大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第151回

2014年11月18日 14時56分18秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第150回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第151回




翌日の夕飯。 皿を並べ終えた時、ふと思い出した。 

「あ、そうだお父さん あの掛け軸なんだけどね」 座っていた父親に話しかけると

「うん、どうした?」 何のことかと琴音を見上げた。

「あれって 言ってみればお札みたいよ」 掛け軸の前に立ち父親が写し書いたという額を見ながら言うと

「お札?」 父親は座ったままだ。

「うん。 ほら、お父さんが書いた額には 『太上神仙』 としか書いてないけど掛け軸をよく見ると 『太上神仙鎮宅霊符』 って書いてあるでしょ?」

「ああ、そう言えばそうだったかなぁ」

「調べてみたら色々書かれててよくは分からないんだけどね。 でも見てここの文字、妖しいって文字が書かれてるでしょ」 琴音の隣に立った母親が覗き込み

「あら本当だわ。 今まで気付かなかったけどお経にそんな文字って使わないわよね」

「元が道教とかっていう事も書かれてたわ。 まぁ、陰陽師以外にも神道や仏教も使ってたとも書かれていたから何とも言えないんだけどね。 それにまだ続きがあるみたいなことも書かれていたわよ」

「続きって?」 母親が聞くと

「これはまだ半分なんだって。 まだ残りの半分もあるらしくってそれを3回唱えるといいとか色々書かれてあったわよ」

「へぇー そうなのか?」 座ったままではあるが琴音の話に耳を傾けている。

「琴ちゃん、冷めちゃうわよ座って食べましょう」

「あ、うん」 席に着きご飯を食べながら

「江戸時代に流行ったらしいんだけど何かお爺さんから聞いてない?」

「何もそんなことを聞いてないなぁ」

「前に来た時にうちは浄土宗って言ってたけど 昔、陰陽師に関係とかはしてないの?」

「昔って?」

「お爺さんのお爺さんの時とか」

「お父さんが生まれる前の話なんか知らないよ」

「ま、そうよね・・・」

「でもどうしたんだ? この前来た時から琴音の話す内容が今までと全然違うじゃないか」

「歳をとったから宗教に興味が出てきたのかしらね」 答えにくい事を聞かれて誤魔化すようにいった。

「何を情けないことを言ってるんだよ」

「琴ちゃん、そんなことばっかり言ってると誰も彼氏になってくれないわよ」

「それは関係ないでしょ」 琴音のルーツを知る手段が途絶えてしまったようだ。 

自分のルーツを知る事、途絶えてしまったのなら今の自分をよく見よう。 そこにはルーツのヒントが隠されているかもしれない。


年が明け元日。 

いつもなら母親の作ったお節料理が並べられるはずだったが今年は出来上がったお重を並べた。

「美味しいかどうか分からないけど注文しちゃったの。 もうお父さんもそんなに食べなくなったから作るのも面倒になってね。 ねっ、お父さんも琴ちゃんも早く食べてみて」 

「そんなに急がなくても料理は逃げないだろう。 ほら琴音」 そう言って琴音に杯を渡した。 そしてその杯に御屠蘇を注ぎ母親にも同じように杯を渡し注いだ。

「それじゃあ、明けましておめでとう」 父親のその言葉に続いて母親と琴音も同じように言い御屠蘇を飲んだ。

「どれ、それじゃあ何を食べてみようかな・・・」 父親が蓮根を一つとって食べた。

「うん。 いいんじゃないか?」

「そぉ? 琴ちゃんは?」

「じゃあ、私は金時人参」 口に入れお店で食べた物と味を比べるとやはり甘みが全然違ったが

「美味しいわよ」 味付けは良かったようだ。

父親が黒豆を食べると

「黒豆は美味しくなくもないけどお母さんの作った方が美味しいな」 それを聞いた母親が喜んで

「そう? 黒豆は炊いたの。 今もって来ますね」 嬉しそうに歩く母親の後姿だ。 そして冷蔵庫から黒豆を持ってきたが

「はい、お父さん黒豆。 琴ちゃんは金時人参ね」 琴音用に金時人参も持ってきた。

「え? 金時人参も煮たの?」

「だって琴ちゃんったらいつも金時人参ばっかり食べるじゃない」

「え? そうだった? でも嬉しい」 一口食べると

「うーん、こっちの方が美味しい」 母親はその姿を満足そうに見ながら

「さ、お餅いくつ食べる? 沢山買ってきてあるわよ」

「ああ、お正月ってだから太るのよね」 贅沢病だよ。



親子水入らずの日が過ぎ琴音は実家を後にした。

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