大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第230回

2015年08月26日 00時26分29秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第220回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~道~  第230回



「初めまして、暦さん?」

「初めまして。 文香さんね。 お仕事大丈夫だったのかしら? どうぞこっちに座って」

「部下に擦り付けてきたから全然大丈夫」 和室に歩き出した文香を見て

「文香、この袋はどうするの?」

「あ、忘れてた」

「この一瞬に忘れる? ね、暦 文香って天然でしょ?」

「こっちに誘ったのは私だから・・・でも、そうかも」

「琴音ったら、何をいらない事を話してたのかしらね」 そう言って紙袋の横にしゃがむと

「夕飯買って来たんだけど、どう?」 そう言って紙袋から中のものを出し始めた。

「え? 買って来てくれたの? どこかへ食べに行こうかって言ってたんだけど」

「外に行くと声のボリュームも遠慮しなくちゃいけないじゃない。 それならこっちで食べる方が何の遠慮も無くていいじゃない?」 並べられた物を見て

「なにこれ? オードブル?」

「結構頑張っちゃったわよ。 この部屋にはお世話になったんだから、最後の夜くらいは感謝を込めて贅沢にいかなくっちゃね」

「へぇー、コンビニ弁当じゃないんだ」

「特別に作ってもらったんだから美味しいわよ」

「仕事関係の知り合い?」

「そう。 今お話させてもらってる関係の方が経営しているレストランで作ってもらったの」 和室から暦が出てきて覗き込むと

「わぁ、ステキなオードブル。 ファミレスくらいしか行かないから、こんな贅沢したら口が腫れるんじゃないかしら」

「ふふ、有難う。 食べてもらえる?」

「喜んで。 琴音、和室に運ぼう」 紙袋から次々と出される 料理を和室に運んだ。

和室に全部並べると暦がそれを見て

「わぁ、それにしてもすごいわ。 すごいお洒落。 私の田舎弁当とエライ違いだわ」 それを聞いた琴音が

「暦のは暦のよ。 お袋の味よ。 でも本当ね、すごくお洒落」 最後にキッチンから歩いてきた文香が

「でしょ? 張り切って作ってくださったのよ。 牛と豚のお肉は入れないでって言っておいたから大丈夫よ。 それとこれ」 両手にはワイ
ンを持っている。

「ワイン付きなの?」

「いや~ん。 お洒落ー。 主婦には遠い話じゃないー」 

「ちゃんとオープナーも持ってきたからね」 

「へぇー、文香にしては気が利いてるじゃない」

「何言ってんのよ、当たり前じゃない。 さ、座ろう」 それぞれが座ると

「せっかくのワインとオードブルなのに地べたって、ちょっと雰囲気壊しちゃうわね。 ゴメンね」 

「気にしない、気にしない。 楽しく飲んで食べられたらそれでいいじゃない」 そう言ってワインを開け いざ注ごうとした時

「あ! グラスがない! うっかりしてたわ! どうしよう」 それを聞いた琴音と暦が大笑いをした。 

そして暦が袋から紙コップを出してきて

「こんなので雰囲気ぶち壊しだけど これで飲まない?」

「あ、充分、充分。 飲めればいいよね」

「ね、暦 もうこれで充分、文香の天然が分かったでしょ?」

「何よー。 失敗くらいあるわよ。 人間なんだから」 紙コップにワインを注ぎながら文香が言うと

「悪い意味で言ったんじゃないんだって。 二人が気楽に話してもらえたらそれでいいの。 ほら、バリバリ働くキャリアウーマンだと思ってたら 暦もどこかで線を引くかもしれないじゃない。 ね、暦。 こっちの文香を知っている方が気楽でしょ?」

「うん、そうね」 その暦の返事に安心して言葉を続けた。

「あ、文香は暦と話す時は緊張しなさいよ」

「やだ、それってどういう意味よ。 私が意地悪な主婦とでも言いたいわけ?」

「違う、違う。 主婦だと思って甘く見てると、とんでもなく切れる人だって事」

「え? 暦さんってオコリンボさん?」

「バカね、違うわよ。 ね、暦。 やってられないくらいでしょ?」

「そうね、私の周りには居ないわね。 新鮮でいいかも」 また二人で笑い出すと

「ちょっと何なのよ、琴音がキレるって言うからじゃない」

「切れるの意味が違うわよ。 頭の回転がいいって事よ」

「あ、そうなの? 暦さんって頭の回転がいいの?」

「そんな事ないわ。 琴音ったら何を言い出すのよ」

「ま、話していると分かってくるわ」 全員のワイン入り紙コップががその手に渡った。 文香が持っていたワインボトルを横に置き

「それじゃあ、乾杯しようか」 文香がそう言うと琴音が

「何に?」 

「決まってるじゃない。 琴音のこれからによ」 それを聞いた暦が

「今日の出会いにも乾杯しない?」

「あ、いいわね。 それじゃあ」 文香が音頭を取るようだ。

「琴音のこれからの成功を願って! そして 今日のこの日の出会いに乾杯!」

「乾杯!」 三人で紙コップを合わせると何とも言えない気の抜けた音がなる。 

「ここでグラスを合わせる音が聞きたかったわー」 琴音が言う。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« みち  ~道~  第229回 | トップ | みち  ~道~  第231回 »
最新の画像もっと見る

小説」カテゴリの最新記事