小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

やっぱり成長曲線!

2024年03月28日 14時45分27秒 | 予防接種
成長曲線シリーズ第三弾。
関連本は医療関係者向けが多いのですが、珍しく一般向けの啓蒙書が新書版で発行されていました。

子どもの異変は「成長曲線」でわかる(小林正子著、小学館新書、2023年発行)

医学書では正常より異常に焦点を当てて解説されることが多く、学校健診で境界例に遭遇すると「この子は異常なのか?正常なのか?」と迷い、フリーズしてしまうことがあります。

本書の著者は医師ではないので、少し視点が異なります。
病気に関する記載は十分とはいえませんが、正常のバリエーションや正常と異常の間の「グレーゾーン」について詳しく書かれており、理解が深まりました。

一番大きな気づきは、
「思春期早発症はスペクトラムである」
ということ。
思春期を迎えると身長の伸びがスパートしますが、それが早く来る子ども(早熟型)ほど低身長に終わる傾向があり、遅く来る子(晩熟型)はゆっくり長く成長するので最終身長が高くなる傾向がある、という事実。
ですから思春期早発症は超早熟型という位置づけとなり、昔は様子を見るしかありませんでしたが、現在は治療介入ができるようになったのです。

さて、私がフムフム…と頷いたポイントをまとめてみました。

<ポイント>

・思春期の身長スパート開始の平均は、女子は9歳半頃、男子は11歳前後。ただし、
① 小柄な子ではやや遅め(女子では10歳半頃)
② 大柄の子(97パーセンタイル付近)は早め(女子では9歳頃)

・思春期の身長スパートと初潮の関係:
✓身長スパートが始まってぐんぐん身長が伸びているときには初潮はまだ見られず、その伸びが少し緩やかになったかな、そして体重も少し増えてきたかな、という時に初潮が発来する。
✓スパートの時期により初潮までの期間が変わる。身長スパートが標準だと、その2年半〜3年後に初潮を迎え、身長スパートが遅いと3年以上後になる(中には4〜5年後も)。近年の平均初潮年齢は12歳2-3ヶ月。
① 身長スパート開始が標準(9歳半前後) → 初潮まで2〜3年
② 身長スパート開始が標準より早い → 初潮まで2年以内
③ 身長スパート開始が標準より遅い(10歳以降) → 初潮まで3年以上

・身長スパートの開始が早い(早熟型)と大きな伸びが見られるが、最終身長は以前のパーセンタイルよ基準線より低いレベルとなる傾向が認められる。反対に、身長スパート開始が遅い(晩熟型)と最終的に身長が高くなる傾向がある。ただし、最初から大柄の子は早熟であっても背が高くなる。

・思春期女子のからだの変化:身長が急に伸び始める身長スパートの頃にはすでに胸がほんの少し膨らんでいるが、この頃に女子としての成熟が始まり、身体に脂肪の占める割合が増えて、徐々に女性らしい体つきに変わっていく。平均的には9歳を過ぎると男子より脂肪の占める割合が多くなる。
しかし身長の伸びる速度が最大になるまでは、その変化はあまり急速ではない。身長が最大に伸びる頃(最大発育期)、体重もスパートを開始し、やがて身長の伸びが少し穏やかになったかな?と思う頃、初潮がみられる。
初潮を迎えると女性ホルモンの分泌が高まり、その働きで脂肪の占める割合がさらに増加する。一般的に、女性の体脂肪率は男性より10%ほど高い。

・思春期男子のからだの変化:男子は体重30kgを超えた頃から少しずつ男性ホルモンが出始め、体重がスパートする頃は脂肪に対して除脂肪(骨、筋肉、血液など)が顕著に増えていく → 男性ホルモンの働きで次第に男らしい姿へ。

・本格的な筋トレは身長増加が済んでから:身長が伸びる時期は骨が非常に弱くなっており、「骨端線」に過度な負荷がかかると、大事な骨の成長部分が損なわれてしまう危険がある。そのため骨が盛んに伸びている時期は、ウエイトトレーニングなどで関節を傷めることのないよう、運動の仕方に注意することが必要である。骨がウエイトトレーニング負荷に耐えられるようになるまで待つ必要がある。

・思春期早発症は正常発育とはっきり区別できる病態ではなく、連続性がある(スペクトラム)。早熟型は低身長で終わることが多く、晩熟型は早熟型を追い抜く傾向があるが、思春期早発症は“超早熟型”といえるかもしれない。

・思春期早発症は小学生のうち(男子11歳前、女子9歳前)に発見すべし。中学生では遅い。それまで特に大柄でなかった子が急に身長が伸びるので本人も家族も喜びがちであるが、中学生になる前に伸びが止まり、最終的には低身長になってしまう。気がついたらできるだけ早く小児科医を受診して専門医につないでもらい、治療が間に合ってうまくいけば平均的な身長に達することが期待できる。

・幼児期からの肥満は小児肥満にリンクし、夏休みの体重増加も肥満にリンクする。夏休みに不規則な生活を送ると太るが、反対に規則的な生活を心がければやせるチャンスでもある。

・身長を伸ばすポイントは「ぐっすり眠って成長ホルモンをしっかり分泌させること」。
第二次世界大戦までの日本人の畳に座る生活様式は、足の発育にはマイナスだった。戦後、テーブルと椅子の生活になり、栄養事情もよくなったことから、日本の子どもの成長はめざましい伸びを示し、その大部分は足の伸びが寄与していた。ところが、平均身長は1998年〜2000年を境に低下傾向へ転じた。
これは発育段階で最後に伸びるはずの足が十分に伸びきらず、身長スパートが終了してしまったためで、その原因の一つとして考えられるのが、インターネットの普及によるパソコンや携帯電話やスマートフォン、ゲーム機といった電子機器の登場である。
スマホの長時間使用は、睡眠に悪影響を及ぼす(睡眠時間減少、ブルーライトにより脳が覚醒し睡眠の質が悪化)。深い睡眠が得られない → 成長ホルモンは分泌されない → 身長が伸びない。つまり、身長が伸びる時期にスマートフォンやゲーム機を夜遅くまでいじる生活をしていると、身長の伸びが妨げられる。

・オスグッド病は骨が弱い成長期に大腿四頭筋を使いすぎると発症する。腰椎分離症も骨の弱い成長期に下肢の筋肉を使いすぎると起こる疲労骨折のなれの果てであり、それを放置すると椎間板に負担がかかって傷ついてしまう腰椎すべり症に進展する。

備忘録代わりのメモを記しておきます。

<メモ>

(P17 )2016年(平成28年)に児童生徒の健康診断において、従来の身長・体重・座高の測定項目から座高が削除され、その代わりに身長・体重の測定値をグラフに表すこと、すなわち「身長・体重成長曲線」の作成が文部科学省から学校に対して推奨されるようになった。

(P20)…使用したデータは2000(平成12)年度の「乳幼児身体発育値」と「学校保健統計値」で、0〜18歳の現在のパーセンタイル基準値には、この年度の値を使うことが学会で申し合わされています。

(P25)…パーセンタイル基準線は母子健康手帳で使われています。…帯のようになっていて、帯の中には「各月・年齢の94%の子どもの値が入ります」と書いてあります。上の境界線が97%パーセンタイル、下の境界線が3パーセンタイルにあたります。
…数値だけ眺めていてもわからないことが、グラフ化することで一目瞭然となり、またそれを見た人の共通理解が得られるのです。

(P29 )身長が一番下の3パーセンタイルを大きく下回ったり、次第に離れていく場合は、成長ホルモン分泌不全などが疑われますが、二次的なものが原因であることもあります。
(例)扁桃腺肥大やアデノイド肥大 → 睡眠時無呼吸症候群となり深い睡眠が得られない → 成長ホルモン分泌抑制
…身長が低学年から急に伸びるときは、いわゆる「思春期早発症」が疑われます。身長がドンドン伸びていくので、子どもも保護者も喜びがちですが、早期に身長が止まり、最終的には極端な低身長になる可能性があります。
…グラフの異常は、からだだけでなく心の不調を表すこともあります。

(P32)3歳付近から肥満が発症すると、小学校に入ってさらに肥満度が上がってしまうという調査結果があります。

(P33)身長の伸びが低年齢(女子9歳前、男子11歳前)から急に始まり、女子なら初潮が始まり、男子は髭が生えたり声変わりが起こると、思春期早発症の疑いがあります。
…本来のからだのリズムは、夏は体重が増えないはずなのに、生活習慣の乱れから大幅に増えてしまう子がいます。そうすると体のリズムが乱れたまま、肥満になっていく可能性があります。

(P34)思春期の身長スパート…小柄な子ではやや遅め(女子では10歳半くらい、男子はさらに1年程度遅い)ですが、大柄の97パーセンタイル付近の子は9歳辺りから基準線が上がってきます。…身長スパートは時代が進むにつれて開始時期が早まってきましたが、現在はほぼ落ちついて、女子は9歳半頃から、男子は11歳前後からが平均的な身長スパート開始となっています。

(P36)女子の場合、身長スパートの時期から初潮が発来する時期がだいたいわかります…身長スパートが始まってぐんぐん身長が伸びているときには、初潮はまだ見られません。その伸びが少し緩やかになったかな、そして体重も少し増えてきたかな、という時に初潮が発来します。現在の初潮発来平均年齢は12歳2-3ヶ月です。身長スパートが標準だと、初潮が2年半〜3年後、身長スパートが遅いと3年異常、中には4〜5年後という子もいます。

(P38)身長スパートの開始が早いと大きな伸びが見られますが、やがて止まり、それ以後は伸びが少なくなるために、最終身長は以前のパーセンタイルよ基準線より低いレベルとなります。反対に、身長スパートが遅いと最終的に身長が高くなる傾向があります。ただし、1〜2割程度の例外があります。

