大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第155回

2014年12月02日 14時46分18秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第150回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第155回



月末近くなった時

「織倉さん、ちょっと」 社長が琴音を応接室に呼んだ。 中へ入っていくと 一枚のメモ書きを渡された。

「これは?」

「この1ヶ月足らずだけど、みんな残業もして頑張ってくれたからね。 それにこれからまだまだ忙しくなるから期末のボーナス。 1.5ヶ月しか出せないけどね」 紙には基本給×1.5ヶ月 と書かれていたのだ。

「全員にこれで出してあげて。 あ、念のために言っておくけど織倉さんもだからね」

「私は残業も何もしてませんから頂くわけには・・・」

「何言ってるの、社員はみんな同じなんだから。 織倉さんの入れてくれるコーヒーで疲れも取れたりするんだからね。 ちゃんと織倉さんの分も計算するんだよ」

「・・・はい。 有難うございます」 

「それにしても織倉さんには悪いことをしたね」

「はい?」

「こんな潰れそうな時に来てもらって何も美味しい目をさせてあげられないね」

「そんなことは無いです。 皆さんの優しさが嬉しくてここへ来てからとても幸せな気持ちになってるんです」

「そう言ってくれると幾らか気は楽だけどなぁ。 せめて1度くらいは海外旅行に連れて行ってあげたいなぁ」

「え? 海外ですか?」

「昔は毎年社員と社員の家族を連れて海外旅行に行ってたんだよ」

「ええ? そうなんですか?」

「独り身なんて友達を連れて来ていた位だったんだよ」

「そのお友達の旅費は?」

「勿論、会社持ちだよ」

「すごい・・・今じゃ考えられ・・・あ、すみません」

「いいよ、いいよ。 織倉さんから見たらそうだろうね。 昔は良かったんだよ。 その時に散財せずに置いておけば良かったんだろうけど 税金に持っていかれるだけだからね。 わが社のモットーは・・・じゃなくて僕のモットーはお金が入れば社員に還元だからね」

「その時にはもう社長は社長だったんですか?」

「僕はヒラの時、会長が社長の時。 だから僕が会長に直談判して行ってたんだ。 会長任せにしておくと全部税金に持っていかれてたよ。 だから織倉さんにも1度くらいはと思うけどもっと契約が連続にならないと無理だなぁ」

「お気持ちだけで嬉しいです。 コーヒーを入れてきましょうか?」

「うん。 甘目でお願いします」 甘目のコーヒーを応接室へ持って入りその後は慌ててボーナスの計算を始めた。

琴音にとってはこの会社で初めてまともなボーナスとなった。



決算の為の在庫確認と新しい契約とで皆がバタバタし始めたのを横目で見ながら

「何かお手伝いしなきゃ」 腰を上げ奥の事務所を覗くと誰も居ない。 1階に降りて行った。

1階では全員が在庫の確認をしている。 小さな部品が幾つもある所へ行きそこの前に立っていた社員に声をかけた。

「これくらいなら数えられますからお手伝いします」

「大丈夫ですよ。 こんなに小さいのは重さを量って個数を出すだけですから。 それよりこんな汚いところへ来たら服が汚れちゃいますよ」 それを聞いていた他の社員が

「織倉さん、手伝ってもらえるんなら、こっち手伝ってもらっていいですか?」

「おい、織倉さんの服も手も汚れるだろー」

「読み上げてもらうだけだよ」

「大丈夫です。 はい、お手伝いします」 声をかけられた方に行きかけた時

「断っちゃっていいんですよ」 そう言われて笑みで返した。

「うるさいなー 黙っとけよー」 琴音は笑いながらその社員の所へ行き

「何をすればいいでしょうか?」

「ここに書いてあるのを読んでいって下さい。 僕が数を数えてから言いますからその数をここに記入してもらえますか?」

「分かりました」 こんな作業は初めての琴音。 緊張するどころか社員の一員になれたようで嬉しくてたまらないようだ。

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