大福 りす の 隠れ家

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みち  ~満ち~  第233回

2015年09月04日 00時19分21秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第230回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~満ち~  第233回




----- 時は18世紀 -----



~~~~~~~~~~


(指を弾いてみろ)
 
「え?」 歩が止まる。

(指を弾いてみろ)

「な・・・なんだ?」 当たりをキョロキョロとするが誰もいない。

「気のせいだな」 歩を進めようとするとまた聞こえる。

(早く弾いてみろ)

「くそっ! 誰だ!」 大声を上げて周りを見るが、風に揺れる葉の姿しかない。

(指を弾け)

「いったい、何なんだ・・・」 我が手を見た。

(そうだ、その手で指を弾いてみろ)

「・・・」

(弾け!) 

「弾くってどうやって・・・」 目の前に掌をかざし、次に手の甲を見た。

「こ・・・こうか?」 親指に人差し指を引っ掛けて人差し指を弾いてみた。

先にあった葉がスパッと切れた。

「なっ!?・・・」

(・・・また会おう)


~~~~~~~~~~~



風狼(ふうろう)、風来(ふうらい) 十三歳。


「風来! またここに居たのか。 主様が探しておられたぞ」 

山の中、木々が茂っている急な下り道を抜けると、両横が大きな岩に囲まれた広い砂だけの山の合間。 
正面は木々が茂っているがなだらかな獣道が続いている。

「あ・・・ああ。 こいつがまた怪我をしたみたいなんだ」 屈んでいた風来が振向き、風狼の顔をチラッと見てまた手元に目をやった。 

鹿の足に手をかざしているのだ。

「またこの鹿か・・・」

「滑って岩にでも当たったのかな・・・切り傷もあるけど、びっこを引いてたから打った痛みがあるみたいなんだ」

「風来・・・いい加減にしろよ。 俺達は修行のためにこのお山に来たんだぞ」 腰に手を当て呆れる様に言う。

「・・・分かってるよ」

「分かってない! いつもいつも、すぐに居なくなって探してみれば必ず獣と一緒に居るじゃないか。 俺達の主様だから許して下さっているものの、他の主様ならすぐに匙を投げられているぞ!」

「分かってるよ。 ・・・風狼・・・俺・・・」 話しながらも風狼に背を向け、まだ鹿の足に手をかざしている。

「なんだよ」

「俺・・・今の道をこのまま歩かなくてもいい・・・」 今までより少し声が小さくなった。

「は? いったい何を言い出すんだよ」 今までそんな事を聞いた事がない。

「俺、これからは獣と共に生きていきたい・・・」 更に声が小さくなる。

「風来、自分がなにを言ってるのか分かってるのか? 俺達は人間なんだぞ、獣とは違うんだぞ」 風来よりずっと大きな声だ。 

少し間が空いてさっきより大きめの声で風来が言う。

「風狼の方が分かってない。 獣も人間も同じ生き物だ。 主様の教えにもあるじゃないか」 

「それはそうだけど・・・それとこれとは話が違うだろう。 俺達の目標はそうじゃないじゃないか」

「目標・・・」 鹿が風来の手から離れ、ビッコを引きながら寄り添うように向きを変えた。

「そうだよ。 何の為に主様のところに来たのかよく考えろよ」

「・・・主様の様になりたくて来た」 うな垂れる。 

その様子を首を垂れ、心配そうに見る鹿。

「そうだろ? それを途中で投げ出すのか? 修行が厳しいからイヤになって、獣に逃げているだけじゃないのか? 
愛宕のお山の修行の時には、いつも辛そうな顔してるもんな」 腕を組み嫌味の様に言うが、本心からではなかった。

「そんな事はない!」 立ち上がって風狼を真正面に真っ直ぐに見た。 

鹿が驚いたように一歩下がる。

小声で「驚かしてごめん」 と一言いい、また風狼に背を向け鹿の身体を撫でてやる。

「じゃあ何だよ! 目指していた道を途中で投げ出すほど獣と生きたい理由っていったい何だよ!」 風来に負けないほどの語気の荒さ。

「・・・獣・・・」 風狼に聞こえない程の小さな声。

「なんだよ。 はっきり言えよ」

「・・・獣の傷を癒してやりたいんだ」 鹿の身体を撫でている手を止め、もう一度風狼の目を見た。

「は?」

「まだ完全に治すことはできないけど、それでも治してやりたいんだ」

「獣は野生で生きてるんだぞ! 野性の中で生きてたら怪我なんて当たり前にするじゃないか。 
いちいちそんなことを考えててどうするんだよ。 弱いものは強いものに喰われる。 それだけの事じゃないか!」

「だけど! 主様から癒しの方法も教わったじゃないか!」 更に語気を荒げた風来の声。

鹿が驚いていないかと気になってすぐに見ると、今度はじっとしている。 

その姿を見る風狼が溜息をつく。 

少しの間があった。

その間が冷静にする時間を設ける事が出来たようで、落ち着いて風狼が口を切った。

「ああ、確かに教わったよ。 でもそれは人間に対して教わったんじゃないか。 
それにもっともっとこれからも色んなことを教わらなきゃいけないだろ。 今の俺達はまだまだヒヨッコなんだぞ」

「分かってる。 まだ何も出来ないのは分かってるよ。 主様の様になるにはもっと修行が必要なのもわかってるよ」

「分かってたらちゃんと考えろよ・・・それにだ、その・・・いくら獣の怪我を治したいって言ってもまだ完全に出来ないだろ? 
・・・まぁ、俺もだけど。 あ、俺の事は関係ないけど・・・百歩譲ろう。 百歩譲ったとしても、少なくともそれがしたいのならちゃんと主様に言って癒しの手を習得できるまで修行しろよ」

「獣の怪我は待ってくれない」 心配そうにしている鹿の目を見る。

「風来・・・」

「風狼、こんな考えじゃ駄目か? こんな中途半端なことじゃ何も出来ないと思うか?」

「風来、俺達ずっと一緒に居たじゃないか。 主様に助けられて、そんな主様の様になりたくって、やっと探し当てた主様の居られるこのお山へ来たんじゃないか。 
二人でこのお山をどれだけ探したのか思い出せよ。 やっと探し当てたお山の中の主様は、優しいだけじゃなくて強さもお持ち。 
それに主様の様に呪術も学べるようになりたい、って二人で言ってたじゃないか。 それほど何もかも主様の様になりたかったじゃないか」

「このお山に来なければこれだけ獣と触れあう事もなかった。 言い換えれば、あれだけ探したこのお山だからこそ獣に逢うことができたんだ」

「なに屁理屈いってんだよ!」 その時、風狼の後ろで声がした。

「もうよいぞ」 その声音に慌てて風狼が振り返る。

「こ、これは、主様!」

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