(P42)人生の中で身長がとりわけ伸びる時期が2度あります。最初の大きな伸びは、生まれてからの1年間です。
・身長約50cmで生まれた新生児は、生後1年間で約1.5倍の75cmになります。
・4歳になる頃には、生まれたときの約2倍の1mに達します。
・4歳からの身長の伸びは年間約5〜6cmです。
・思春期スパートは、身長も伸び、体重も増える人生最後の発育急伸期です。それまで男女差がほとんどなかった体格に、9歳〜9歳半になると変化が現れます。
・女子は4年生あたりから身長がスルスル伸びて男子を追い抜いていきます。この頃には胸が少し膨らんできますが、これが第二次性徴の始まりです。
・男子は女子より1年半から2年遅れて身長スパートが始まります。遅れてスパートしても、その発育速度の幅は女子より大きいので、やがて女子を追い抜くことになります。
・日本の高校3年生の平均身長は、
(男子)170.8cm
(女子)158.0cm
…しかし現在(2021年)の平均値は過去の最も高い値に比べて、男女ともに数mm下がっています。

(P47)(男子の場合)97パーセンタイルに近い子どもは慎重が10歳付近でスパートし、3パーセンタイル付近の子どもは12歳付近でスパートします。つまり、身長の高い子どもは早熟、小柄な子どもは晩熟傾向と言えます。

(P48)昔は出生体重は3kg、身長50cmが平均でしたが、現在は体重・身長ともに下がってきています。その理由として、
・多胎児が多くなった
・計画出産の影響
・妊娠中の母親のダイエット
などが考えられます。

(P50)小学生となり体重が30kgくらいになると、男女でからだの「中身」に違いが現れ始めます。脂肪と除脂肪(骨や筋肉、血液など)の比率が男女で異なってくるのです。
女子は平均的には9歳を過ぎると、同じ体重増加でも、男子より脂肪の占める割合が多くなります。身長が急に伸び始める身長スパートの頃には、すでに胸がほんの少し膨らんでいますが、この頃に女子としての成熟が始まり、身体に脂肪の占める割合が増えて、徐々に女性らしい体つきに変わっていきます。
しかし身長の伸びる速度が最大になるまでは、その変化はあまり急速ではありません。身長が最大に伸びる頃(最大発育期)、体重もスパートを開始します。やがて身長の伸びが少し穏やかになったかな?と思う頃、初潮が見られます。
初潮を迎えると女性ホルモンの分泌が高まり、その働きで脂肪の占める割合がさらに増加します。一般的に、女性の体脂肪率は男性より10%ほど高くなっています。

(P52)男子は体重30kgを超えた頃から少しずつ男性ホルモンが出始めます。そして体重がスパートする頃は。脂肪に対して除脂肪(骨、筋肉、血液など)が顕著に増えていきます。男性ホルモンの働きで、次第に男らしい姿に変わっていくのです。
ここで忘れてはならないことは、身長が伸びる時期は骨が非常に弱くなっていることです。骨はぐんぐんと長軸方向へ伸びますが、骨密度が増しているわけではありません。また、骨には「骨端線」と呼ばれる細胞分裂する部分があり、そこに過度な負荷がかかると、大事な骨の成長部分が損なわれてしまう危険があります。そのため骨が盛んに伸びている時期は、ウエイトトレーニングなどで関節を傷めることのないよう、運動の仕方に注意することが必要です。激しい筋トレは身長が十分に伸びてからでも遅くありません。

(P54)女子と男子では、スパートの時期は異なりますが、9割ほどが身長 → 体重の順でスパート開始となります。
女子の場合、体重スパートは一般的に身長スパートより2年ほど後になります。これは身長の最大発育期とほぼ同時くらいです。
男子の場合も身長から先に始まりますが、体重はその後1年くらいが一般的で、中には身長のすぐ後から体重がスパートすることもあります。
しかし1割弱ですが、体重が身長よりも先にスパートする例も見られます。女子の場合、体重が先にスパートすると初潮が早く発来する傾向があり、そうなると身長はあまり伸びないことになります。

(P56)身長は朝高く、夜低くなります…こうした身長に見られる一日の変化を日内変動といいますが、それは座高の変化に起因しています。

(P57)思春期の身長スパートにおいて、からだの上体と下体では伸びる時期が異なります…結論として、身長スパートは、まず足が伸び、次いで座高が伸び、最後にまた足が伸びて、やがて止まるといえるでしょう。もちろん例外はありますが、最後の足の伸びる期間が非常に大切です。
ところが近年、最後の足の伸びるはずの時期に「足が伸びない」現象が顕著になっています。男女とも30年前の親世代より「身長に占める足の長さの割合」が減少しており、実際の数値としては、男子17歳で約1cm縮んでいます。

(P59)身長が1年間に1cm未満しか伸びなくなったときに「止まった」と定義されています。一般的には、身長は思春期スパートで大きく伸びた後は次第に伸びが鈍り、18歳くらいで止まる(女子はもう少し早い)といういうことになります(例外あり)。

(P60)身長が止まる時期の目安:男子なら声変わりをした後、女子であれば初潮が発来した後に、徐々に伸びる量は減っていき、やがて止まる時期が訪れます。
一般的には、身長スパートが始まり、1〜2年して最大発育期を迎えて大きく伸び、その後伸びが少し穏やかになった頃が、思春期(第二次性徴)が後半に入ってきた印です。
ただし、最大発育期の後の生活の仕方も重要で、睡眠不足や食事内容、運動の仕方も影響を与えます。

(P64)身長の日内変動:身長は夜より朝の方が高く、起床時が最大ですが、30分後には1cm程度縮み、起床後4〜5時間後に完全に縮み終わります。
伸び縮みするのは「座高」であり、主な部分は「脊椎」です。脊椎は椎骨と呼ばれる骨が連結したもので、成人では合計で31〜32個あり、この椎骨の間には脊椎にかかる負担をやわらげるクッションの役割をする椎間板があり、この柔らかい椎間板の部分が伸び縮みするのです。

(P68)身長・体重の発育は同時に促進されるのではなく、それぞれ増加する季節が異なります。北半球の温帯地域においては、身長は春から夏にかけて伸びが促進され、体重は秋から冬に増加し、夏はほとんど増えません。
日本列島は南北に長く、身長の季節依存は北から南に行くに従って減少し、逆に体重の季節依存性が増すと報告されています。
夏の体重増加は異常な季節変動です。ほとんどの動物にとって、蒸し暑い気候の中では食欲も落ち、動くことも苦痛になります。しかし1970年代にルームエアコンが家庭に普及してきたおかげで、夏でも涼しく快適な環境で過ごせるようになりました。子どもたちは夏休みにルームエアコンのある屋内にいれば食欲も落ちず、学校のある期間と比べて生活習慣も乱れ、からだに脂肪が蓄積しやすくなり、そうした夏休みを繰り返すと肥満になる傾向があります。

(P80)発育段階の初期に急激に発育する思春期早発症は、男女関係なく、程度の差はあるもののそれほど珍しくない病気です。たまたま身長スパートが早く訪れただけということもありますが、こういう場合は、女子であれば3年生の終わりから4年生の初め頃に初潮が来て、そのうち成長が止まり、150cmに満たなかったというケースも多いのです。

(P85)愛情遮断性小人症:子どもが親からの愛情を感じることができず、精神的ストレスが大きくなると、それが原因で成長ホルモンが分泌されにくくなり、睡眠が阻害されたり、食欲がなくなったりして発育遅延を起こすことがあります。

(P98)小学生で肥満度が50%を超える高度肥満の子は、3歳時点で既に肥満であり、さらに3歳以前から発症していることがわかっています。…つまり肥満は、乳児期から始まり、それが改善されずに小学生に持ち越して、やがて高度肥満になる確率が高いということです。

(P102)1日5分だけでも縄跳びをしよう、一緒に30分歩こう、ラジオ体操をしよう、と少しずつでよいので、子どもに声をかけてからだを動かすように促しましょう。

(P104)第二次世界大戦までの日本人の畳に座る生活様式は、足の発育にはマイナスでした。戦後、テーブルと椅子の生活になり、栄養事情もよくなったことから、日本の子どもの成長はめざましい伸びを示し、その大部分は足の伸びが寄与していました。
ところが、平均身長は1998年〜2000年を境にだんだんと低下しています。…これは発育段階で最後に伸びるはずの足が十分に伸びきらず、身長スパートが終了してしまったためと考えられます。
その原因の一つとして考えられるのが、インターネットの普及によるパソコンや携帯電話やスマートフォン、ゲーム機といった電子機器の登場です。

(P106)2017年の調査では、スマホ所持率は、
(小学生)1割以下
(中学生)95%
(高校生)98%

(P108)スマホの長時間使用は、睡眠時間減少だけではなく、電子機器が発する強い光で脳が覚醒し、睡眠の質が悪くなります。深い睡眠が得られなければ、成長ホルモンは分泌されませんから、当然身長が伸びません。つまり、身長が伸びる時期にスマートフォンやゲーム機を夜遅くまでいじる生活をしていると、身長の伸びが妨げられるのです。
よく眠れなければ朝起きるのがつらくなり、そうすると朝食を摂らない、学校に行っても集中できない、頭痛やめまいなどの不定愁訴を打ったエレなど、身長だけではない、様々な問題を引き起こします。
スマホを与えるときは、一定のルールを決めることが大切です。
✓夜は使わない
✓1日30分〜1時間以内
使い方を間違えると、いろいろよくないことにつながり、身長も伸びなくなることも、子どもにぜひ伝えて欲しいと思います。
身長を伸ばすには、ぐっすり眠って成長ホルモンをしっかり分泌されることが絶対条件です。日中はよく光を浴び、夜はできるだけ強い光を避けるようにしましょう。

(P109)成長ホルモンは眠ってから1時間後、それも夜中の12時〜1時頃に最も分泌されるので、中学生や高校生でも、遅くても12時前には寝るようにしたい者です。
小学生は9〜10時間の睡眠を取らなければ、身体の機能は十分に発達しませんので、9時頃には寝かせるのが理想です。

