大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第212回

2015年06月19日 15時03分51秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第212回




その疑問を解消しようと

「あの、さっき会話と仰いましたけど正道さんはお話が出来るんですか?」

「会話・・・分かりやすくそういいましたが・・・そうですな、言葉が聞こえてくるわけではないんです。 こちらが質問をするとそれに対する感情を教えてくれるんです。 その感情の表し方に特徴があるんですな。 
それを言葉として表すなら甘えた風だったり喧嘩腰であったりと個々それぞれにいろんな特徴があります」

「質問に答えてくれるんですか!?」

「琴音さんも出来るようになりますよ」

「以前、正道さんが 動物と会話をしたいけれどそれは無理かな。 って仰っていましたけどこの事ではないんですか? 
それによく考えたら、仔犬ちゃんと始めてあった時だったかしら・・・仔犬ちゃんから私に抱っこして欲しいというイメージが伝わってきたって仰っていたのも・・・」

「あははは。 よく覚えていらっしゃいますな。 
まず後の質問のイメージですが単純な事でしたらイメージは簡単に伝わってきます。 ちょっと集中すればすぐにそれを見る・・・感じる事が出来ますよ。 
次に最初の質問ですが、やはり込み入った事になりますと今琴音さんがしたように少々集中に時間を取ってしまうんですな。 
ですから私が動物と会話をしたいといったのは・・・つうと言えばかあ、とでも言いましょうか、それに近いものです。 その中で癒せる会話をしたい。 今の段階では直接的ではないといったら宜しいんでしょうかな? 
癒すための原因、事柄を動物から教えてもらってそれを私の中で判断してからの事になりますから、少々時間を取ってしまうんです。 その時間を取らないで会話をしたいという事なんです。 ですから今の私ではまだ出来ない事なんです」

「はぁ・・・」 気の抜けたような息だけが出た。

「どうしました? 答えになっていませんでしたかな?」

「いえ、そうではなくて・・・今までに想像もしなかったことですから」

「気が付いていないだけで多少なりとも皆さん経験しているんですよ。 ペットとだけではなくて人間同士ででもあるんですよ。 以心伝心もその内でしょうな」

「はぁ・・・」 

「あ、それと先程も言いましたが 今の琴音さんはそんな風に見えたようですが、色んな現れ方をしますからな。 先程見たものが全てと思わないように」

「他にどんな事があるんですか?」

「香りを感じることもあります。 ・・・例えば・・・何の食べ物が好きかと聞くと、苺であったのなら苺の映像が見えることもありますし、苺の香りがすることもあります」

「香りですか・・・」

「分かりやすい香りならいいんですが、これが私の知らない食べ物の香りですと困りものでしてな、これがさっき言いました少々時間を取るといった所なんですな」

「・・・あ、そういう事なんですね」

「それだけではありませんが、私の知らない事や想像も出来ないことを現してくれてもそれが何なのか判断に困りますからな。 性格がちょっときついと聞いた事より先に感情を直接ドンと現してもきますよ。 こんな事もこれから徐々に重ねていきましょう」

「はい」 未知の世界・・・自信は無い。 だが、知りたい。

「と言っても、草々には色んな動物もいませんから・・・ボチボチですかな?」

「はい」



翌日、正道から連絡があった。

正道が仔犬の今の状態を話すと、琴音の心配していた事と反対に皆が仔犬を心配して是非とも琴音の実家に引き取って欲しいとのことであった。
ただ、琴音が来る時には連れてきて欲しいという事である。
それを聞いてすぐに実家に連絡を入れ 翌週、琴音が正道との勉強を終え、仔犬を実家へ連れて帰ると両親とも大喜びだった。



