大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第229回

2015年08月21日 14時30分19秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第229回



ドアチャイムが鳴りドアが開けられた。

「お早う!」 暦だ。

「お早う。 ホントにお泊りしてよかったの?」 今晩、マンションの最後の夜に暦が泊まりにきたのだ。

「大丈夫、大丈夫。 全部用意してきたから自分達でするわよ」 部屋に入ると周りを見渡し

「キャー、見事に全部なくなってるわね」 いつもならテーブルに荷物を置いたり椅子にかけたりするが、それができなくて少し戸惑っている。

「うん。 ちょっと寂しいでしょ。 座布団も机も無いけど和室に座って」 そう促され紙袋を和室の隅に置き、畳の上にペタンと座った。

「カーテンはどうするの? ゴミに出すのなら 明日私がもって帰ってゴミに出そうか?」 窓のカーテンが揺れている。

「うん、いい。 実家に持って帰ってゴミに出すから。 それより何か飲むでしょ? 冷蔵庫がないから冷えてないけど お茶とコーヒーならあるわよ」 シンクの上に置いてあったペットボトルを見せた。

「あ、いいわよ。 私、冷たいお茶をもってきたけど冷たいのを飲む?」 紙袋から魔法瓶を出した。

「飲むー。 昨日から生ぬるいお茶ばっかりだったの」 暦が紙袋から紙コップを出して琴音の分を注ぎ手渡した。

そのお茶を一気に飲む。

「はぁー、喉がスッキリしたわ」 

「冷たいものはあまり身体によくないけどね。 どうしても喉がスッキリしないわよね」 琴音の紙コップにもう一度注いだ。

暦が自分の分も注ぎ、一口飲むと

「畳に直に置いてもいい?」 

「うん」 暦がコップを畳の上に置く。

「それにしてもよく一人で片付けたわね。 荷造りとか掃除とか大変だったんじゃない? 手伝いに呼んでくれればよかったのに」

「ずっと家にいるんだから、そんなに時間に追われることも無かったし それにほら、年末の大掃除に暦が来てくれて 徹底的に綺麗にしてくれたじゃない。 そのお陰でかなり楽だったわよ」

「そう? それは良かった。 お手伝いした甲斐があったわ。 で、大きな荷物は正道さんのところへ入れたの?」

「うん。 見事に何もかも。 捨てるのはこのカーテンくらいに収まって良かったわ」

「エアコンは貰ってよかったの? 正道さんのところで使わないの?」

「うん。 部屋の大きさも合わないから使えないと思うわ」

「そう、それじゃ遠慮なく貰うわね。 寝室のエアコンが調子悪くて、今年の夏が最後で買い替えって言ってたから助かったわ」

「こっちこそ、去年買った所だから捨てるなんて考えたくなかったから有難かったわ」

「ねぇ、ところで 今日、文香さんも来るかもしれないの?」

「うんそう。 仕事の都合でどうなるか分からないけど、一度暦と会いたいって言ってたから何とか終わらせてくるんじゃないかしら?」

「ふーん。 話しか聞いてないからどんな人か楽しみだわ」 暦の言葉を聞いてクスッと笑う琴音。

「今はバリバリのキャリアウーマンだからね。 あの天然がどうして仕事が出来るか分からないわ」 横を向いたかと思うと後ろに手を置き、足を投げ出す。

「え? 天然さんなの?」

「ド天然。 どっちかって言えば暦の方がキャリアウーマンよ」

「私? 私は仕事なんて出来ないわよ」 コチラは正座から横座りに足を崩す。

「何言ってるのよ。 主婦業が長いからそう思うだけで、暦に仕事をさせたらすぐに昇進するわよ」

「ナイナイ、あり得ない。 家の用事だから出来てるだけ。 それこそPCも触れないんだから無理よ」 全くの機械音痴である。

「暦ならすぐに覚えるわよ」

「この歳になると新しい事なんて覚えられないわよ。 その上に意味も分からないPCなんて御免よ」

「ああ・・・歳ねぇ・・・本当に考えさせられるわ。 身体は正直よね」 投げ出した足を胸元に引き寄せ、膝におでこを乗せる。

「なに? どこか具合の悪い所が出てきた?」

「目」 

「目?」 おでこを乗せたまま、暦を見る。

「老眼が入ってきたみたい」

「え? そうなの? まぁ、琴音は目がいいから顕著に現れるのね」 その言葉に思わず暦に向き直る。

「え? 暦はまだよく見えるの?」

「ほら、私って近視でしょ? 近視は老眼が遅いって聞くけど、まだバッチリ見えるわよ」

「あー、いいなぁ。 もう、小さい字が読みにくくて。 気付かない間に手を伸ばして読んでるのよ。 この不便さどうにかならないかしら」

「まだ見えるだけいいじゃない。 私なんてコンタクト外したら何も見えないんだから」

「うーん・・・それも不便よね」

「でしょ? 裸眼でいられるんだからいいわよ。 それにこれからは事務職じゃないんだからそんなに小さな字を見ることも無いんでしょ?」

「まぁね。 でもこれから身体のあちこちに 歳を感じるところが出てくるんだろうなぁ」

「諦めるしかないわよね」 その時、琴音の携帯が鳴った。

「あ、文香だわ」 少し話して切ると

「何も無ければ 夕方に来られるって」

「そう。 楽しみだわ」

「お昼ご飯は二人分作ってきたけど、夕飯までは傷んでもいけないから作ってこなかったんだけど・・・どこかに食べに出る?」

「そうね。 そうしようか」 それからは文香が来るまで暦の手作り弁当を食べながら話に花を咲かせた。


夕方。 文香がやってきた。 

玄関に立っていた文香の手は大きな袋を抱えている。

「わ、何?」

「ごめん、ドアもっと開けて」 琴音がドアを全開にすると、袋が引っ掛からないようにソロっと入った文香。 

キッチンにソロリとそれを置き和室を見た。 暦が立っている。

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