『---映ゆ---』 目次
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「シノハさん!」 タイリンがシノハに抱きついてきた。
「わっ! タイリン?」 シノハにはタイリンの姿が目に入っていなかった。
「シノハさん!シノハさん!」
唯々、己の名を言うタイリン。 呼んでいるのではないことは分かっている。 どうしてタイリンが己の名をいってるのかが分かる。
「タイリンごめん。 心配をかけたな」 タイリンの肩に手を添る。
「シノハさん・・・」 シノハの顔を見る余裕などなく唯々、シノハに抱きついている。
「終わったから。 俺は大丈夫だから」 シノハの言葉を聞いて、シノハの身体に埋めていた顔を上げた。
「心配してくれてありがとうな」 その言葉に安堵と、嬉しさからタイリンが大きな粒を目から落とした。
二人の様子を見ていた村人が力(りき)っていた肩を落とした。 すると同じように肩を落とした女たちがザワザワとしだした。
「婆様は?」 あちらこちらから声が聞こえてくる。
「あ、え?! あら、どうしよう。 婆様を村に置いてきちまったよ!」
ザワミドが声高に言うと、小太りのザワミドより先に、数人の女たちが先に走って、タム婆を迎えに村に帰っていった。 そして村から森に帰ってくるときには、目に入ったジャンムが投げっ放しにしていた椀や筒を持って帰ってきた。
男たちは今目にした戦いに放心状態の者、アレコレと言い出す者とそれぞれだが、ドンダダ側以外の目が動くものは誰もシノハの姿を目で追っていた。
シノハがタイリンの肩を握りしめた。
「タイリン、今は礼を言わねばならない」 シノハの言葉を聞いて「あっ! ごめんなさい」 言うと慌てて身を引いた。
タイリンに目で頷くと、馬の横に付きクジャムに向き直った。
「クジャム、助かりました」 両の手で剣を持ちクジャムに差し出した。
重い剣を軽々と片手で受け取ると腰にさした。 そしてジャンムの脇に手をやると軽々と持ち上げ、その身をシノハに渡した。 ずっと馬に乗っていたジャンムが地に足をつけると足がよろめいた。
シノハをひと睨みするとクジャムが口を開いた。
「来い」 手綱を引き向きを変えると、森の出口まで馬を歩かせる。 その馬の歩調に合わせてシノハが歩く。
出口に差し掛かかる手前でクジャムが片手を上げる。 サラニンとバランガが馬を止め向きを変えた。 誰かがついて来ていないか、誰かが聞き耳を立てていないかを見張るため。
(人払いか・・・何を言われるのだろうか・・・)
クジャムはそのまま森を出ると、やっと後ろを歩いていたシノハに向き合った。 馬上の上からジッとシノハを見る。
「我が何を言うか分かるか」
「・・・」 全く分からない。 ただ、真っ直ぐクジャムを見ることしか出来ない。
シノハの様子に言葉を続けた。
「なぜ戦わなかった」 クジャムから睨みの利いた低く厳しい声が発せられた。
「・・・それは・・・」 戦う時ではなかった。 と言いたかったが、それではこのトンデンの村の内情を話さなければいけなかった。 そしてなにより、ゴンドュー村で教わった戦い方をゴンドュー村の許しを得ずに、出す事は許されない事だと思っていたからだ。
言い淀んでいるシノハを見てクジャムが言う。
「我らは誰にでも教えているわけではない。 我らの目で選び、教えていいと思える者だけに教えている。 その者の身体に傷を入れさせない為にだ。 我らの村の者と同じ身体と考えているからだ。 とくにシノハ、お前には我が村の者全員が教えているはずだ」
「はい」
「それなのに、今の戦いは何だ! 傷だらけのその姿は何だ! 我らが教えている事をなんと考えておる!」 シノハがいつ身を守り、戦うかを見守っていたのに全く戦おうとはしなかった。