内線が鳴った。

「はい、織倉です」

「悪いけどコーヒーを2つ、砂糖抜きで持ってきてくれないか?」 工場長だ。 

すぐにお盆にコーヒーを乗せて持って下りるとそこに武藤がいた。

「おっ、久しぶりですね。 有難うございます」 お盆からコーヒーを一つ取った。 もう一つを座っていた工場長の机に置くと

「悪いね。 冷たい缶コーヒーを飲んでればいいのに、温かいのが欲しいなんて贅沢をこいつが言うもんでね」

「何で寒い時に冷たいコーヒーを飲まなきゃいけないんですか。 ちょっとくらいいいですよね?」 琴音を見て言った。

「はい」 笑いながら答えた。 

「工場長だって身体が温まっていいでしょう? 歳なんだから冷やしちゃ駄目なんですよ」

「要らない事を言ってんじゃないよ」 そして琴音のほうを見て

「織倉さん、社長の話し断ったんだってね」

「はい。 ・・・社長何か言ってらっしゃいましたか?」 

「織倉さんの言ってるところが本当に大丈夫なのか心配してたよ」

「そうですか・・・その、お断りした事で社長にご迷惑はかかっていないでしょうか?」

「ああ、そんな事はないよ。 全然気にする事じゃない。 織倉さんはあんまり知らないだろうけど社長って顔が広いから簡単に見つけて来る
んだよ」 すると武藤が間に入って

「織倉さんは社長のプライベートを知らないの?」

「え? プライベートですか? 全く知りませんけど何かされているんですか?」

「趣味がすごいんですよ」

「趣味ですか?」

「そう。 マリンスポーツ。 その趣味であちこちに顔が利くんですよ」 すると今度は工場長が間に入って

「若い頃からやってたからその時の知り合いが今では偉いさんになってたり、独立して会社を構えたりしててね。 信じられないだろうけど、僕らにとっては雲の上の人まで知り合いなんだよ。 ほら、最後の仕事にファイナルさんの仕事があったのを覚えてる?」

「はい」

「あの仕事も・・・勿論うちの営業も頑張ったんだけどね、最後の一押しっていうのが、社長の趣味の知り合いがファイナルさんの営業部長だったから、そこから後押しがあったって事なんだよ」

「そうだったんですか?!」

「それも面白い事に、お互い今まで全然知らなかったって言う話でね。 あの仕事の時にうちの営業が社長の事を話したら あれあれ? っていう事になったらしいよ」 そこで今度は武藤が

「社長ってプライベートで会社の事は話さないらしいから・・・っていうか肩書きが社長ってことも言ってないらしいですよ」

「そうなんですか?」 すると今度は工場長が

「そう、だからその知り合いの関係で織倉さんを行かせようと思ってたから気にしなくていいんだよ。 友達に話すくらいのものだから。 それより問題は他のやつら」

「え? 皆さんですか?」

「そう。 他のやつらはどうしても腕を活かさせようと会社の関係で口を利いてきているからね。 いくら社長の顔が利くって言っても、その周りが機械屋ばかりじゃないだろうしね。 下げたくない頭も下げてきてるんだよ。 それなのにまだ決めてない奴もいるんだから困ったもんだよ」 コーヒーを飲みながら聞いていた武藤が

「僕みたいにみんな独立すればいいのに」 サラッと言った。

「そんなに簡単に行くわけないだろ。 それにお前ももう厳しくなってきてるんじゃないのか? その上、うちが閉鎖ってなったら身動きとれなくなってくるだろう」

「確かにそれは厳しいんですけどね、何とかなるでしょう?」 最後の一口を飲み干した。

「こいつはここに居た時から楽天家なんだよ」 琴音を見て工場長がイヤミをこめて言うと

「悩んでも何も生まれませんからね。 工場長、コーヒー冷めますよ」

「俺は猫舌だ」 そう言い、そして琴音のほうを見て

「織倉さんがこれから行く先は大丈夫なんだね?」 改めて聞いた。

「はい、とても信用の出来る方です」

「そうか。 それじゃあ、僕から社長にそう言っておくよ。 あ、織倉さん有難う。 コーヒーカップはあとで持って上がるよ」 空になった武藤のコーヒーカップだけを事務所に持って上がった。 

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