(P110)身長スパートを遅らせて身長が伸びる期間を長くする方法;
✓子どもを早く寝かせる。夜、TVやスマホ、ゲーム機の光を長時間浴び続けていると、その刺激で第二次性徴がどんどん進んでしまうという報告があります。
✓適度な運動やバランスの取れた食事。…バランス感覚や持久力、筋力をつける最適な時期があります。そして“やり過ぎ”は禁物、骨に負担がかかり、伸びる身長も伸びなくなってしまいます。

(P111)小学生で高度肥満児は、乳児期から肥満であり、親も肥満であることが多く、これは家庭の生活習慣が「太る生活習慣」になっている可能性があります。太っている子はとにかく食事回数が多いものです。…子どもがいつでも
何でも好きなものを食べていいという生活習慣が身についてしまうと、治すのは困難になり、高い確率で肥満になります。


(P113)コロナ禍の期間は、子どもの肥満が明らかに増えました。

(P114)子どもの肥満改善のポイントは「早寝・早起き・朝ご飯」です。それが乱れるのは、たいていは寝る時間が原因です。遅寝になると、早く起きられず、朝ご飯もゆっくり食べられない、一日中ボーッと活力のない生活になってしまう、学習能力が落ちてしまい勉強する意欲も湧かないなど、すべてが悪循環になってしまいます。

(P114)運動が嫌いな子は親が誘って一緒に歩いたり、1日5分だけでもよいので外に出てエネルギーを発散させることが大切です。(P116)また、ラジオ体操などを利用して、親も一緒に身体を動かす習慣をつけましょう。最初は休日だけでもかまいません。…寝る前にストレッチや柔軟体操をするのも,身体を動かす習慣をつけるという意味では大切です。

(P116)夜食は寝る時間の2時間前まで。ご飯を食べると消化するのに1時間半〜2時間かかります。

(P122)骨がつくられる大事な時期は18歳までで、それまでにつくられた骨が弱いと、そこから改善することは難しいことがわかっています。

(P124)1人で食事している子は「切れやすい」ことがアンケート調査でわかりました。…“孤食”は決まったものしか食べないため、栄養の偏りが生じるだけでなく、自分は誰からもかまってもらえない、みてもらえないという不満感や不安感を生むのでしょう。“孤食”児は、頭痛や吐き気など不定愁訴を訴える子の割合が高いこともわかっています。…(P125)孤食を続けていると愛情不足となり身体的にも精神的にも悪い影響が現れます。

(P129)現代の子どもたちは、運動やスポーツが得意な子どもと、ほとんど屋内で過ごし、運動は学校の体育の授業だけ、という運動に無関心な子どもとの二極化が進行しています。

(P139)身長スパート中にウエイトトレーニングを続けると、骨に過度の負担をかけ続けることになり、その結果、骨端線が閉じてしまい、身長の伸びが停止する可能性があります。…アメリカ大リーグで活躍している大谷翔平選手は、高校時代に監督から「まだ骨が成長段階にあるから、1年生の夏までは野手として起用して、ゆっくり成長の階段を上らせる」という方針を告げられ、変化球などの練習はしなかったそうです。

(P143)スキャモンの発育曲線…からだの臓器や器官は一様に発達するわけではなく、それぞれ発達する時期が異なることを示しています。


1.神経型:脳・脊髄・視覚器・頭囲が含まれます。生まれてから最も早く発達し、6歳時で20歳時の約90%、12歳で100%に達します。…12歳までは、様々な基本的動作、運動を日常的に行い、からだを器用に動かす能力や、リズム感やバランス感覚を高めることが重要です。
2.リンパ型:リンパ腺、胸腺、 扁桃腺などが含まれます。学童期に急速に発達し、12歳頃がピークで成人の1.8倍くらいになり、その後次第に落ちて成人の状態になるという、特徴的な曲線を描きます。
3.一般型:身長・体重、呼吸器、消化器、腎臓などの臓器、筋肉や骨、血液量などの発育発達が含まれます。…この時期は体力や持久力をつけることに適しています。
4.生殖型:子宮、卵巣、睾丸、前立腺などの生殖期間の発達で…小学校前半
まではほとんど発達せず、第二次性徴期(思春期)には急激に発達し、男女のからだの変化も顕著になってきます。

(P146)発達には「至適時」があり、機能の発達する時期に、それに関連した働きかけをすることが、最も効果的です。そのため、スキャモンの発育曲線で見たように、非常に早い神経系の発達に合わせて、
(幼児期)運動能力の基本となる、歩く・走る・跳ぶ・投げる・泳ぐ・滑る、などの動作をまず習得し、
(小学生)多様な動作(運動)をできるようにする…
子どもの運動能力が伸びやすい5〜12歳頃までの時期を「ゴールデンエイジ」とも読んでいます。

(P147)からだへの働きかけの基本的順序
1.小学校低学年までに
・動作の習得(いろいろな動作ができるようになる)
・運動の基本的動作を身につけることが大切:走る、蹴る、跳ぶ、スキップする、投げる、受ける、打つ、滑る、泳ぐ、など
・専門的に行うのではなく、いろいろな種目を幅広く
2.小学校高学年から中学時代
・粘り強さの獲得(持久力をつける)
・身体も大きくなり、免疫力も上がる時期
3.身長が最大発育期を過ぎた後で力強さを獲得藤功
・骨がウエイトトレーニングなどの負荷に耐えられる。

(P148)…力強さを獲得するピークは、身長が最も伸びる時期の後に来ます。そして、力強さはピーク後も発達量が大きく落ちることはありません。筋力をつけるためのウエイトトレーニングや過度な運動は骨の細胞分裂に損傷を与え、骨端線が閉じてしまったり、怪我をしたりする恐れもあることから、身長が大きく伸びている時期には控えるべきです。

(P151)オスグッド病の背景:大きな骨では成長軟骨層が中枢側と末梢側の両方に存在し、それぞれで骨の長さを伸ばしていきます。成長軟骨層は筋肉の収縮力により引っ張られて徐々に痛みや変形を起こすことがあり、その最も典型的なのは膝のオスグッド病と呼ばれる骨端症です。大腿四頭筋の力が膝蓋腱を介して成長軟骨層を引っ張り、引っ張られた結果、骨が持ち上がり、見た目でも突出がわかるほどになります。

(P152)腰椎分離症の背景:ふくらはぎの柔軟性低下は大腿部の柔軟性低下より先行して小学校高学年頃に目立ち、大腿部の柔軟性低下は中学生になる頃に強くなります。足の筋肉の柔軟性が下がった時期に走る、跳ぶ、投げるなどの全身運動の場合に腰への負担が大きくなります。…中学生時には、腰の骨は大人のような強さ(骨密度)になっていないため疲労骨折が起こりやすく、疲労骨折が治らないと骨に亀裂ができてしまい、腰椎分離症と呼ばれる状態に進んでしまいます。サッカーや野球のトップ選手では腰椎分離症を持つ割合が40%以上と報告があります。…さらに近くの椎間板に負担がかかって傷ついてしまい、上下の腰の骨を支えきれなくなり腰椎すべり症という状態が起こりうること、亀裂部が衝突を繰り返すことで盛り上がり神経の通り道(脊柱管)を狭くしてしまうこともあります。

<参考>
・「発育グラフソフト」(ダウンロード)…本書で紹介されている、簡単に成長曲線が描けるソフト(Microsoft Excelで使用)


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しつこく「成長曲線」について

2024年02月02日 07時29分12秒 | 学校健診
しつこく「成長曲線」について探求していきます。
日本外来小児科学会2023でも成長曲線の教育講演がありました。

▢ ここまでわかる成長曲線
 虎の門病院小児科 伊藤純子Dr
(2023.⒐9:第32回日本外来小児科学会)

そのメモ書きを備忘録として残しておきます。

◆ 成長障害の定義
以下の1and/or2により成長障害と定義する;
1.低身長:同年齢・同性の子に比べかなり背が低い子
・身長が同性同年齢の標準身長の平均 -2SD以下
2.成長速度低下:年間成長速度がとても遅い子
・成長速度が同性同年齢の標準の平均 -1.5SD以下
 =年間の伸びが4㎝以下ならどの年齢でもこれに該当する
・病気をより反映するのは成長速度>低身長

◆ 身長は正規分布をしており、±2SD内に95.5%が入る。母子手帳はSDと異なるパーセンタイル表示を採用しており、下限ラインの3パーセンタイルは −2SDと微妙にずれる。
・−2SDを下回る児は2.3%(40~50人に1人)
・−2.5SDを下回る児は0.62%(160人に1人)

◆ 成長の評価は点としての実測値だけでなく線としての成長率も重要である。
・出生後1歳までが最も高い:20~25㎝/年
・思春期までは穏やかに低下する:-1.5SDは4㎝を下回らない。
・思春期に入るとスパートが認められる:10㎝/年

◆ 体重は正規分布をとらない。大きい方に偏っている。

◆ 体重の評価には肥満度判定曲線を用いる。
・母子手帳にも掲載されている。

◆ 小児期の成長要因を分析する
・小児期でも乳児期・幼児期・思春期では成長にかかわる要因が異なる;
(Infancy)栄養、インスリン、IGF-1
(Childhood)成長ホルモン、甲状腺ホルモン
(Puberty)性ステロイド

◆ 栄養障害は後を引く…
・乳児期に母乳不足で体重増加不良に陥った場合、それが身長にも影響を及ぼすと、栄養状態を改善しても身長が元のレベルには戻りにくい現象が観察されている。
・つまり低栄養はその後の発育にも大きく影響する。

◆ 成長曲線を活用すべし!
・成長曲線が最もよく病気の原因・経過を語っている。
・明らかな成長率低下がある場合は、必ず何かがある。
成長曲線の描き間違いは意外に多い…何歳何か月まで正確に書き込む習慣を。
(例)小学5年生女子で125㎝は低身長?
 …生まれた月で評価が異なる;
 (3月生まれ→10歳0カ月)-1.8SD  …正常範囲
 (4月生まれ→11歳0か月)-2.8SD  …低身長を疑う
★ 立位と臥位、朝と夕方でも身長は変わる。