「チッ、クジャムのヤツ声がでかいんだよ。 どうする? もう少し範囲を広げるか?」 バランガがサラニンに問う。
「いいだろう。 多分もう終わりだろうさ」 と、その時ジャンムが走ってくるのが見えた。
「オイ」 顎をしゃくってバランガに示すと「我がいく」 と馬を走らせた。
クジャムが剣を投げなければ、次の一手でシノハは完全にドンダダの持つ槍で突かれていたであろう。 避けるだけを教えたわけではないのに。
クジャムの言葉はシノハの身を案じる気持ちと、己らの村の想いの言葉であった。
クジャムが言いたかった己らの村の想い。 それは、教えられた者は己の判断で戦っていいという事だ。 教えられた者はその判断を誤る者ではないのだから。 ゴンドューの村の者が選んだのだから。
だが、シノハの中で、まさかそんな風にゴンドュー村が考えているとは思っていなかった。
その考えを悟ることが出来なかった己が情けなく、頭を垂れたい気持ちだが垂れることはできない。 目を逸らすこともできない。 そんな事をしてしまえばクジャムの言葉を受け止めなかった事になる。 それに、何故戦わなかったのかと自分の考えを言うと、今のクジャムの言葉に言い訳をしているだけにしか過ぎない。
じっとクジャムの目を見、言葉を聞くしかなかった。 暫くの沈黙が流れた。
「戦いはお前の好きなようにすればいい。 身を守れ。 ゴンドューはお前を信じている」 シノハの心の内を分かった言葉であった。
ゴンドュー村は“馬を操る村” と言われているが、影を持つ影の村でもある。 その影の村とは“武人の村”。 ゴンドュー村がシノハに教えたのは、表立った“馬を操る村”の馬の操り方も勿論の事、影の村の部分でもある“武人の村”の戦い方であった。
「クジャム・・・」 シノハを見てクジャムが頷く。 その頷きに今度はシノハが顎をグッと引き、すぐに顔を上げるとまたすぐにクジャムを見た。
クジャムがピューと指笛を吹いた。
「終わったみたいだな」 二人で目を合わせると、クジャムの元に馬を軽く走らせた。
荷物が乗った馬にサラニンに支えられながら、ジャンムがチョコリンと乗っている。
「え? ジャンム?」
「馬を見たくて追いかけてきたらしい」 呆れたような口調でサラニンが言うと
「違うよ。 乗っている所を見たかったんだ」 相変わらずハッキリとものを言う。
「じゃあ、乗っていると我らを見られないだろう。 降りるか?」
「・・・」 口を尖らす。
「しっかりとやられたか?」 バランガが意地悪く聞く。
「あ・・・」 バツの悪そうな顔で頭をかく。
「心配をかけるな」
「はい」 シノハが小さくなるのを見るとケロッとした顔で、サラニンの前にいるジャンムが急に驚くようなことを言った。
「シノハさんに拳を教えてる人ってこの人たちでしょ?」
「ど、どうして・・・」 シノハが目を丸くする。
「だってシノハさんが戦っている時、女みたいだって言ってたから。 ほら、シノハさんが言ってたじゃない、教えてくれてる人に女みたいって言われてるって」
思わずシノハがクジャムを見た。
「ああ、そう言えば我らはペラペラと喋っていたな」 言うとジャンムを見て言葉を続けた。
「そのことは誰にも言うな」 怖い目を向けられ、生まれて初めて肝が上がる思いをした。 青い顔になりながら、コクリと頷く。
その時、
「シノハさん!」
呼ばれ、振り返り森の中を見ると、タイリンに添われトデナミが危ない足取りで走ってきた。
「トデナミ! まだ動いてはいけない!」 クジャムに待っていくれと視線を送ると、すぐにこちらに走ってくるトデナミに走り寄った。
