大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第110回

2014年06月20日 14時25分26秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第100回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第110回



翌日からは あっちの事務所こっちの事務所と 5人の社員と社長がバタバタしている。 今まで別の事務所で過ごしていただけに 琴音も勿論、他の社員もお互いがどこかぎこちなく会話をする。

「あの、お手伝いはありませんか?」 琴音が一人を捕まえて聞くと

「えっとー、今の所大丈夫です」 毎日何度かそう言って聞いているうちに少しずつ慣れてきたようで

「じゃあ、ここの拭き掃除お願いします」 や「ちょっとこれ持っててもらえますか?」 そんな返事が返ってくるようになったのだが 社長だけは拭き掃除を頼む事はあっても絶対に本一冊でも琴音には持たせない。 

それどころか琴音が社長の隣にいるにもかかわらず 

「オイ誰か! そっちの端を持ってくれ」 みんなの手がふさがっていてもこれだ。

「私が持ちます」 琴音がそう言っても

「織倉さんは物を持たなくていいから 女の人は重いものを持たなくていいからね。 それにあとでこれを移動するからここは危ないよ。 向こうの事務所に行っておきなさい」 そう言うのである。

女性としてこんなに嬉しいことはないだろう。 琴音も

「本当に大切にされるってこういう事なのかしら・・・」 今までに経験のない喜びであった。

1週間ほどで移動は終わり これからは琴音一人の事務所ではなくなった。

社員達と会話ができるかどうかと不安になっていたが、そんな不安は必要なくみんなが色んな形で社長のように大切にしてくれる。 

琴音が少しつまずいただけで

「大丈夫ですか?」 この一言をかけてくれるのだ。

「大丈夫です」 と返事をしながらも

(あら? もしかして年寄り扱いなのかしら? クス・・・この歳だものね) この頃になると発想に今までのような重たさが無くなって気軽に物を考えられるようになってきた。

「何にしても 嬉しい限りだわ。 ふふふ、和尚様の仰ってた事が少し分かってきたみたい。 自然と皆さんに感謝の気持ちが沸いてくるわ」 


9月に入り連休が近くなってきた。

会社から帰り何気なくカレンダーを見ると

「あ、そうだわ。 そんなに大型じゃないけど連休があるじゃない。 実家へ帰ろうかしら」 すぐに電話を手に取った。

「あ、もしもしお母さん? うん、元気よ。 ねぇ、8月に帰られなかったから 今月の連休に帰ろうと思うんだけど何か用事ある?」 電話の向こうでは母親が父親に 何か出掛ける用事があるかと尋ねている。 

特に何も無いらしい。

「そう、何も無いのなら連休に帰るわ。 いつもみたいに長い連休じゃないからすぐに帰らなくちゃいけないけど・・・うん・・・うん」 母親の長話に付き合っているようだ。

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