◆ 成長障害の原因による分類
※ 下線は成長ホルモン療法の適応(最近増えてきている)
1.内分泌疾患
 ・成長ホルモン分泌不全症
 ・甲状腺機能低下症
 ・クッシング症候群
 ・思春期早発症、など
2.染色体異常
 ・ターナー症候群
 ・SHOX異常症、など
3.骨・軟骨の異常
 ・軟骨無形成症
 ・軟骨低形成症、など
4.奇形症候群
 ・Prader-Willi症候群
 ・Noonan症候群
 ・Silver-Russell症候群
5.低出生体重に関連したもの
 ・SGA性低身長症、など
6.心理社会的原因
 ・愛情遮断症候群
 ・虐待、など
7.慢性疾患・栄養障害・薬剤性、など
 ・腎不全
 ・先天性心疾患
 ・クローン病
 ・栄養障害、など
8.体質的なもの(これが最多で7~8割を占める)
 ・体質性低身長
 ・体質性思春期遅発症、など

◆ 成長障害の診断チャート(アクチュアル小児科診療:小児プライマリケア「低身長」より)

1)身長・体重の計測、成長曲線の作成
 ↓ 身長が -2.5SD以下(家族が気にしているときには -2.0SDでもよい)
 ↓ かつ/または
 ↓ 成長率の低下
2)病歴・身体所見…この部分の検討が大切
 ↓ 目標身長(Target Height が低い)→ 家族性低身長症
 ↓ 在胎週数に比して低身長・低体重 → SGA性低身長症(※)
 ↓ 体幹・四肢のバランスの異常   → 骨系統疾患
 ↓ 特異顔貌・小奇形など      → 奇形症候群・染色体異常
 ↓ 低体重・偏った食事       → 栄養障害
 ↓ ステロイド等成長障害をきたす薬剤 → 薬剤性成長障害
 ↓ 他の慢性疾患の病歴・所見   → 他の慢性疾患による成長障害
 ↓ 家庭環境の問題        → 虐待、愛情遮断症候群
3)IGF-1、甲状腺ホルモン等の測定
 骨年齢の測定
 ↓ 甲状腺ホルモン低値などの異常 → 甲状腺機能低下症などの内分泌疾患
 ↓ 女児で成長障害が強いとき染色体検査 → ターナー症候群
 ↓ IFG-1低値、骨年齢の遅延
4)GH分泌刺激試験
 2種類以上で低反応(※※)→ 成長ホルモン分泌不全性低身長(GHD)
 正常反応          → 体質性低身長?
 (成長率低下が明らかな時はさらに専門医での精査が必要)

※ SGAであってもターナー症候群やGHD併発の可能性については検討が必要
※※ 器質性病変があって分泌低下が重度の時は1種類でも可

◆ 目標身長(target height)
(父親の身長+母親の身長 ± 13)/2
…1990年ごろまではこの数値に世代間身長差を考えて2㎝を加えていたが、1990年以降成人身長の伸びが頭打ちとなり、近年の小児に対しては加える必要がなくなっている。
 日本では成人身長の低下が始まっており、それは低出生体重児の比率と関係している。

◆ 低出生体重児増加の原因
・出産年齢の高年齢化
・不妊治療の進歩/多胎妊娠の増加
・新生児医療の進歩に伴う早期分娩介入(人工早産)の増加
・予定帝王切開率の増加
・やせている女性の増加(※)/妊娠中の体重増加抑制に対する厳しい指導(※※)
※ 先進国では肥満増加が問題になっているにもかかわらず、日本女性のBMIは低下傾向。
※※ 産婦人科学会が反省中?

◆ 家族性低身長の定義
明確なものはないが、以下の定義がよく使用されている;
1)父または母の身長が、その年代の身長SDの -2未満
2)目標身長の計算式による数値が -1.5SD未満

◆ SGA性低身長症に対する成長ホルモン治療
・日本でも2008年より保険診療が認められたが、条件が厳しい(厳しすぎる?)
・SGA児の特徴:約85~90%が2歳になるまでに正常身長( -2SDスコア以上)に catch-up するが、catch-up しなかった約10~15%は小児期を低身長のまま経過し、多くは成人身長も低身長に終わる。

<成長ホルモン治療対象となるSGAの定義>
・出生時の体重および身長がともに在胎週数相当の10パーセンタイル未満、かつ出生体重または出生身長のどちらかが在胎週数相当の -2SD(約3パーセンタイル!)未満

<GH治療開始時のSGA性低身長症基準(年齢・成長)>
・「出生時」の条件を満たし、かつ現在次の3つの条件を満たす;
 ✓暦年齢が3歳以上
 ✓身長SDスコアが -2.5SD 未満
 ✓成長率SDスコア(治療開始前1年間の成長速度)が 0SD 未満

◆ SGA性低身長症に対する成長ホルモン治療
・成長ホルモンを投与することにより、3年間で約1~1.5SD身長を改善することができる(-2.5SD児 → -1.5SDへ)。
・早期治療が望ましい。3歳から治療すれば学齢である程度追いつく。
・開始前には他の疾患除外が必要(成長ホルモンの検査など)。
・しかしSGA児は思春期が早く進む傾向があり、成人身長は-2SD(+α)程度で終わることも多いのが現実である。
・成長ホルモン投与量の調節は検査値や成長速度を見ながら思春期の進みに注意して行うので、専門医による管理が必要。
・SGA性低身長に対する成長ホルモン治療は保険診療なので原則3割負担(医療費補助がない場合)となり医療費がかさむ。

◆ 成長ホルモン分泌不全性低身長症の特徴
・出生時は正常だが、その後成長率が低下傾向。
・2歳以降 -2SD を下回ってきて、年々、身長SDが低下してくる。
・成長速度は2歳以降一貫して -2SD と低く、これが年々身長SDが低下してゆことにつながっている。
★ まれに脳腫瘍が隠れていることがあるので注意!…脳腫瘍と診断される数年前から成長速度が鈍る例が多い。

◆ 成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)の分類

(病因分類)  (発症時期) (主な原因)      (頻度)
遺伝性      出生前   GH1遺伝子異常      まれ
               GHRH-R遺伝子異常
               下垂体転写因子異常(Pit1など)     
器質性(先天性)       脳形成異常        まれ
特発性      周生期   新生児仮死        ~70%
               骨盤位出生
器質性(後天性) 乳児期~  脳腫瘍、頭部外傷、    ~20%
         小児期   放射線照射

◆「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版」(財団方針日本学校保健会)において、成長曲線・肥満度曲線上、医学的対応が必要とされている項目
・+1SD以上の身長増加
・-1SD以上の身長減少
・-2.5SD以下の低身長
・+20%以上の肥満度増加
・-20%以上の肥満度減少
…これにより見落としが少なくなった。

◆ ターナー症候群
・性染色体のモノソミー
・低身長や卵巣機能低下をきたすことが多く、心臓や腎臓の合併症も多い。
・病気というより体質と説明した方がよい(染色体は変えられない)。
・成長ホルモン治療を開始しても標準身長になかなか追いつかない。これはターナー症候群の標準成長曲線が異なるためであり、そちらで評価すると身長SDは改善しており(しかしほかの児童の成長には追い付かない)、GHは有効である。
・GH治療後ターナー症候群の成人身長は144.1±4.9㎝(無治療より約5㎝高くなる)。

◆ 正常の性発達と内分泌機構(視床下部-下垂体-性腺系)
(視床下部)ゴナドトロピン分泌刺激ホルモン(GnRH)
 ↓ +
(脳下垂体)ゴナドトロピン(Gn、性腺刺激ホルモン):LH、FSH
 ↓ +
(性腺)
 卵巣:卵胞ホルモン(エストラジオール)→ 二次性徴、成長スパート、骨成熟
 精巣:男性ホルモン(テストステロン)→ 二次性徴、成長スパート
★ 思春期のスイッチを押すのは「キスペプチン(Kisspeptin)」(日本人が発見、命名はアメリカ人)

◆ 一般外来で思春期のステージを評価することは難しい
・男子は外見では判断困難
・女子では12歳で乳房発育があるか、月経はあるかがポイント

◆ 思春期の内分泌検査
・思春期前はLH、性ステロイドとも測定感度以下
・ゴナドトロピン(LH、FSH)と性ステロイド(男子はテストステロン、女子はエストラジオール)の両方のバランスを見ることが基本。
・正常値は年齢ではなく思春期のステージにより異なる(付記された「正常値」を基準に評価しない)。

◆ 二次性徴発現時期の範囲(およそ5~95パーセンタイル)
(男子)
・精巣腫大開始:9.5~11.0~14.0
・陰毛発生時期:10.5~14.0
・最大成長スパート:11.0~15.0
・変声・腋毛発生:12.0~16.0
(女子)
・乳房腫大開始:8.0~10.0~13.0
・最大成長スパート:9.0~13.0
・陰毛発生時期:9.0~14.5
・初経:    10.0~14.5

◆ 二次性徴発現時期の正常・異常の線引き
以下の参考年齢より2~3歳(1SDが約1年と考える)早ければ早発、遅ければ遅発
(男児)
・精巣腫大:11歳
・恥毛・陰茎発育:12歳
・成長最大スパート:13歳
・腋毛・変声
(女児)
乳房発育:10歳
・成長最大スパート:11歳
月経:12歳

◆ 思春期早発症の主要症状
1.二次性徴の早発
(男子)
・9歳未満で精巣(3~4ml以上)・陰茎・陰嚢などの明らかな発育開始
・10歳未満で陰毛発生
・11歳未満で腋毛・ひげの発生や変声
(女子)
・7歳6か月未満で乳房発育(※)
・8歳未満で陰毛発生、または小陰唇色素沈着等の外陰部成熟、腋毛発生
・10歳6か月未満で初経
※乳房の診であれば「早発乳房」として経過観察
2.身長増加促進(骨成熟の促進)

