大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~満ち~  第235回

2015年09月11日 14時37分12秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第230回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~満ち~  第235回



「あ・・・そっか。 気を感じた後に癒してやらなくちゃいけないんだったな」

「おい、本当に大丈夫なのか?」

「なに言ってんだ。 俺様に任しておけば・・・あ!」

「何だよ急に大きな声で」

「そんな話じゃないだろーよー」

「なに?」

「お前・・・住庵様の所になんか行かないよな。 俺と離れるなんてこと出来ないよな」

「風来、どうじゃ?」

「己は・・・・」

「そなたが決めればよいことじゃ」

「主様、風来には出来ませんよ。 俺達ずっと一緒だったんだもん。 なぁ、風来」

「己・・・己に出来るでしょうか?」 またもや、風狼への返事ではない。

「そなたの持つ心が本物であれば住庵殿が導いてくれようぞ」

「本物です! 嘘偽りなんてありません」

「風来? 俺と一緒にいるよな?」

「まぁ、急ぐ話ではない。 じっくり考えて決めるがよい」

「考えている間に・・・住庵様のところに行けば一日でも早く得とく出来る・・・」

「なにブツブツ言ってんだよ」

「明日・・・明日、発ちます!」 

「はっ!? 風来、自分がなに言ってるのか分かってるのか?」

「あ・・・いくらなんでも明日じゃ早すぎるか?」 やっと風狼を見て聞いた。

「そんな話じゃない。 俺と一緒に居られなくなるんだぞ!」 風狼のそんな話を無視するかのように主が

「そうか。 まぁ、明日といってはまだ何の準備も出来ておらんし、2,3日後というのはどうじゃ?」

「あ・・・やはり明日では早すぎますか・・・」

「小さな子たちがそなたに懐いておるのだから、朝起きて急に居なくなっておっては寂しがるであろう」 主の下には親の無い子供達が何人も居る。

小さな子たちの顔が浮かんだ。 己も兄様たちに大事にしてもらった。 それを小さな子たちに返さねば。

「はい」

「な、何でそんな話になるんだよ・・・」

「じゃが、言っておくぞ。 ここはお山じゃ。 風来の手に負えん獣も沢山おる。 岩がいつ落ちてくるやも、足を滑らせて崖から落ちるやもしれん。 今のそなたでは気配を感じたり、簡単に身をかわす事もできんぞ」

「はい・・・」

「少しずつでかまわん。 住庵殿の元から帰ってきたら身を守る術も覚えるがよい」

「・・・主様。 有難き幸せにございます」

「風来・・・」 話の置き去りにされた風狼が情けない目をしている。

「風狼、ごめん。 ほんの少しの間だから。 一生懸命修行して、一日も早く帰ってくるから」 肩を落としている風狼を見て主が声をかけた。

「風狼」

「・・・はい」

「それで良いか? これからそなたは風来とは一緒に居れなくなる。 それでも良いか?」

「・・・はい。 ・・・風来がそれでいいのなら」 その様子を見て

「風狼・・・ごめん」 風狼に抱きついて小さな声で謝った。

「謝らなくたっていい。 絶対に二人で居なきゃならない事なんてないんだから」 そう言って風来の身を自分の体から外し 

「それに、まだまともに崖も飛べないようなお荷物のお前がいなくなった方が修行が進みやすい。 いっつもお前を待ってる時間も無駄な時間と思ってたからな」 強がっているのが手に取るように分かる。

「ははは、良い意気じゃ。 いくらでも伸びてゆけるぞ。 その意気で修行に励めよ。 それでこその狼じゃ」 

「え?」 ずっと大人しく風来の傍にいた鹿の耳が動いた。

「風狼・・・狼のような鋭い目を持ち、疾風の如く早い身のこなし。 川に流されておった風来をそなたが助けようとしておるときの姿、あの時・・・初めて逢うた時のそなたの印象じゃ」 鹿がどこかに走っていった。

(あ・・・まだ足が痛いはずなのに・・・) 風来が走り行く鹿を心配そうに見送った。

「主様・・・あ、あの時は雨の後の川に風来が流されて居なくなるんじゃないかと必死で・・・」

「そうじゃったな。 あの時の川は龍の怒りの如く流れておったな」

「俺はただ流されていく風来を追うことしか出来なかった。 それなのにあの川の中を一飛びで風来を助けてくださった主様のお姿は今も目に焼きついてます。 それに息を失いかけていた風来の身体を蘇らせていただき・・・結局、何も出来なかった俺なのに」

「ははは、七つ、八つの歳でわしと同じことが出来ておったら それこそ、わしがそなたの弟子になっておるわ。 それにあの時からそなたがここへやってくるのは分かっておった」

「え? 俺が来ると?」

「それくらい分からぬでどうする。 そなたもこれから修行に励めばそんなことは簡単に分かってゆけるぞ。  山を越え谷を越える。 あの時の竜の如くの川も簡単に飛ぶ事が出来る。 そなたには筋があるのじゃからな」

「はい! 精進いたします!」

「うぬ? 風来どうした?」

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« みち  ~満ち~  第234回 | トップ | みち  ~満ち~  第236回 »
最新の画像もっと見る

小説」カテゴリの最新記事