普通ならクジャムを待たすなどと、そんなことはしない。 ましてやこんな時に。 それに万が一にもそんな事をすると、どれだけクジャムが、いや、クジャムどころかサラニン、バランガがクジャムより先に怒り出す。 だが、今はそれが出来ると判断をした。 ゴンドュー村をよく知るシノハだからこそ、その判断は間違っていないと分かる。
「シノハさん血が・・・。 それに衣も。 お身体の傷は―――」 までトデナミが言うと、シノハが制した。
「我はなんともありません。 それよりトデナミの身体が心配ですが、今は礼が先です。 何処かで休んでいてください」
今は礼を重んじるゴンドュー村の考えが一番の優先事。 トンデン村の馬たちを集めてまわった礼もまだまともに出来ていないのだ。 ゴンドュー村を怒らせてはこの村は簡単に潰されてしまう。
トデナミの手を取り、腰を下ろせるところを探そうとしたとき、トデナミが思いもよらぬ事を言った。
「あの、シノハさんに手を添えてくださった方に礼を言いたいのですが、私では駄目ですか?」 クジャムに礼を言いたいと言うことであった。
「あ・・・それはトンデン村にとって有難いことです。 でも、大丈夫ですか?」
「はい」
トデナミの返事を聞くと手を取ったままクジャムの元まで歩き、そしてクジャムの馬の横に付いた。
「クジャム、こちらはトンデン村のトデナミ・・・」 まで言って馬上をみるとつい今しがたまで居たクジャムが馬上に居ない。
足元から声が聞こえた。
「おお、なんと美しい。 トデナミと申されるのか。 我はゴンドュー村のクジャムと申す。 これほどに美しい女に出会ったことはない」
「クジャム、引け。 我はサラニンと申す。 まるで未だ知らぬ美し村の精霊のようだ」
「サラニン黙れ。 我はバランガと申す。 こやつらは目に入れなくて宜しい。 美し女、我だけを見てくれ」
いつの間にかクジャムどころか、サラニンとバランガまで馬から下りてトデナミの前に三人が三人とも、片膝をついて片手を差し出している。
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- 映ゆ - ~Shinoha~ 第59回
「シノハさん!」 タイリンがシノハに抱きついてきた。
「わっ! タイリン?」 シノハにはタイリンの姿が目に入っていなかった。
「シノハさん!シノハさん!」
唯々、己の名を言うタイリン。 呼んでいるのではないことは分かっている。 どうしてタイリンが己の名をいってるのかが分かる。
「タイリンごめん。 心配をかけたな」 タイリンの肩に手を添る。
「シノハさん・・・」 シノハの顔を見る余裕などなく唯々、シノハに抱きついている。
「終わったから。 俺は大丈夫だから」 シノハの言葉を聞いて、シノハの身体に埋めていた顔を上げた。
「心配してくれてありがとうな」 その言葉に安堵と、嬉しさからタイリンが大きな粒を目から落とした。
二人の様子を見ていた村人が力(りき)っていた肩を落とした。 すると同じように肩を落とした女たちがザワザワとしだした。
「婆様は?」 あちらこちらから声が聞こえてくる。
「あ、え?! あら、どうしよう。 婆様を村に置いてきちまったよ!」
ザワミドが声高に言うと、小太りのザワミドより先に、数人の女たちが先に走って、タム婆を迎えに村に帰っていった。 そして村から森に帰ってくるときには、目に入ったジャンムが投げっ放しにしていた椀や筒を持って帰ってきた。
男たちは今目にした戦いに放心状態の者、アレコレと言い出す者とそれぞれだが、ドンダダ側以外の目が動くものは誰もシノハの姿を目で追っていた。
シノハがタイリンの肩を握りしめた。
「タイリン、今は礼を言わねばならない」 シノハの言葉を聞いて「あっ! ごめんなさい」 言うと慌てて身を引いた。
タイリンに目で頷くと、馬の横に付きクジャムに向き直った。