◆ 思春期早発症早期発見の重要性
・女子では大部分が特発性だが、男子では頻度は低いものの大部分が腫瘍による。
・骨成熟促進により成人身長(最終身長)が低くなる恐れがある。
・二次性徴の早期発現が人格成熟および社会生活上の支障になりうる。

◆ 男性ホルモン(テストステロン)、女性ホルモン(エストラジオール)の骨への作用
・性ステロイドは骨成長促進・骨成熟促進・骨密度増加作用がある。
・成長板の癒合を起こしているのはエストロゲン。
・テストステロンの一部の代謝物がエストラジオールである。
・骨への作用はエストラジオール>テストステロン。
・そのため、女子の方が思春期が早く始まり早く終わる。

◆ 思春期早発症の原因分類
1.GnRH依存性(=真性、中枢性)思春期早発症
 1)特発性(女子に多い)
 2)頭蓋内腫瘍などの器質的疾患、放射線照射
2.GnRH非依存性(=仮性)思春期早発症
 1)男子:hCG産生腫瘍(胚細胞腫、胚芽腫)など
 2)女子:機能性卵巣嚢腫など
 3)男女共通:McCune-Albright症候群、副腎疾患など

◆ 思春期早発症の治療
1.GnRH依存性(=真性、中枢性)思春期早発症
・GnRHアナログによるゴナドトロピン分泌抑制(主にリュープロレリンの4週毎の注射)
・二次性徴の抑制は容易だが、成人身長改善は困難(性ステロイドを止めると身長も止まるため)
・無治療でも身長予後のよいタイプもある
2.GnRH非依存性(=仮性)思春期早発症
・原因疾患の治療(腫瘍摘出など)
・抗アンドロゲン、抗エストロゲン剤も用いられるが、必ずしも有効ではない。

◆ 思春期遅発症
・思春期遅発の目安;
 ✓男子:14歳までに二次性徴が見られない
 ✓女子:13歳までに乳房の発育がない、または15歳までに月経が起こらない
・低身長を主訴として受診することも多い。

◆ 思春期遅発症の分類
1.(特発性)思春期遅発症
・いわゆる「おくて」、男子に多い。
14歳になっても二次性徴の見られない場合に言う。
・主訴が低身長であることがしばしばある。
・10歳代前半までは中枢性性腺機能低下症との鑑別が困難。
・必要な検査をして性腺機能低下症の疑いがなければ様子観察する。
2.性腺機能低下症
・原発性(=高ゴナドトロピン性):Turner症候群、Klinfelter症候群など
・中枢性(=低ゴナドトロピン性):Kallmann症候群(嗅覚障害合併)、下垂体近傍腫瘍(頭蓋咽頭腫、胚細胞腫など)

◆ 性腺機能低下症の治療
① 原発性(=高ゴナドトロピン性):
・性ステロイドを段階的に補充する。
・早く補充しすぎると成人身長が早く止まってしまう。
・遅いと成熟の遅れによる精神的な影響や骨密度低下の問題が出てくる。
② 中枢性(=低ゴナドトロピン性)
・①と同じ治療をすることが多いが、ゴナドトロピン補充の方がより生理的(妊孕性)

◆ 骨年齢
・診断や身長予測に非常に重要であるが正確に評価するのは簡単ではない。
・左手の骨の20箇所(管骨13、手根骨7)それぞれの骨成熟度合いを標準図と比較
 ✓Greulich&Pyle法(米国):年齢で評価し平均
 ✓Tanner Whitehouse2(TW2)法(英国):男女別にスコアに換算して合計数値を年齢に換算する。日本人用に標準化された換算表あり。日本人用でのRUS(管骨)法が身長との関係が強い。

◆ ホルモン測定の「正常値」の落とし穴
・小児のホルモン正常値は年齢・性別・思春期のステージにより大きく変化する。
・成長ホルモン基礎値の測定は診断的価値が低い。
・IGF-1(ソマトメジンC)の測定は必須だが、正常値の幅が広く、年齢、栄養状態により変動が激しい。
 正常値=GH正常、ではないし、
 低値 =GH分泌低下、でもない。

◆ 成長ホルモン負荷試験の落とし穴
・実は精度の低い検査である。
・GH分泌には波があるので、何回か行えば必ず低反応に出会える。
・GHはGH分泌刺激ホルモンとソマトスタチンによる抑制とにより調節され、脈動的に分泌される。
・どの分泌刺激試験を使っても再現性が低く、正常者で低反応を示すことが約20%ある。
・思春期直前に成長率が一時的に低下する時期があるが、この時に検査するとGHは低反応になりやすい。性ステロイドが上がってくると改善する。

◆ 特発性成長ホルモン分泌不全性低身長に対するGHの効果
・治療開始後しばらくは成長率は著明に改善する。
・しかし -2SD~-1SDに達すると標準成長曲線に沿うことが多い(どんどん背が高くなるわけではない、患者さんのイメージする「正常の平均」には到達しない)。
GH補充療法実施者の成人身長の平均は-2SD程度とされる。つまり、半分は-2SD以下ということになる(40%で-2SDを超えない)。治療後成人身長の平均は、
(男子)160.3㎝
(女子)147.0㎝
・思春期発来時の身長が低いと成人身長が低くなる→早期発見早期治療が必要。

◆ GHは“身長が伸びる魔法の薬”ではない。
・GHは未治療では身長が極めて低くなってしまう疾患の身長をある程度改善する薬。
・十分な投与量が必要であり、少量の投与では効果がない。
(GH分泌不全性低身長症)0.175㎎/㎏/週(生理的補充量)
(ターナー症候群や軟骨無形成症)0.35㎎/㎏/週(薬理的投与量)
・成人身長改善に関しては、思春期発来が壁になっており、治療開始時に平均身長との差が大きいと治療効果が限られるため、早期治療が望まれる。

◆ 成長ホルモンが保険適用となっている疾患の「小児慢性特定疾患研究助成事業」助成基準

  (対象疾患)       (小児慢性助成基準)(保険診療診断基準)

成長ホルモン分泌不全性低身長症   -2.5SD      -2.0SD

脳腫瘍等器質的な原因による     -2.0SD以下
成長ホルモン分泌不全性低身長症    または       同左
                成長速度が-1.5SD以下

ターナー症候群            同上        同左

プラダーウィリー症候群        同上        同左

軟骨異栄養症            -3.0SD以下     同左

慢性腎不全に伴う低身長       -2.5SD以下     同左
 
ヌーナン症候群           -2.0SD以下     同左

SGA性低身長症            なし       -2.5SD以下

◆ 低身長児に「そのうち伸びるよ」と言っていいか?
・「そのうち伸びる」のは低身長児の中の「体質性思春期遅発症(いわゆる“おくて”)のみであり、他に原因があるときは当てはまらない。
・「そのうち伸びる」と様子を見ていたが伸びないので受診、しかしすでに骨端線が閉鎖し成人身長に達してしまっていると取り返しがつかない…安易に用いてはならない言葉。

◆ サプリメントは有効? → ❌️
・たくさんの研究により、成長ホルモンを最も強く刺激する薬でさえ成長促進効果を持たないことが判明している。つまり、
(成長ホルモンを刺激する薬)≠(身長を伸ばす薬)
ということ。
・では、成長ホルモンそのものを正常身長児に投与するとどうなる?
→ 自分の成長ホルモン分泌が低下する(体がいらないと判断する?)。だからもし身長を稼ぐとしたら正常分泌量の倍以上を投与しなければ無駄。

<参考>

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学校健診と成長曲線

2024年02月01日 14時12分33秒 | 学校健診
学校健診から「座高測定」が外され、
「成長曲線」が導入されたのは2014年だそうです。
そう昔のことではありません。
逆に言うと、2014年までは身長と体重を点として評価するのみで、
線として評価してこなかったということになります。

成長曲線とは、横軸に年齢を、縦軸に身長と体重をプロットして作成するグラフです。
母子手帳の後ろの方に付録としてついているので、
親になると見覚えのあるグラフだと思います。

学校健診の場では、内科診察の際にこの成長曲線を参照します。
遺伝要素や病気による影響がないかどうかを検討する有用な材料です。
身長・体重は標準の成長曲線に乗っているか?
身長・体重のバランスはどうか?
等々。

成長曲線を眺めるだけで、隠れている病気の存在が浮かび上がることがあります。
わかりやすい解説サイトが目に留まりましたので、参照&一部引用させていただきます。

 長崎大学小児科准教授 伊達木澄人
(ラジオNIKKEI:小児科診療 UP-to-DATE)

◆ 標準曲線からどの程度離れているかを評価する方法には、
① パーセンタイル
② SD(標準偏差)
の二つがある。
小児科診療の現場ではSDを用いることが多いが、
なぜか学校健診ではパーセンタイルを用いている。
…専門学会と文部省に問いたい、この辺の無駄なギャップ、何とかなりませんかねえ。

◆ 学校健診の際、測定した身長・体重は養護教諭(保健室の先生)によりパソコンソフトに入力され、
自動で成長曲線が描かれる。

◆ パソコン得意の自動検索条件により検索がかけられ、
成長曲線に問題ありと疑われる例は検出さっる。
自動検索条件は以下の9つ;

① 身長の最新値が97パーセンタイル以上(統計学的な高身長)
② 過去の身長Zスコアの最小値に比べて最新値が1Zスコア以上大きい(身長の伸びが異常に大きい)
③ 身長の最新値が3パーセンタイル以下(統計学的な低身長)
④ 過去の身長Zスコアの最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい(身長の伸びが異常に小さい)
⑤ 身長の最新値が -2.5Zスコア以下(極端な低身長)
⑥ 肥満度の最新値が20%以上(肥満)
⑦ 過去の肥満度の最小値に比べて最新値が20%以上大きい(進行性肥満)
⑧ 肥満度の最新値が -20%以下(やせ)
⑨ 過去の肥満度の最大値に比べて最新値が20%以上小さい(進行性やせ)

