大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第138回

2014年10月03日 14時42分54秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第138回




「奴のせいって言っちゃあ駄目なんでしょうけどね。 奴の独立は大きくひびいてますよ」 持っていたボールペンを上手に指で回している。

「そうなんですか。 ・・・あの、普通って言ったら駄目なんでしょうけど 大体、独立すると元の会社には姿を見せないって聞きますけど・・・」

「社長が出入りを許してるんですよ。 普通独立するって言ったら内緒でするでしょ? そんなことをしたら来る事なんて出来ないだろうけど 辞める時にちゃんと話し合いをして形よく辞めたからじゃないかな。 それにうちの社長って人が良いでしょ?」 眉毛を上げて琴音を見た。 
その眉毛に反応するかのように琴音の口角が上がった。 そして少し間を置いて

「そうですか。 色んな形があるんですね」

「でもあいつら二人最近ちょっとおかしいなぁ」 奥の事務所をチラッと見た。

「おかしい? ですか?」

「最近の様子がちょっとね・・・仕事の話ならここですればいいのに今も二人で場所を変えたでしょ?」 ボールペンで奥の事務所を指した。

「・・・はい」 この社員が琴音に何を言おうとしているのか琴音には分からなかった。

「あ、会長だ」 話していた社員が小声で言った。

琴音が振り向くと久しぶりに会長が事務所に入ってきた。 会長は席に着きながら

「社長はどうした」 持っていたスポーツ誌を机に投げ機嫌が悪そうだ。

「先程外に出られました」 琴音が答えた。

「仕事もないのに外に出て何をやってるんだ。 ・・・みんなをここに呼んでください」 会長の椅子に座った。

「はい」 慌てて1階へ降りて行き全員を事務所に呼んだ。 

武藤と社員も奥の事務所から裏階段で工場に降りていた。 全員が事務所に入りそれぞれ空いている椅子に座ったことを確認した会長が

「みんな分かっているだろうけど儲けがぜんぜんない。 これはどういう事だ」 全員が黙っている。

「営業も営業だが、お前達も仕事がないんだったら外へ仕事を取りに行く位の気はないのか!」 琴音が会長の机にお茶を置いた。

「外へ出なくても電話もあるだろ!」 誰も何も言わない。

「経費を無駄に使ってる位ならそれ位しろ! それと営業に言っておけ。 仕事を取れないんだったら無駄にガソリンを使うんじゃないとな!」 お茶を一口飲んで事務所を出て行った。 

皆が会長の降りていく靴音に耳をそばだてている。 階段を降りて出て行ったようだ。

「何なんだよあれ!」 一人の社員が口を切った。 その言葉に乗って皆が口を開きだした。

「絶対自分の虫の居所が悪かったから憂さ晴らしに来たに違いないよなー」

「社長が居たら一言も言えないくせにさ」 

「経費を使うな、ガソリンを使うなって それで仕事を取って来いってどういう事だよなー。 電話なんかで仕事が取れるわけないだろって言うんだよ!」 全員が口々に文句を言う中、工場長が

「まぁまぁ、抑えろよ。 使われる身は何を言われても仕方がないだろう」

「社長の車がないのを確認してから事務所に上がって来たに決まってるんですよ。 やり方が汚いんですよ!」

「仕事がなくて時間を無駄にしてるのは確かなんだから文句ばかりも言えないだろう。 まぁ、会長もいつものように今日言ったことは明日には忘れているだろうからみんなもあんまり気にするな。 一応このことは俺から社長に言っておくから全員仕事に戻ろう」 工場長が席を立つと不服そうな顔をしながらもバラバラと他の者も持ち場に帰っていった。

さっきまで琴音と話していたいた社員が

「あんな性格だから嫌われるんですよ。 暫く見なかったからイライラしなくて済んでたのに」 今までの会長は事務所に入ってきても席に着いたかと思うとすぐにグーグーといびきをたてて寝ているという姿は何度か見ていたが、今日のような会長を初めて見た琴音であった。

そして皆の反応を見てこのとき初めて森川が言っていた皆が会長を嫌っているということに納得が出来たのであった。

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