大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第111回

2014年06月24日 14時13分57秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第110回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~未知~  第111回



連休になり朝早く車で実家へ向かった。

「真夏に帰るよりこっちの方が風景も綺麗だし断然いいわね」 正面に見える風景を楽しみながら車を走らせた。

実家に着くと待ってましたとばかりに母親が話し出した。 電話で何度も聞いた話だが まぁ、仕方の無い事と相槌を打って聞いていると父親が

「お母さん、そんなに弾丸みたいに話しててよく口が疲れないなぁ」

「お父さんがちゃんと聞いてくれないから琴ちゃんに話してるんでしょ」 少し喧嘩腰に母親が言うと

「琴音、お父さんが毎日聞かされているのを知ってるだろ?」 父親が琴音のほうを見たが琴音はクスクス笑っているだけだ。

「ほら、琴ちゃんが返事をしないでしょ。 お父さんが聞いてくれてないのは琴ちゃんも知ってるのよ」 どんなもんだと言わんばかりに母親が言うと

「知ってる、知ってる。 お母さんがお父さんに話してるのを知ってるわよ」

「ほら、琴音もそう言ってるだろう」 鬼の首を取ったかのように父親が言うと

「でもお父さんが真剣に聞いてないのも知ってるわよ。 だから二人とも正解よ」

「もう! 琴ちゃんはどっちの味方なの?」 

「どっちもの味方よ」 琴音が宥め賺しながら楽しい会話が続き母親の機嫌も直った。

「ね、琴ちゃん 今日は何が食べたい?」 

「うーん、何でもいいわよ。 私が作ろうか?」

「何言ってるのよ。 たまにはお母さんの作ったご飯を食べてよ」

「じゃあ、煮物がいいわ。 一人だと煮物もそんなに作らないから」

「偏った食事をしてるんじゃない?」

「うーん・・・ちょっと偏ってるかもしれないかな?」

「そんなんじゃ、お嫁に行けないわよ」 そういい残して母親が台所へと向かった。

「だから行かないってば」 母親に聞こえないように小さな声で言う琴音であった。 それを聞いた父親は笑っている。 父親というのはいくつになった娘でも手放したくないのであろう。

琴音も腰を上げ母の後ろを歩き台所へ向かった。

母親は琴音の注文どおり芋の煮転がしを作り出した。 他にも野菜不足であろうと菜っ葉や大根を使った料理とまさにお袋の味だ。 母親の横で琴音も手伝いをしている。

おかずも出来上がりご飯が炊けた。 そしていつものように炊き立てのご飯を母親が神仏のお椀によそい、父親がご飯を供え手を合わせる。 
琴音はその様子を見ていた。 

いつも見慣れた父親の姿であった。 先に神棚にご飯を供え次に仏壇に供えると 父方の祖父母の遺影と一緒に飾られてある少し小さな掛け軸。 その前で手を合わせた父親を見てふと気になった。

父親が手を合わせ終わった後にその掛け軸を見に行くと何かが書かれているが薄くてよく見えない。

「ねぇ、お父さん この掛け軸ってなんなの?」 今まで掛け軸など見もしなかったのだ。

「ああ、琴音のお爺さんの遺品だよ」

「お爺さんって、お父さんのお父さん?」 琴音が生まれる前に亡くなっている。

「そうだよ。 琴音はお爺さんを見たことないな」

「うん」

「これ、薄くなって読めないけどなんて書いてあるの?」

「掛け軸の下の額に入っているのがそうだよ。 まだ掛け軸が綺麗な時にお父さんが写して書いておいたんだ」 額には半紙が入っていてその半紙には綺麗な墨書きで漢字が書かれてあった。

「これ何?」

「お経だよ」

「お経?」 じっと見たが到底お経には見えない。

「太上神仙(だじょうしんせん) って言うんだよ」

「お父さんこれってお経じゃない気がするんだけど」

「ええ? お経だよ。 お父さん昔は毎朝唱えてたんだよ」

「これ・・・呪文?」 小さな声で言った。

「なに? 何か言ったか?」

「陰陽関係?」 一人呟いている。

「何ボソボソ一人で言ってるんだよ」 今度は父親に聞こえるような声で

「今度図書館で調べてみるわ。 きっとお経じゃないと思うわよ」 そこへ母親がお盆に乗せた夕飯を運んできた。

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