以上9つの検索条件から、以下の異常を検出;

1.高身長(97パーセンタイル以上)・・・チェック項目①
・児童100人中2-3人はこの群に属するが、ほとんどの場合は病気ではない体質的家族性の高身長。
・身長が成長曲線に沿っていて、随伴症状(※)がなければ、基本的には経過観察可。
・まれに高身長を伴う疾患(Marfan症候群、Klinfelter症候群)が含まれる可能性あり。
※ 随伴症状:発達遅滞、思春期未発来、側湾など。

2.身長の伸びが異常に大きい・・・チェック項目②
・思春期早発症、甲上腺機能亢進症、単純性肥満症などの鑑別が必要。
【思春期早発症】
・生理的範囲の思春期早発傾向の児との鑑別が難しいため、専門医の判断を要することが多い。
・病的な思春期早発症は早期の成長停止につながり、成人身長の低下に至る可能性がある。若年齢、低身長合併例では要注意。
【思春期遅発症】
・二次性徴の出現、身長スパートが一般生徒に比べて遅れ、中学・高校生になって伸びる生理的な体質をいう。
・遅れて身長スパートが出現したとき、一般生徒の成長率は既に停滞する時期にあるので、この群に当てはまってしまうことがあるが、この場合は学校健診での経過観察でよい。
・ただし、中学3年生で身長スパートが来ていない児童生徒は性腺機能低下症の鑑別が必要(二次性徴の確認)。

3.低身長(3パーセンタイル以下)・・・チェック項目③と⑤
・身長が成長曲線に沿っていて、随伴症状がなければ経過観察可。
・チェック項目⑤に当たる -2.5SD以下の極端な低身長があれば、医療機関受診を指示。
・低身長+肥満 → 症候性肥満の可能性あり要精査。
(例)Cushing症候群、偽性副甲状腺機能低下症

4.身長の伸びが異常に小さい・・・チェック項目④
・治療の必要のない思春期遅発症が多く含まれるが、早期診断・治療が必要な疾患(※)の可能性もあるため、医療機関受診を指示。
※ 脳腫瘍、後天性甲状腺機能低下症(萎縮性甲状腺炎)、Cushing症候群、愛情遮断症候群(虐待)、クローン病、その他全身性消耗性疾患。

5.肥満(肥満度20%以上)・・・チェック項目⑥⑦
・現在、小学校高学年〜中学生における肥満の割合は全体の10%前後であり、多くの生徒がこの群に該当する。
・現実的な対応として、軽度肥満(肥満度20%以上〜30%未満)は学校での栄養生活指導が望ましい。
・それでも改善のない場合、進行性の肥満、高度肥満(肥満度50%以上)は医療機関受診を指示する。これらの肥満群の中には生活習慣病(※)が含まれており、成人肥満、動脈硬化性疾患の予防のためにも早期の医療的介入が望まれる。
※ 高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、高血圧、脂肪肝など。

6.やせ(肥満度ー20%以下)・・・チェック項目⑧⑨
・軽度のやせ(肥満度 -20%以上〜 -30%未満)は進行性でない限り、学校での栄養生活指導で経過観察を基本とする。
・重度のやせや進行性やせを伴う場合は病気(※)を疑う。
※ 神経性やせ症、過度な運動、その他全身性消耗性疾患。
・思春期やせ症は致死率の高い病気である。
・近年、部活動による過度の運動負荷と相対的栄養不足のため、やせに加えて月経異常とそれに伴う骨密度の低下、繰り替えず骨折を伴う児童生徒が増えてきている。

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学校医の憂鬱2024

2024年01月28日 07時53分30秒 | 学校健診
昨年から某中学校の校医を担当することになりました。
それを引き受けるにあたり、以前から気になっていたことを養護教諭に相談しました。

それは「内科診察時の着衣・脱衣問題」です。
先日も話題になりました;

▢ 学校健診「原則着衣」は誤解招く、日医 - 文科省通知巡る一部報道受け
 学校での健康診断に関する文部科学省の通知を受けて一部報道で「原則着衣」と表現されていることについて、日本医師会の渡辺弘司常任理事は24日の定例記者会見で、「普通に服を着ていても診てもらえる」などと児童生徒や保護者らに誤解を招きかねないとして通知内容の適切な解釈の必要性を指摘した。
 また、日医は都道府県医師会と連携し、適切な実施方法を全国の学校医に理解してもらい、学校健診が円滑に実施されるよう取り組んでいく考えを示した。 
 通知は文科省が22日に発出し、同時に「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備の考え方」も示した。 
 その中で、検査や診察時の服装について正確な検査や診察に支障のない範囲で、原則として体操服や下着などの着衣、またはタオルなどで身体を覆い、児童生徒らのプライバシーや心情に配慮することとしている。  
 また、検査や診察時の場合では、正確に実施するため医師が必要に応じて体操服や下着、タオルなどをめくって視触診したり、それらの下から聴診器を入れたりする場合があることを、児童生徒や保護者にあらかじめ説明するよう求めている。 
 渡辺氏は会見で、「こうした具体的なやり方を児童生徒があらかじめ分かっていれば心配は軽減され、健康診断がやりやすくなり、その精度も確保される」と説明した。 
 また、学校健診はスクリーニングの目的があるため見落としをできるだけ避ける必要があると指摘。保護者が下着の着用を求める場合には、診断範囲が減少することについての共通の理解が必要で、「その調整は学校側にある」との考えも示した。

私は小児科医ですが、
受診される患者さんの内科診察では上半身脱衣が基本です。
診察内容として、
・視診:皮膚の状態の観察、胸郭のかたちの観察
・聴診:心臓の拍動音、肺の呼吸音
が必要だからです。

皮膚の状態は見なければわかりません。
胸骨の凹凸も見なければわかりません。
背骨の曲がりも見なければわかりません。

心電図検査では上半身脱衣状態ですよね。
Tシャツを着たまま心電図を記録した人、いますか?
服の上からでは微妙な心雑音は聞き取れませんし、
服の下から聴診器を入れる方法では聴診場所が不正確になります。

口を開けずに虫歯の診断ができますか?
本人は無症状なら不可能ですよね。

つまり、着衣状態で健康か病的かを判断しろと言われても無理なんです。

しかし、
「思春期なんだから健診ごときで上半身裸になるなんてやり過ぎでは?」
という意見がまかり通っています。

そこには「無症状状態で病的状態を発見する難しさ」への理解が皆無です。
そして着衣状態で内科検診をして、のちに病気が見つかると、
「健診で病気を見逃された」
と訴えられ、医師は困り果てています。

「建前だけの健診」を受けるけど、
「何かあったら医者のせい」
「見落としたら医者のせい」
という魂胆に嫌気が差します。

診察を受ける側も、診察をする側も、
双方いやな思いをしている学校健診は撤廃すべきでしょう。
乳児健診も個別化が進んでいるのに、
学校健診は集団検診のまま。
なぜ、こんな無意味なことを続けるのだろう?

私は昨年、学校側へ提案しました。

・私が作成した健診の意義(前述の内容)を説明したプリントを各家庭に配布する。
・それを読んでいただいた上で、内科診察を希望するかどうか生徒家族に選択してもらう。
・脱衣診察を希望する生徒のみ内科診察を受ける。
・着衣診察を希望する生徒は、かかりつけ医で内科診察をしてもらう。

ここで気づきました。
かかりつけ医で健診をすると、お金がかかります。
その希望者が多ければ、集団学校検診より多大の費用が必要になります。

つまり、多くの問題を抱えながらも学校健診が残っているのは、
時間と費用の節約だったのですね。

さて、前述の私の提案は却下されました。
同じ中学校を担当するもう一人の学校医が反対したためです。
そして私は男子のみの内科診察を担当し、
女子はもう一人の学校医が担当することになりました。

まあ、これが根本的な解決になっていないことは明らかです。

・同性医師の診察
・検査機器の導入

なども提案しましたが、これも却下されました。

生徒家族からのクレームが恐くて着衣診察を容認している空気がイヤでたまりません。
キチンと診察の内容と意義を説明し、理解していただいた上で選択してもらう・・・
医療界では常識の「インフォームドコンセント」を学校健診でもぜひ、実施していただきたい。

私は今年(2024年)も同じ方針です。


<参考>
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RSウイルスワクチン「アブリスボ」登場!(2024年1月)

2024年01月19日 07時37分36秒 | 予防接種
私が小児科医になってから30年以上経過しますが、
新規予防接種の開発・導入により、
感染症流行の構図が変化してくるのを観察できました。

その中でも肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは大きなインパクトがありました。
乳児早期の細菌性髄膜炎患者が激減したのです。
最近の研修医は診療経験がないと聞いています。

20年以上前、市中病院小児科の病棟では冬になると、
ロタウイルス胃腸炎の大部屋と、
RSウイルス気管支炎の大部屋が、
自然発生的にできるのが通例でした。

RSウイルスは乳児が感染すると、
こじれて気管支炎になりやすく、
ゼーゼー苦しそうになります。
とくに生後3ヶ月未満の赤ちゃんは重症化して顔色が悪くなり、
おっぱい、ミルクも飲めなくなり入院することも稀ではありません。

しかし従来、RSウイルスに特効薬はなく、
小児科医は対症療法で本人が自力で危機を脱するのを見守るしかありませんでした。

★ 小児のRSウイルス感染症について知りたい方はこちらをご覧ください。

近年、ロタウイルスワクチンが登場してから、
ロタウイルス胃腸炎による入院数は激減したと耳にします。

正式には「組み換え2価融合前F蛋白質抗原含有RSV(RSVpreF)ワクチン」だそうです。
このワクチンの特徴は、
乳児自身に接種するのではなく、
妊娠しているお母さんに接種(※)して抗体を作り、
それが胎盤を通して胎児にもたらされ、
出生後に乳児に効果を発揮するという画期的システムです。

