大福 りす の 隠れ家

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みち  ~満ち~  第234回

2015年09月08日 15時06分47秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第230回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~満ち~  第234回



「風狼、そなたはこれからも修行に励むがよい」
 
「はい!」

「風来」 目先を風来に移す。

「はい・・・」 話を聞かれていたかと、下を向いて主の目を見られない。

「そなた・・・そなたには風狼程の筋はない」 言いたくない言葉を口にした。

「・・・はい」 己も充分、分かっている。

が、主のその言葉に反したのは風狼であった。

「主様! 風来は・・・風来は、今心が逸れているだけで! ・・・」

「今だけではない」 冷静な声音。

「主様・・・」 その声音に何も言い返せない。

「風狼、いいんだ」 風来が静かに言う。

「風狼よ、よく聞け。 そなた程の筋がないと言ったであろう。 けっして風来に筋がないわけではない。 だが、風来はそなたの様に厳しさ、強さを持ちあわせておらん。 分かるか?」 主のその言葉に答えたのは風来だ。

「風狼とずっと二人で居ました。 石を投げられました。 棒で叩かれました。 親なし子と言われて・・・。 
そんな時いつも風狼が守ってくれました。 風狼の強さは己が一番良く知っています」 風来のその言葉を聞いて風狼が幼い時の事を振り返り話す。

「俺が・・・俺が風来に石を投げた奴に仕返しに行こうとすると風来はいつも止めました。 自分が我慢すればいいことだと。 
石を投げられて、叩かれて痛いのはよく知ってるから仕返ししないでくれと。 額から血を流しているのに」 当時の事を深く思い出したのか、握った拳が震えている。

「そうじゃったか。 今までそんな話は聞かんかったな。 幼いたった二人で支え合って絶えてきたのじゃな」

「・・・」

「風来」

「はい」

「そなた、今のままでは余りにも中途半端すぎる。 擦り傷だけにも何日もかかるであろう?」

「主様?」 やっと、主の目を見た。

「このお山の獣達もお山には大切な生き物じゃ。 そなたが守ってやるがよい」

「主様・・・」

「そなた、住庵(じゅうあん)殿を知っておるな?」

「はい。 住庵様には初めてお会いした時に大層可愛がっていただきました」 風来のその言葉を聞いて風狼が思い返しながら空(くう)を見て話す。

「ああ、そう言えば・・・俺達がここに来て間がないときに来られて・・・そう言えば住庵様はずっと風来を横に座らせていたよなぁ」

「ははは、そうであったかのぉ。 住庵殿もすぐに気付かれたのであろうな」

「気付くって?」 風狼のその言葉に被って風来が懐かしげに言う。

「まるで父様のようにずっと手を握ってくださっていました」

「え? そうなのか? 俺は握ってもらってないぞ!」

「ははは。 よい、よい。 もうよいではないか、昔の事じゃ」

「ちぇー」 風狼の子供じみた顔を見て主が笑いながらも話を続けた。

「風来、住庵殿は癒しの手において、わしのはるか上のお方じゃ。 わしどころか、誰よりも優れた手をお持ちじゃ」

「あのお優しい住庵様が主様より?」 驚いて風来が聞き返す。

その風来にコクリと頷いて主か言葉を進める。

「どうじゃ? 住庵殿の所で学ばんか?」 

「住庵様のところで?」 そこに風狼が割って入る。

「え? 主様、住庵様は遠くに居られたんじゃなかったかと・・・」

「そうじゃ、遥か遠くじゃ」

「それじゃあ、それは無理です。 風来が俺と離れて過ごすなんて有り得ません。 なぁ、風来」 風狼が風来へ目を向けたが、風来には風狼の言葉が耳に入っていないようだ。

「・・・住庵様のところに行ってる間、ここの獣達を放っておくわけには・・・」 明らかに風狼への返事ではない。

「え? 俺は?」 

「さっきも言ったであろう。 そんな中途半端なもので何も守ってやれぬぞ。 それに修験の道とはまた違う。 そなたに修験の道は時間のかかるものであるが、癒しにはそなたの心があるのじゃから得とくにそう時間もかからんであろう」

「なぁ、風来。 俺は?」 風狼の言葉を他所に風来が主に話し続けた。

「毎日、毎日獣が怪我をしています。 それを放っては行けません」

「そんなことは風狼に任せればよい」

「えっ? 俺!?」 風来を見ていた目が突然の言葉に主を見る。

「丁度よい修行になるわい」 風狼をみてほくそ笑む。

「修行って・・・そんな・・・俺は獣がどうなっても知ったこっちゃないです。 喰われるものは喰われるだけです」

「風狼! そんな言い方するなって! 獣達がみんな聞いてるんだぞ」

「はっ? 獣に人間の言葉が分かるかってんだ」

「そこじゃ。 風狼に欠けている所がそこなんじゃ」

「欠けてるって・・・主様は俺に修験の修行をさせないおつもりですか? 獣の傷なんて治してる暇があったら俺は一つでも何かを覚えたい」

「なにも一日中見ていろとは言っておらん。 ・・・そうじゃな・・・気を感じる修行とでも言えば納得するか?」

「気を?」

「獣が傷を負えば気が弱くなる。 その気を感じられるようになれば大したものじゃがな」

「え? 大したもの?」

「そうじゃ」

「そうか・・・俺、まだ気を感じるのが苦手だからな。 大したものか・・・うん、俺やってみようかな・・・」 また主がほくそ笑んだが、風来は心配気だ。

「風狼、お前本当に傷を治してやってくれるのか?」

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