大福 りす の 隠れ家

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みち  ~満ち~  第248回

2015年10月30日 14時45分38秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第240回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~満ち~  第248回




愛宕のお山では今までになく厳しい修行となったが、風狼は平太に負けじと励み通した。

愛宕のお山を駆け巡る。

「ちっ、さっき差をつけたところなのに、もう後ろに居やがる」 平太がチラと後ろを見ると意地でも離されるものかと風狼が必死についてきている。

ふと、上から何かが落ちてくる気配を感じた。

「くそっ! こんな時に石なんか落ちてくるんじゃないよ!」 獣が駆けた時に蹴ってしまった小石であろうか。 

平太のスピードが一瞬弱まった。

「へっへー、平太兄、もうバテたのかー?」 風狼が平太を抜いたその時

コン!コン!コン! 見事に風狼の頭に小石が当たった。

「痛ってー!」 頭を抱えて座り込む。

「情けない。 石が落ちてくることもまだ分からんのか」 後ろ目に見ながらボソッと言いながら駆けて行った。



修行の最後の日を過ごしたその夜。 

まん丸く太った月明かりの元、小さな火をおこしている前で、風狼は疲れ果て大の字で寝ている。 主と平太はまだ起きている。

「平太、そなたかなり気を感じる事が出来てきたようじゃな」

「いえ、まだまだでございます」

「駆けるのに集中している間にも、石が落ちてくるのが分かったであろう?」

「あ・・・今日のことでございますか?」

「うむ」 そう言ってほくそ笑む。

「あ、もしやあの石は主様が?」

「おや? 気付かんかったのか?」 

「あ、・・・はい。 てっきり鹿かなにかが蹴り上げた石かと思っておりました」

「あの時、わしは気を消しておらなんだぞ」

「え? ・・・あちゃー」 頭を抱え込む。

「ほぉー、てっきり平太は気付いておると思うておったのになぁ」 意地悪く、片眉を上げてまだ頭を抱え込んでいる平太を見て言う。

「主様の気が分からなかったとは・・・情けないです」 その様子を面白がりながら主が話を続けた。

「風狼はまだまだのようじゃったがな。 じゃが、あの程度の小石、避けるのではなく手で撥ねればよかったのではないか?」

「撥ねる事は出来ましたが、撥ねてしまって万が一、風狼に当たってはと思い避けようと思いました。 その時に一瞬迷いが出たようで、駆けるのが遅くなってしまいました」

「ほほぅ。 そうか・・・」 先ほどまでと違う表情を浮かべる。

「主様? ・・・あの、何か間違っていたでしょうか?」

「いや、間違えなどない。 そなた・・・心優しく育ってくれたのう」 その目を平太に向ける。

「え?」 パチパチと木が燃える音がする中、顔が一気に赤らむ。

「じゃが」 主のその言葉に背筋を伸ばした。

「咄嗟とは言え、後から来る者がどう動くかを考え、撥ねる方向を自在に操る事を覚えねばな」

「はい」

「まぁ、相手が風狼故、どんな風に動くか分からんところもあるじゃろうがな」 眉尻が下がる。

「はい、風狼の動きは時折掴めません。 思いもしない方向に走って行ったりする事もありますので。 それがあの時の一番の迷いでありました」 その言葉を聞いて主が大きく溜息をつくと

「それにしても・・・あの時の風狼の姿・・・」 情けないを通り越してただただ、笑えたが、それを押し殺して主が平太に問うた。

「平太、そなたから見て風狼はどんなもんじゃ?」

「オチオチしておられませぬ。 明日にでも抜かれそうです」

「そなたほどの気を感じることはまだまだじゃし、ガーガーと寝ておって体力もまだまだじゃが・・・やはりそなたから見てもかなり伸びてきておるのが分かるか?」

「はい。 風来が居なくなってからは特に感じます」 話が落ち着いた時、主に聞きたい事があったが 「風来」 と言って思い出した事があった。

「そうじゃなぁ」 と目の前にある火を見つめる主。

その主の顔を覗き込むように 「主様、お山ですが」 そう切り出す平太の顔を見る。

「この愛宕のお山に来る前、いつも風来が獣を癒していた所に行ったのですが、なにやらおかしな気があるようで・・・」

「おかしな?」 眉間が寄る。

「はい。 その気に合わそうと思ったのですが、掴みきれないと言いましょうか・・・」

「風来が留守にしておるから、おかしな者が入ってきたのであろうか? じゃが、風狼が出入りしておるはず・・・あ、風狼には気が分からんから姿を隠せばよいだけか・・・」 

「いえ、誰かが入ってきたという風ではないようです。 余りにも薄い気なのです」 訳が全く分からないと言う。

「そうか。 お山に帰ったら行ってみようかの」 低い声で言い、また火を見た。 だが、さっきとは違う目つきだ。

その主にそっと平太が問う。

「あの・・・主様一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」 

「なんじゃ?」

「ここのところ勝流が一緒でないのは何故でございましょうか?」 

「勝流な・・・。 暫くの間、勝流は浄紐(じょうちゅう)に任せておこうと思うてな」

「浄紐兄様にですか?」 何故? でもどうしてかそれが聞けない。

「うむ」 と返事をする主に次の言葉が出てこない。




≪勝流≫

木ノ葉がやってきたときには、平太と共に大層可愛がった。

その後にやってきた風狼と風来。

気の強い風狼と違っていつも下を向いて風狼の袖を持ち陰に隠れている風来。 その姿を誰よりも気にかけていた。

修行が進むにつれ、風狼と風来の差が勝流の目にも充分にわかる。 

それ故、木ノ葉と同じように風来も大層可愛がっていた。

「風来は風狼より背が低いだろ? その分、どうしても追いつかないところが出て来るんだ。 背が伸びれば風狼と同じくらい出来るようになるさ。 気にするなよ」


だが、時は流れる。

木ノ葉も風来も成長した。 勝流がいなくとも、支えがなくとも一人で立っていられる。

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