※ 妊娠24〜36週の妊婦に1回接種(筋肉注射)

本人以外にワクチンを接種して予防効果を期待する方法は「コクーン戦略」と呼ばれ、
アメリカでは既に百日咳ワクチンなどで(2011年から)実施されてきました。

アブリスボ®の有効率(重症化予防率)は、
生後3ヶ月未満では約80%
生後6ヶ月未満では約70%
と良好です。


新生児用のRSウイルスワクチンを承認へ 妊婦に接種、肺炎を予防
(2023年11月28日 朝日新聞)より抜粋
 新生児や乳児の重い肺炎を防ぐための、妊婦向けのRSウイルス(RSV)ワクチンについて、厚生労働省の専門家部会は27日、国内での製造販売承認を了承した。高齢者向けワクチンは9月に承認されていたが、新生児や乳児用はなかった。
 了承されたのは、米ファイザー社のワクチン(販売名・アブリスボ筋注用)。・・・米国では8月に承認されている。・・・
 RSVワクチンは、国の予防接種基本計画の中で「開発優先度の高いワクチン」に位置づけられていたが、子ども用ワクチンがなかった。重症化リスクの高い子には予防的に抗体を投与するしかなく、ワクチン開発が待たれていた。
 今回了承されたワクチンは、妊娠24週~36週の妊婦に1回接種する。ワクチンによりできた抗体が、母体から胎児に移行することで、新生児や乳児のRSV感染症による肺炎などを予防する。
 このワクチンの国際共同臨床試験(治験)の結果では、接種した妊婦から生まれた赤ちゃんでは、重症化を予防する効果は生後3カ月以内で81・8%、同半年以内で69・4%だった。

<参考>
・アブリスボ®筋注用 [組換えRSウイルスワクチン(母子免疫)]製造販売承認を取得
・RSウイルス感染症 妊婦向けのワクチン承認へ 厚労省専門家部会

さて、上記記事にあるように、高齢者に対するRSVワクチンも少し前に認可されています。
その名は「アレックスビー」。
こちらは60歳以上が対象で、一回接種(筋肉注射)です。

RSウイルス感染症のワクチン 日本国内初承認へ 対象は60歳以上
2023年8月28日:NHK)より一部抜粋; 
・・・RSウイルス感染症のワクチンについて、厚生労働省の専門家部会は28日夜、60歳以上を対象に使用を認めることを了承しました。・・・了承されたのは、イギリスの製薬会社、グラクソ・スミスクラインが開発した、RSウイルス感染症のワクチン「アレックスビー®」です。
・・・
ワクチンの接種の対象は60歳以上です。
今後、厚生労働省の正式な承認を経て、RSウイルス感染症のワクチンの製造・販売が国内で初めてできるようになります。
製薬会社の臨床試験によりますと、ワクチンは17か国のおよそ2万5000人の60歳以上が接種を受けて、有効性が確認できたということです。
・・・
今回、ワクチンの承認申請をしている大手製薬会社、グラクソ・スミスクラインなどの研究グループの推計によりますと日本国内でRSウイルスに感染して入院する60歳以上の人は、1年間におよそ6万3000人、入院して亡くなる人はおよそ4000人とみられるということです。

<参考>
・60歳以上へのRSウイルスワクチン発売


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子どもの側弯症

2023年11月23日 10時45分44秒 | 予防接種
WEBセミナーで側弯症のおなはしを聞きました。

痩せている女子に多いこと(バレエや新体操はハイリスク)、
装具治療は進行を抑えるだけで改善は期待できないこと、
1日のうちで装具装着時間が長いほど効果が期待できること、
…などがわかりました。

ポイントと感じたことをメモしておきます。

 側弯症の年齢による分類
1.8歳以前:early onset scoliosis
2.学童期:late onset scoliosis
① 特発性側弯症
② 先天性側弯症
3.大人:成人脊柱変形

◆ 特発性側弯症の疫学
・有病率:約2%
・側弯症の8割
・女性が8~9割
・原因不明
・遺伝因子
 ✓側弯症を持つ母親の娘が側弯症である確率は27%
 ✓双子の場合、一卵性で73%、二卵性で36%
・ほかに異常がない
・身長の伸びる時期が最も悪化する
・Cobb角40/50°以上は成人後も進行する
・成人後の発症や進行もある

◆ 特発性側弯症の“かつての”治療方針
・50°以上の側弯症は手術適応
・成長終了時の50°に満たない患者は治療終了

◆ 特発性側彎症のスクリーニング「前屈テスト」
・もっとも簡便
・特異性:78%

◆ 側弯症のリスクのあるスポーツ
・バレエや新体操
 ✓痩せている(低BMI)
 ✓生理が来ないか不順
 ✓体が柔らかい
・クラシックバレエ:調整オッズ比 1.38

◆ 側弯症で起きうる症状・所見
・変形 → 心理的ストレス
・肺活量の低下・・・90°以上にならないと起こらない
・痛み → 成人後(50歳以降?)に悪化

◆ 側弯症の治療
・保存治療:装具
 ✓進行を抑える効果(ブレーキ)
 ✓改善させることはできない
→ 本当に効果があるのか?という議論が長年続いてきたが、
2013年に1日の装着時間と治療成功率が相関することが報告された(Weinstein 2013 N Engl J Med)
 ・・・6時間未満で40%、6‐12時間で70%、13時間以上で90%
・手術治療


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風邪診療、日本の常識は世界の非常識?

2023年10月02日 07時06分44秒 | 小児医療
2023年10月現在、
日本の診療所ではいわゆる“風邪薬”が品不足で入手困難な状況です。
その理由として、
はじまりは数年前のジェネリック医薬品を扱う製薬会社の不祥事でした。
しかし新型コロナ流行で、風邪薬がたくさん処方されたことも影響し、
現在は慢性的に不足している状態が続きます。

さてこの“風邪薬”について少し考えてみましょう。

まず“風邪”について。
いわゆる“風邪”は「ほとんどが軽症で済む一過性の感染症」のことを呼びます。
その原因の9割はウイルスとされ、残りの1割が細菌(バクテリア)その他です。

そして“風邪”の際に処方される薬が“風邪薬”ということになります。
その内容は…症状を和らげる薬たち。
咳がつらければ咳止め、
鼻水が止まらなければ鼻水止め、
高熱でだるければ解熱剤…

さて、これらの薬は風邪を治してくれるのでしょうか?

答えは「No!」です。
風邪薬は症状を和らげるだけ、
風邪を治しているのは「人間の免疫力」です。

例えば、発熱は風邪症状の最もたるものですが、
これは体温を上げることにより、
悪さしている病原体(主にウイルス)をやっつけている武器です。

なので、熱が下がるまで解熱剤を一日何回も使うのは間違った方法です。
つらいときだけ、体とウイルスの戦いに休憩を入れてあげる、
そんなイメージで頓服する薬です。

抗生物質はどうでしょうか?
抗生物質は最近、抗菌薬と呼ばれるようになりました。
そう、「菌をやっつける薬」です。
つまり、ウイルスには効かないため、
風邪の9割を占めるウイルス感染症には無効、
飲んでも下痢や薬疹などの副作用が問題になるだけです。

でも、日本では子どもが風邪をひくと診療所を受診し、
風邪薬をもらって養生することが一般的です。

では、外国ではどうなのでしょう。

日本のように「風邪を引いたからすぐ受診」という国は例外的で、
まず自宅療養・治療し、
治りが悪かったらそこで初めて医療機関を受診するスタンスが一般的なようです。
その点、日本は恵まれているのでしょう。

イギリスで働いた経験のある医師が、
日本の風邪診療を見て???と感じた記事を紹介します。

イギリスでは解熱剤のみの処方が一般的で、
咳止め・鼻水止めは処方されない、と書いてあります。
なぜかというとエビデンス(有効であるという科学的根拠)が乏しいからです。
代わりに咳止めとしてはハチミツを推奨…。

また、薬好きの日本人→他剤を処方する医療者、
という文化が日本にあることも指摘しています。

これは結構根深いですね。
この文化を変える啓蒙活動を続けて初めて、
薬漬けの風邪診療から脱却できるのかもしれません。


▢ 日本での風邪診療の「カルチャーショック」
~患者満足と医療経営、両立はできないのか?
 佐々江龍一郎:NTT東日本関東病院
2019年12月15日)より抜粋;
 「風邪の患者さんはしっかりお薬を出すと満足してくれるよ」
 日本での風邪の標準診療について、帰国したばかりの私に日本の医師である友人は親切に助言してくれたのだ。2017年のことだ。日本は医療がフリーアクセスということもあり、特に冬場の診療所や中小病院の外来診療は風邪で受診する患者が多い。一般的な風邪の患者の場合、抗生剤(クラリスロマイシンなど)や解熱剤(ロキソニン)、鎮咳薬(コデイン)、去痰薬(ムコダイン)やトラネキサム酸など多剤処方の「セット」で対応するのは合理的だ。
 しかし、患者・医療者の両方の立場で英国で24年間過ごした私にとって、この「風邪に対する多剤処方」はカルチャーショックであった。英国では、風邪の患者に対する処方は解熱薬(アセトアミノフェンやNSAIDs)が中心だ。積極的に鎮咳薬などを出すこともなく、例えば咳嗽に対して最近の英国のNICEガイドラインは、蜂蜜が咳に効く一定のエビデンスがあるとし、5~10mLの蜂蜜と紅茶を混ぜて服用することを推奨している。
 これまで、多様な症状それぞれに対して薬剤を処方し、合わせて5~6種類の薬を約1週間分、計100錠以上の錠剤を処方することも、されることも経験したことがなかった。処方された薬の内服だけで「お腹が一杯」と感じてしまう人もいるのではないか。仮に英国でそうした処方を頻回にすると、地域の処方マネージメントチームが処方データを監視し、指導を受けることになるだろう。