「クジャム、助かりました」 両の手で剣を持ちクジャムに差し出した。
重い剣を軽々と片手で受け取ると腰にさした。 そしてジャンムの脇に手をやると軽々と持ち上げ、その身をシノハに渡した。 ずっと馬に乗っていたジャンムが地に足をつけると足がよろめいた。
シノハをひと睨みするとクジャムが口を開いた。
「来い」 手綱を引き向きを変えると、森の出口まで馬を歩かせる。 その馬の歩調に合わせてシノハが歩く。
出口に差し掛かかる手前でクジャムが片手を上げる。 サラニンとバランガが馬を止め向きを変えた。 誰かがついて来ていないか、誰かが聞き耳を立てていないかを見張るため。
(人払いか・・・何を言われるのだろうか・・・)
クジャムはそのまま森を出ると、やっと後ろを歩いていたシノハに向き合った。 馬上の上からジッとシノハを見る。
「我が何を言うか分かるか」
「・・・」 全く分からない。 ただ、真っ直ぐクジャムを見ることしか出来ない。
シノハの様子に言葉を続けた。
「なぜ戦わなかった」 クジャムから睨みの利いた低く厳しい声が発せられた。
「・・・それは・・・」 戦う時ではなかった。 と言いたかったが、それではこのトンデンの村の内情を話さなければいけなかった。 そしてなにより、ゴンドュー村で教わった戦い方をゴンドュー村の許しを得ずに、出す事は許されない事だと思っていたからだ。
言い淀んでいるシノハを見てクジャムが言う。
「我らは誰にでも教えているわけではない。 我らの目で選び、教えていいと思える者だけに教えている。 その者の身体に傷を入れさせない為にだ。 我らの村の者と同じ身体と考えているからだ。 とくにシノハ、お前には我が村の者全員が教えているはずだ」
「はい」
「それなのに、今の戦いは何だ! 傷だらけのその姿は何だ! 我らが教えている事をなんと考えておる!」 シノハがいつ身を守り、戦うかを見守っていたのに全く戦おうとはしなかった。
「チッ、クジャムのヤツ声がでかいんだよ。 どうする? もう少し範囲を広げるか?」 バランガがサラニンに問う。
「いいだろう。 多分もう終わりだろうさ」 と、その時ジャンムが走ってくるのが見えた。
「オイ」 顎をしゃくってバランガに示すと「我がいく」 と馬を走らせた。
クジャムが剣を投げなければ、次の一手でシノハは完全にドンダダの持つ槍で突かれていたであろう。 避けるだけを教えたわけではないのに。
クジャムの言葉はシノハの身を案じる気持ちと、己らの村の想いの言葉であった。
クジャムが言いたかった己らの村の想い。 それは、教えられた者は己の判断で戦っていいという事だ。 教えられた者はその判断を誤る者ではないのだから。 ゴンドューの村の者が選んだのだから。
だが、シノハの中で、まさかそんな風にゴンドュー村が考えているとは思っていなかった。
その考えを悟ることが出来なかった己が情けなく、頭を垂れたい気持ちだが垂れることはできない。 目を逸らすこともできない。 そんな事をしてしまえばクジャムの言葉を受け止めなかった事になる。 それに、何故戦わなかったのかと自分の考えを言うと、今のクジャムの言葉に言い訳をしているだけにしか過ぎない。
じっとクジャムの目を見、言葉を聞くしかなかった。 暫くの沈黙が流れた。
「戦いはお前の好きなようにすればいい。 身を守れ。 ゴンドューはお前を信じている」 シノハの心の内を分かった言葉であった。
ゴンドュー村は“馬を操る村” と言われているが、影を持つ影の村でもある。 その影の村とは“武人の村”。 ゴンドュー村がシノハに教えたのは、表立った“馬を操る村”の馬の操り方も勿論の事、影の村の部分でもある“武人の村”の戦い方であった。
「クジャム・・・」 シノハを見てクジャムが頷く。 その頷きに今度はシノハが顎をグッと引き、すぐに顔を上げるとまたすぐにクジャムを見た。
