら病気も早く治ればいいのに・・・。 そんな風に思っているのだ。

「奥様?」 何を言っているのかと文香が尋ねた。

「あ、あら、私くしったら、何を言ってるのかしら。 お名前はなんて仰るのかしら?」 奥様の質問に琴音が答える。

「仔犬ちゃんって言います」

「え!? 仔犬ちゃん? 変わったお名前ねぇ」 奥様のその返事を聞いて琴音が説明をすると

「あら、それじゃあ ご両親様がお名前を決められるといいですわよ。 きっとご両親様も想うお名前があるはずですわよ」

「今から名前を変えて覚えてくれるものでしょうか?」

「大丈夫ですわよ。 心をこめてお名前を呼んでいるとワンちゃんも覚えてくれますわよ」 それを聞いていた正道が

「琴音さん、琴音さんには他の方法でも出来るはずでしょ?」

「仔犬ちゃんに話しかけるという事ですか?」

「はい、そうです。 ご両親様にいいお名前を付けてもらうと宜しいですよ。 さ、それでは何もありませんが中にどうぞ」 正道と共に全員がプレハブに入った。

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