大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第210回

2015年06月12日 14時42分57秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第210回



一人一人は皆心優しい性格ではある。 それは分かっているが、やはり仕事がなくなってくると社員同士でどことなくギスギスした所も出てきていた。 

仕事が全く無いわけではない。 小さな注文であってもそれを受けた担当は伝票を発行したり、部品の発送もある。 注文数が多ければ数の確認もある。 

一日の仕事のほんの僅かな時間なのに、そんな時に一人バタバタとしているのに他の者はPCで遊んでいる。 日が変われば皆が逆の立場になるのに、その時は自分だけが被害者意識になってしまう。

「なんだよ、あいつら。 遊んでばっかりして」

現場では修理依頼が送られてくるとそれを得意とする者が修理をする。 時間があるというのに他の者は手伝わない。 それどころか、廃材で遊んでいる始末だ。

「ちっ、遊ぶんだったら俺の見えないところで遊べよ」

そして工場の人間と事務所の人間との間には見えない一線が出来てしまっていた。

「事務所、ここのところ社長が居ないから堂々とPCで遊んでるみたいだぜ。 こっちは工場長の目があるし、PCも無いっていうのになー」 

「現場、廃材で遊んでばっかしてんだぜ。 工場長も甘いんだよ」 誰も自分のことは棚に上げる。


ほんの少しではあるが、琴音に愚痴るように言って来た者も居る。 琴音に言わなくとも耳に入ることもある。 

琴音はそれを思い浮かべていたのだが、実際は琴音が聞いた以上に皆の不服があった。 琴音の耳に届かなくとも不服や妬む気が事務所や工場に渦巻いていた。 

それを知らぬ間に取り込んでしまっていたのだ。



「無心、無欲は必要ですが・・・必要というのも正しくはありませんがな。 心配事、不安は不必要なんですよ。 目には見えないところで影響が出ているんです」

「見えるものが全てではないんですね」

「そうです。 紫外線も目に見えないのにその影響が日焼けとなって現れるでしょ。 見えないエネルギーの漏れも影響して体調不良や内蔵に現れてくるんです。 あ、お話を逸らせてしまいましたな。 それで?」

「はい。 社長が次のところを紹介すると言って下さっているんですが」

「はい」

「凄く迷っていたんです。 まだこちらに来られるほど何も出来ていないから自信もなくて」

「そんな事はないですよ」 静かに一言だけいい、琴音の次の言葉を待った。

「でも、あのビジョンがここの基礎だとわかって考えたんです。 どうしてあのタイミングで見さされたのか。 会社の閉鎖が決まってからこの先どうしようかと思いながらも 正道さんにお世話になるにはまだまだ自信がありません。 そんなことを色々考えていた時だったんです」

「はい」

「でも今すぐでなく、もっと自信が持ててから正道さんにお世話になるなら 基礎の部分なんて分からない所を見せる必要がないと思ったんです。 もっと分かりやすい所でよかったと思うんです」

「はい」 正道の口角が少し緩んだ。

「でも基礎という事は2つを意味していて、きちんと基礎を学ぶという事。 そしてお世話になるのは途中からではなくて最初からという事なのかなって」

「そう言っていただけるとうれしいですな」 あくまでも静かな声だ。 だが表情は緩い。

「半人前にもならない私なのにご迷惑じゃないですか?」

「なにを仰っているんですか、充分です。 琴音さんはご自分の意識無くご自分のチャクラの調整もされていたんですよ。 今までほんの数回私の話を聞いただけで、そこまで理解しているんですよ。 それも無意識に。 迷惑だなんて思ってもいません。 仰って頂いて嬉しい限りです。 それに自信をお持ちなさい。 自信の無さからくるのは不安。 不安というのは恐怖の一つなんですよ。 そんなものは必要ありませんですよ。 今の会社を精一杯勤め上げた後はこちらへいらして下さい」 正道の言葉を聞いてただ頷くだけだった。

「さぁ、私もやり甲斐が出てきました。 これからは積極的にこちらを勧めていきましょうかな」 今までと違い、一際大きな声だ。 

それを聞いて顔がほころぶ琴音。

「では、今日は何をお伝えしましょうかなぁ・・・」 いつも何の予定も立てていない。  その時の琴音に必要なことを教えているのだ。



月曜日

会社でチラチラと社長の様子を見ていた。 するとその内、社長と目が合い

「何? 織倉さんさっきから何?」 “あ”という顔になってしまったが、社長と話すチャンスを伺っていたのだから丁度いい。

「あの・・・社長 今、お時間宜しいですか?」

「うん、いいよ。 なに?」 社長の席まで行き小声で

「今後の事で・・・」

「ああ、じゃあ応接室に行こうか」 そう言って引き出しからクリアファイルを持って立ち上がった。

応接室に入りソファーに座るとすぐに琴音が口を開いた。

「社長、せっかくのお話を頂いたんですけど」 ここまで言うと

「え? なに? 織倉さん自身でどこか探したの?」 持っていたクリアファイルをテーブルに置いた。

「知人から紹介をしていただいて」

「そこは信用できる所なの?」 琴音を心配しての言葉だ。

「はい」

「そうか・・・その知人の紹介もいいだろうけど、一度僕のほうも検討してもらえないか?」 クリアファイルから会社案内を出して

「ここなんだけど条件もいい、信用も出来る。 何よりここみたいに閉鎖なんてことは無いからずっと働いていけるんだよ。 一度家に持ち帰って考えてみないか?」 立派な会社のようだ。 

だが、今ハッキリ言わなければグズグズしていると余計に迷惑がかかると思い腹を括って言い切った。

「せっかく社長が探してきて下さったのに申し訳ないのですが、知人の紹介の方でやっていきたいと思っています」 

「そうか・・・」

「あの・・・すみません」

「何言ってるの、謝らなくていいんだよ。 織倉さんがやりたいようにすればいいんだから」

「はい。 有難うございます」

「それじゃあ、残念だけどここの話しは無かったっていう事だな。 結構いい条件だったんだよ」 わざとおどける様に言ったが返事に困る琴音であった。

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