クジャムがピューと指笛を吹いた。
「終わったみたいだな」 二人で目を合わせると、クジャムの元に馬を軽く走らせた。
荷物が乗った馬にサラニンに支えられながら、ジャンムがチョコリンと乗っている。
「え? ジャンム?」
「馬を見たくて追いかけてきたらしい」 呆れたような口調でサラニンが言うと
「違うよ。 乗っている所を見たかったんだ」 相変わらずハッキリとものを言う。
「じゃあ、乗っていると我らを見られないだろう。 降りるか?」
「・・・」 口を尖らす。
「しっかりとやられたか?」 バランガが意地悪く聞く。
「あ・・・」 バツの悪そうな顔で頭をかく。
「心配をかけるな」
「はい」 シノハが小さくなるのを見るとケロッとした顔で、サラニンの前にいるジャンムが急に驚くようなことを言った。
「シノハさんに拳を教えてる人ってこの人たちでしょ?」
「ど、どうして・・・」 シノハが目を丸くする。
「だってシノハさんが戦っている時、女みたいだって言ってたから。 ほら、シノハさんが言ってたじゃない、教えてくれてる人に女みたいって言われてるって」
思わずシノハがクジャムを見た。
「ああ、そう言えば我らはペラペラと喋っていたな」 言うとジャンムを見て言葉を続けた。
「そのことは誰にも言うな」 怖い目を向けられ、生まれて初めて肝が上がる思いをした。 青い顔になりながら、コクリと頷く。
その時、
「シノハさん!」
呼ばれ、振り返り森の中を見ると、タイリンに添われトデナミが危ない足取りで走ってきた。
「トデナミ! まだ動いてはいけない!」 クジャムに待っていくれと視線を送ると、すぐにこちらに走ってくるトデナミに走り寄った。
普通ならクジャムを待たすなどと、そんなことはしない。 ましてやこんな時に。 それに万が一にもそんな事をすると、どれだけクジャムが、いや、クジャムどころかサラニン、バランガがクジャムより先に怒り出す。 だが、今はそれが出来ると判断をした。 ゴンドュー村をよく知るシノハだからこそ、その判断は間違っていないと分かる。
「シノハさん血が・・・。 それに衣も。 お身体の傷は―――」 までトデナミが言うと、シノハが制した。
「我はなんともありません。 それよりトデナミの身体が心配ですが、今は礼が先です。 何処かで休んでいてください」
今は礼を重んじるゴンドュー村の考えが一番の優先事。 トンデン村の馬たちを集めてまわった礼もまだまともに出来ていないのだ。 ゴンドュー村を怒らせてはこの村は簡単に潰されてしまう。
トデナミの手を取り、腰を下ろせるところを探そうとしたとき、トデナミが思いもよらぬ事を言った。
「あの、シノハさんに手を添えてくださった方に礼を言いたいのですが、私では駄目ですか?」 クジャムに礼を言いたいと言うことであった。
「あ・・・それはトンデン村にとって有難いことです。 でも、大丈夫ですか?」
「はい」
トデナミの返事を聞くと手を取ったままクジャムの元まで歩き、そしてクジャムの馬の横に付いた。
「クジャム、こちらはトンデン村のトデナミ・・・」 まで言って馬上をみるとつい今しがたまで居たクジャムが馬上に居ない。
足元から声が聞こえた。
「おお、なんと美しい。 トデナミと申されるのか。 我はゴンドュー村のクジャムと申す。 これほどに美しい女に出会ったことはない」
「クジャム、引け。 我はサラニンと申す。 まるで未だ知らぬ美し村の精霊のようだ」
「サラニン黙れ。 我はバランガと申す。 こやつらは目に入れなくて宜しい。 美し女、我だけを見てくれ」
いつの間にかクジャムどころか、サラニンとバランガまで馬から下りてトデナミの前に三人が三人とも、片膝をついて片手を差し出している。