大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第213回

2015年06月23日 14時45分17秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第210回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第213回



期末1週間前。

朝礼。 

「それじゃあ、最後になるけどみんな頑張って棚卸しを始めてくれ。 それと営業は最後の挨拶回りを頼んだぞ」 

「最後になるんですね」 一人がポツンと呟いた。

「そうだな・・・。 悪いな」

「あ、そういう意味で言ったんじゃありません」 

「ああ、いいんだ。 僕の力不足なんだから。 みんな悪いな」

「社長のせいじゃないですよ」 それを聞いた営業社員が

「そうですよ。 会長はいったい何をしてるんですか!」

「そう責めてやるなよ。 歳なんだから仕方がないと思ってやってくれないか?」

「この会社がこうなった理由の一つに会長の責任があるじゃないですか!」 

会長がまだ会社に来ていた頃、かかってきた電話を取り話の流れから丸秘を漏らし契約が流れてしまったり、相手に高圧的に出たりと相手を怒らせ取引先を減らしたことを言っているのだ。 

そんな事があると特に営業に全てがのしかかってくる。 その時の怒りが蘇ってきたのであろう。

それを聞いていた工場長が

「あの時は俺も取引先に色々言われて腹も立ったよ。 でも何年も前のことを今頃言っても何にもならないじゃないか。 お前達が社長の事を想っているんならこれ以上社長を困らすようなことを言うな」 静かな工場長の一言に社長は救われたが、それでも若い社員は納得がいかないようだ。

「悪いな。 でもな、会長は創業者だ。 こんな小さな会社だけど株式である以上、会長は総株主でもあるんだ。 会社って言う物はこんなもんなんだ。 お前達もこれから色んな所へ行くがサラリーマンである以上、何処に行っても上には逆らえないんだぞ。 俺は長いものに巻かれろとは言わん。 自分の正義を貫くのが一番だ。 だけどな、社会はそれだけじゃやっていけない所があるんだ」 若い社員達が一斉に下を向いた。

「じゃあ、棚卸し頑張ってくれ」 そう言い残し3階の事務所へ上がって行った。

琴音は社員が一番に入ってくると思っていたが、ドアが開いて振り向くと社長が入ってくるではないか。

「あ、お早うございます」 コーヒーを用意している手が止まった。

「お早うございます。 すみませんがコーヒー甘目にしてもらえますか?」

「はい・・・」 工場での朝礼に何かあったことを悟った。 用意してあったコーヒーに少し砂糖を加え

「どうぞ」 コーヒーを机に置いた。

「有難う。 あ、それと」 琴音の目をみて

「はい」

「今日から僕もですけど、営業が最後の挨拶回りに出てますから人手が足りないんです。 他のやつらが棚卸しを始めてますから 手が空いている時にでも手伝ってやってもらえますか?」

「はい」 精一杯の笑顔で返した。 


それから1週間は午後になると工場に入りびたりで棚卸しの手伝いをした。


「織倉さん椅子持ってて下さい」 「数を言いますから書いてください」 「そっち数えてもらえますか?」 「これ持っててください」 

そういう会話の時間があったからか社員達も今まで以上に慣れ、その内に琴音とすれ違いざまペンを持っていると琴音に「グサッ」 と言って琴音を刺す振りをしたりと 幼稚な事をやってのける社員達との時間が琴音にとってはとても楽しい時間となった。

そしてとうとう 棚卸しが終わった。 


期末最終日がやってきた。

朝、いつも通り誰よりも先に会社にやってきて事務所を見渡した。

「これで何もかもがお仕舞いなのね。 会社が動かなくなっちゃうのね」 大きく息を吐きそして雨の小屋根の絵を見て

「まだ今日はいつも通り・・・。 いつも有難う。 あと2ヶ月ほどだけどまだ毎日見させてね」 絵の中の霧のような雨は変わらず降っている。

琴音の仕事はこれから始まる。

「最後の期末業務・・・間違えないように終わらせなくちゃ」 そう言いながらも少し寂しい気持ちになった。



金曜日、和室で夕飯を食べていると携帯が鳴った。 文香からの着信音だ。

「あら? 文香だわ」 キッチンのテーブルに置きっぱなしにしてあった携帯を取り

「もしもし」

「こーとーちゃ~ん?」

「わ、なに? 酔ってるの?」

「酔ってなーい~。 只今、打ち上げ中~」 文香の声の後ろからは賑やかな声が聞こえる。

「打ち上げって?」

「仕事が一段落着いたの~」

「そう、良かったじゃない。 これで落ち着けるの?」

「うーん。 だから明日遊びに行くからね~。 じゃあね~」 一方的に携帯が切られた。

「何が酔ってないよ。 完全な酔っ払いじゃない。 明日って・・・私の予定も聞かずにどれだけ暇人だと思ってるのよ・・・まぁ、たしかに暇だけど」 携帯を閉じた。

この日はいつもなら正道の所へ行くが、正道が思わぬ仕事の依頼を受けたようで琴音とのことは休みになったのである。

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