大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第191回

2015年04月07日 15時35分04秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~道~  第191回



「ふうろう・・・どこで聞いたのかしら」 湯船に浸かりながら考えていると久しぶりに喋りすぎた疲れからかウトウトとし始めた。



   ~~~~~


(え? ここは?) 辺りをキョロキョロとした。

(愛宕山? ・・・そっか、夢を見ているのね) 愛宕山の頂上から空也滝へ向かう7キロルートを下山している何度も見てきた風景だ。

キョロキョロし終わった後・・・と言っても夢の中の琴音はキョロキョロなどしていない。
いつもの様にただ息を上げ黙々と下山している。
が、心の中にはキョロキョロとしたもう一人の客観的な琴音が居る。

(えー・・・私ったらいつもこんなに息を上げて山を降りてたの? 情けないー。 何度登ってもやっぱりまだまだ体力がつかないのね) 自分自身に呆れながらふと考えた。

(でも、どうしてこんな夢を見るのかしら・・・私って今、お風呂に浸かってるのよね。 だったら桂川を渡った時の夢とか・・・あ、あの時は川の水が冷たくて気持ちよかったから、お風呂のお湯に浸かってちゃ感覚は違うわよね。 でも少なくとも普通水関係の夢を見ない? ・・・ここの所、愛宕山に行ってないからかしら) そんな心の中の琴音とは裏腹に夢の中の琴音は息を上げながらずっと歩いている。 

そこに後ろから少年の声が聞こえた。

「オイ! 待てよー。 勢いつけすぎだぞー」

「これくらい何でもないさ。 早く来いよ!」 その声と共に走っている足音も聞こえだした。

(え? これって・・・あの時と同じシチュエーションじゃない・・・) そう、これと同じシチュエーションを以前目の前で現実に見ていたのだ。

(先に走ってた男の子の勢いがつきすぎて山道を曲がりきれずに滑って1メートルほど落ちたんだったわ。 確か木の根っこに引っ掛かって下まで落ちなかったはずだけど・・・) 

山の道はクネクネと曲がりその曲がり方は90度より鋭角だ。 下り坂の傾斜も穏やかなところとは違い勢いをつけて走っているとそれに拍車がかかり、片側が山肌に沿った道もあるがここは数メートルの間、両側が崖になっている。 
それに晴れ間が続いたために山の土も滑りやすい砂となっていた。

「おい! 危ないって! スピードを緩めろよ!」

「ビビッてんじゃないよ!」 

(セリフも同じだわ・・・) 後ろから近づいてくる少年達の走る足音が間近に近づいてきた時、夢であると分かっていても現実を見てその危険性を分かっている。

心の中の琴音が危ないからと注意を促そうとした時、夢の中の琴音が振り返った。

そうなのだ。 あの時も危険性こそ分かってはいなかったが、あまりに大きな走る音が近づいてきた為振り返ったのだ。

だが、あの時には走ってくる少年達の姿を目にし端に避けたが、今は振り返って先に走ってくる少年の姿を見ようとしたときにはアッという間に琴音を抜き去った少年が走った後の砂埃しか目に入らなかった。

夢の中の琴音はまだ後ろを振り返っているが、心の中の琴音はすぐに抜き去った少年の後ろ姿を追った。

(え? どうしてこんなに早く走ってるの?) 実際に見たときよりも勢いが増している。

(あの時はこんなにスピードが出ていなかったわよ。 そうよ、だから落ちかけたときに身をかわせてちょっと滑り落ちたくらいで済んだのに、こんなにスピードが出ていたら身もかわせないじゃない!) あまりのスピードに驚いた。

(ダメ! このままじゃ完全に落ちてしまう! 誰か止めて!!)

そう思ったときには少年は曲がろうとするどころか身をかわす事もできず、山道を蹴り上げ崖をダイブしかけていた。 

(誰か!!) そして少年の身体が宙に浮いた姿を見て咄嗟に叫んだ。

「風狼(ふうろう)!!」 



   ~~~~~



湯船の中の琴音が大きな声で叫び、その叫びと共にもたれていた湯船から飛び起きた。

「え・・・私・・・今、風狼って・・・あの時そんな言葉を叫んでないわよ。 どうして? ・・・それに夢って分かってたのに・・・助けなんて要らないのに・・・」 頭の中がジンジンしている。 こめかみに手をあて

「風狼って?」 

名前を思い出してくれたね。 嬉しいよ、風来(ふうらい)。

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