大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第188回

2015年03月27日 14時37分28秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第188回




「それでだな、ここからは俺一人の考えで会長は関係ないから会長が居なくて丁度いいんだけど 『会社を閉めます。 後はお前達で勝手にやってくれ』 俺としてはそんな事はどうしても言いたくない。 で、お前達の今後の職場を探してきてあるんだけど、どうだ?」 あまりの唐突な質問に全員キョトンとしている。

「何も全然違う畑に行かそうなんて思ってないぞ。 大体みんなが知っている会社だ。 そして今までと同じようにみんなの腕を生かせる職場だ。 うちで言うと取引のあった会社やそこで紹介してもらった所だ」 暫く全員黙っていたが一人がポツリと

「そんなのいつ探してきたんですか?」

「そんな事はいいじゃないか。 お前はどうだ? 行ってみるか?」 質問をした社員を見て聞いた。

「無職の期間があっても困るし・・・これから探すのも何だしなぁ・・・」

「別にいいんだぞ。 決して押し付けてはいないからな。 失業手当で暫く暮らしてゆっくりしてから自分で職を探してもいい、この話に乗るもいい。 どっちでもいいんだぞ」 全員が顔を見合わせている。

「まぁ、今すぐ返事が欲しいわけじゃないから考えておいてくれ。 その気になったらいつでも俺のところに来い。 すぐに話せる準備は出来てるからな」 工場長を除く全員がお互いの顔色を見ている。

「じゃあ、今のところはこれで終わり。 今期が終わるまでしっかり働いてくれ。 みんな職場に戻っていいぞ」 ゾロゾロと全員が立ちそれぞれの職場に戻って行った。 それを見送った社長が

「織倉さん、ちょっと」 残っていたコーヒーを一気に飲んだ。

「はい」 事務所に残る若い社員と椅子を片付けていた手を止め社長の所に行った。

「応接室に行こうか」

「・・・はい」 応接室に入ると座るように促され琴音はソファーに座った。

「入ったばかりなのにこんな事になって悪いね」

「いえ・・・」

「森川さんが居てくれていた時点でもう充分傾いてたんだけどね。 どうしても森川さんが辞めるって言うものだから・・・事務員さんには居てもらわなきゃ困るから募集をかけたんだけど、こんなに・・・坂を転がるように悪くなるとは思っていなかったよ」

「・・・」 琴音はなんと言っていいのか分からない。

「それでね、さっきも言ってたけど再就職の話。 織倉さんには僕の思うところに行ってもらいたいと思ってるんだ。 それが僕の気持ちだと思って受けてもらえないだろうか。 会社の完全閉鎖の業務をする前、今期の業務が終わったらそこへ行ってもらえないだろうか?」

「え? 閉鎖業務の前にですか?」

「そう。 織倉さんは最後まで居なくていいから・・・っていうより最後までいて欲しくないんだ。 今期の業務が終わったら辞める形にして欲しいんだ」

「あ・・・あの・・・」

「最後までいると会社を閉める手続きをしなくちゃいけなくなるでしょう? 来て間もない織倉さんにそんな事をさせたくないんだよ」

「でも・・・」

「それに織倉さんもどうしていいか分からないでしょう? 閉鎖業務なんて」

「・・・はい。 でも先生に教えていただきながら・・・」 先生と言うのはずっとお世話になっている税理士の事だ。 
税務関係も勿論ながら今は悠森製作所とは違って大きくなり税務関係以外も行っている。

「うん。 でもね、織倉さんに手間はかけないよ。 先生に全部お任せしようと思ってるんだ」 

「・・・それでは事務員としての役目が・・・」 

「このことは僕の我侭を飲むと思って言う事を聞いてくれないか? まだ2年しか経たない事務員さんに会社の閉鎖手続きをさせるなんてことしたくないんだよ。 この会社での僕の最後のプライドが傷つくんだよ」 琴音を想っての言葉であった。

「時間をいただけないでしょうか?」 琴音も社長の気持ちを充分わかってはいたがそう簡単に投げ出す事もできない自分がいた。

「駄目だよ。 この事は今ここで返事が欲しい。 ・・・『はい』 の返事以外は聞かないけどね」

「社長・・・」

「頼むよ。分かってくれよ」 

「あの・・・先生がされるより時間がかかるかもしれません。 それでも最後までさせて頂けませんか?・・・」

「駄目だよ」 そう言って 

「頼む」 とテーブルに手を着いて頭を下げた。

「社長!」 慌てて社長の手を取ったが

「織倉さんが承諾してくれるまでこのままでいるからね」 社長の手はびくともしない。

「わ・・・分かりました。 分かりましたから!」 その言葉を聞いて社長が頭を上げ

「よし! 商談成立」 笑っている。

「社長・・・」 溜息交じりの声だ。

「辞めるまでは頑張って働いてくださいね。 それじゃあ、再就職先の話だけど」 社長がそこまで言うと 

「あ・・・」 思わず琴音の口から言葉が漏れた。

「何? いや、勿論嫌ならいいんだよ。 自分で探すっていうのならそれでもいいんだけど、ほんの数年前に職を探してやっと見つかった此処がこんな風になっちゃったんだからもう探すのも疲れるだろ?」

「あ・・・はい・・」 あの時の苛立ちを思い出した。

「それに此処よりいい給料なんだ。 仕事も同じような事だから大丈夫と思うんだけどな、どう?」

「・・・」 正道の顔が浮かんだ。

「あ、ごめんごめん。 急に言われて返事なんてできないよな。 今すぐ返事はいいよ。 今度詳しいことを話すよ」

「はい。 すみません」

「謝らなくたっていいよ。 じゃあ今日はこのへんにしておこうか。 新しい所の話はいつでも聞いてくれればいいからね」

「はい」

「じゃあ、コーヒーをもう一杯お願いします」

「はい」 応接室を出てすぐに社長のコーヒーを入れに行った。

「甘目がいいのかしら・・・」

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