◆「多剤処方が標準」の日本の風邪診療
 ではなぜ日本の風邪診療は多剤処方が標準なのだろう。さまざまな同僚医師に尋ねたところ、「患者は風邪の症状を緩和したくて受診している。処方によって症状が改善すれば患者も満足し、また病気になったときに受診する。その結果、クリニックの売り上げにもつながる」とのことだった。
 確かにフリーアクセスの日本では、患者の十分な満足度が得られないと患者が離れてしまうリスクがある。薬をたくさん処方するのは日本の一つの「文化」であり、患者もそれを求めているという意見もある。少ない処方であれば「過小医療」と捉え、十分な医療を受けられなかったと感じる患者もいるだろう。そして経営的側面から、初・再診料に加えて処方箋料、院内処方なら薬剤料などを算定できることを考慮するのは、診療報酬が決して高くない保険診療では理解できる。
 では、日本の保険診療で患者満足度と医療経営を両立させるには、多剤処方に頼るしかないのだろうか。

◆多剤処方でなければ「過小医療」?
 風邪に多剤処方しないことは、医学的に「過小医療」なのだろうか。
 例えば、American Family Physician のウェブサイトには、風邪に対する薬物療法の最新のエビデンスが分かりやすくまとめられている。「コデインは効果がない」、「抗ヒスタミン単剤では症状の改善はない」、「ムコダイン(カルボシステイン)はプラセボと変わらない」、「ビタミンC、経鼻ステロイドは効かない」とどれも否定的で、これらの推奨度もA判定ばかりだ。解熱薬のみ症状緩和に効果があると唯一推奨されている(A判定)。
 つまり、風邪に対するほとんどの薬物療法には、効果的についての科学的なエビデンスがなく、「良くてもグレー」でしかない。もちろんエビデンスのみでは臨床診療はできない。しかし、風邪に対して解熱薬のみを処方しても、「医学的には決して過小医療ではない」はずである。

◆多剤処方による弊害も
 医療者が良かれと思い風邪に多剤処方をすると、時に「思いがけない副作用」に遭遇することもある。特に高齢患者では、抗ヒスタミン剤の抗コリン作用による急性尿閉や急性閉塞隅角緑内障に気をつけなければいけない。
 鎮咳薬として使われているコデインには呼吸抑制、過鎮静などの副作用があり、英米では12歳以下は禁忌となっている。コデインの大量の摂取は「薬物依存のリスク」にもなり得る。厚生労働省研究班が2018年に行った調査によると、日本の薬物依存の治療を受けている10代の患者のうち40%あまりは、依存のきっかけは違法薬物ではなく、コデインなどの市販薬の大量摂取であったとの報告もある。

◆多剤処方で本当に患者は満足するのか
 ほとんどの風邪に対する薬物療法の医学的エビデンスが「良くてグレー」なのであれば、どのようにすれば日本の風邪患者に多剤処方せずに満足してもらえるのだろうか。
 日本の病院で働いていると、「日本人は薬が好きだ」という医療者側の意見をよく耳にする。確かに欧米に比べ、日本の患者は風邪に対して薬を求める傾向はある。しかしどの国でも「薬が嫌い」な患者も一定数いる。一方で、情報過多の時代の中であれ、適切な医療情報にありつけず、「薬は絶対必要」という間違った固定観念を持った患者も一定数いる。
 つまり、同じ日本人患者でも多様な価値観と解釈モデルがあり、それに応じた説明と処方が適切なはずだ。どんなに医療者が優しい態度で質の良い医療を提供していても、「患者の解釈モデルを理解し、価値観に応じた治療」でなければ患者は満足できない。
◆「風邪の患者との対話は患者満足につながる」
 日本医師会の調査でも「医師の説明」は、受けた医療の満足度に最も大きく影響していることが分かっている。つまり患者の治療に対しての解釈モデルを理解する姿勢を見せ、話し合うことでも患者の満足度は各段に高くなる。
 例えば日常の風邪診療に対して、初診時に抗菌薬をどうしても欲しがる患者にも遭遇する。そのような患者に対して、私は英国家庭医療の後期研修医時代の指導医から「delayed prescription」という方法があることを教わった。抗菌薬を処方するものの、一定期間(数日〜1週間)服用を待ってもらい、症状が継続、増悪した場合に患者の判断で服用してもらう方法である。
 2017年のCochrane Reviewでは、咽頭痛や中耳炎の患者に対する「抗菌薬投与群」と「delayed prescription群」を比較したところ、患者満足度はどちらも同等(91% vs 86%)である一方で、抗菌薬使用率は「delayed prescription群」で有意に減少した(93% vs 31%)とまとめられている。

◆発想の転換が必要
 風邪の診療において対話することは診療時間が増えるので、合理的でないといった医師もいるだろう。しかし風邪の診療でも多少時間をかけて患者が納得できる治療の説明をするだけで、患者の満足度は上がる。それにより、経営面や診療面では医師にとっても満足できる結果になるはずだ。そして増え続ける医療費の観点からも、多剤処方においても数を減らすことや、セット処方でも少ないバリエーションを用意するなどの配慮も効果的だ。
・・・

さて日本の小児科医の中でも、
「薬漬けの風邪診療を脱却しよう」
という動きがあります。

その一つが「抗生物質の適正使用」です。
これは皆さん、耳にしたことがあると思います。
ウイルス感染症に無効である抗菌薬は、
必要な時だけ使いましょう、という動きです。

私の近隣の小児科開業医は、抗菌薬をめったに処方しない医師ばかりです。
しかし、耳鼻科医は当たり前のように「中耳炎予防」と説明して、
患者さんを抗菌薬漬けにしていますね。

耳鼻科学会が作成した「中耳炎診療ガイドライン」なるものがありますが、
それを読むと抗菌薬の使用方法がすごくストイックです。
裏話では「耳鼻科医の抗菌薬乱用を防ぐ目的で作られた」
とささやかれています。

小児科医である私も、
風邪薬脱却を目指しています。

それは、他の医師と少し異なり、
漢方薬を選択することです。

漢方薬は西洋薬と異なり、
「風邪を治す」効果が期待できます。

他院を通院しているけど治らなくて困るという患者さんが流れてきます。
漢方薬に切り替えると、
「効果が実感できた」
という患者さんが多いです。
ただし、「苦い漢方薬を飲む」というハードルが子どもに課せられますが。

例えば柴胡剤という漢方があります。
この柴胡という生薬は、
炎症を抑える作用があります。
つまり、病原体が暴れてダメージを受けた組織を修復してくれるのです。

一方の西洋医学では、
例えば細菌感染に対する抗菌薬投与では、
細菌をやっつけてくれるけど、
細菌が暴れてダメージを受けた組織修復はご自分でどうぞ、
というスタンスにとどまります。

現在、当院外来では約半分の患者さんに漢方薬を処方しています。

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long-covid(新型コロナ後遺症)の実態2023

2023年10月02日 06時41分00秒 | 予防接種
何かと話題になり、気になる“long-covid(新型コロナ後遺症)”。
その実態報告が目に留まりましたので紹介します。

まあ、だいたい予想される範囲の結果ですが、
今回の報告では「感染者と非感染者の症状出現頻度の比較」を導入した点が斬新ですね。
体の不調を訴える人は、コロナ感染にかかわらず一定頻度発生するのが現実です。
非感染者と感染者を比較検討することで、
新型コロナ感染による long-covid の実態がはじめて浮かび上がるのです。

これは、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)による副反応が検討された時(名古屋スタディ)と同じ手法です。
ワクチン接種後の副反応と訴える人と、ワクチン未接種者での同じ症状の出現頻度を比較しないと、ワクチンの影響が科学的に評価できません。
名古屋スタディでは、ワクチン接種者と未接種者で症状出現頻度が変わらないことが証明され、この結果をもって「HPVワクチンは安全である」と積極的勧奨再開につながりました。

▢ 感染者のCOVID-19罹患後症状、非感染者の2~3倍「3つの住民調査が明かしたLong COVIDの実態」オミクロン株流行期で割合が低く、11.7~17.0%

 新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(Long COVID)は、
・成人の方が小児により2~4倍高い。
・感染者は非感染者より2~3倍高い。
・オミクロン株流行期では低い。
・感染前のワクチン接種者で低い。
・症状があった感染者は主観的経済状況が悪化。

 研究は、・・・東京都品川区、北海道札幌市、大阪府八尾市の3つの住民調査からなる・・・ここでのLong COVIDの定義は、WHOの「感染から3カ月経過して時点で、少なくとも2カ月以上持続した症状」を採用している。

ポイント1◇成人が小児より高い
 3つの住民調査全体で見ると、何らかの罹患後症状があると回答した割合は、成人の方が小児より2~4倍高かった。
 3つの住民調査別に症状のある人の割合を見ると、成人については、札幌市(感染時期1~6波に該当)で23.4%、八尾市(同4~6波)で15.0%、品川区(同7波)で11.7%だった。小児については、八尾市(4~6波)、札幌市(1~7波)ともに6.3%だった。

ポイント2◇感染者が非感染者より高い
 3つの住民調査では感染者と非感染者の比較をしている点が特徴の1つ。全体で見ると、感染者のLong COVIDの割合は、非感染者が何らかの症状を有していた割合より、2~3倍高かった。住民調査ごとに見ると、成人の場合、札幌市では感染者が23.4%、非感染者が9.1%、八尾市ではそれぞれ15.0%と4.4%、品川区ではそれぞれ11.7%と5.5%だった。同様に小児の場合は、札幌市で感染者6.3%、非感染者3.0%、八尾市でそれぞれ6.3%と2.2%だった。

ポイント3◇オミクロン株流行期で低い
 COVID-19感染時期による比較では、Long COVIDの割合はオミクロン株流行期(6~7波)の方が他の流行期に比べて低かった。成人の場合、オミクロン株流行期は11.7~17.0%だったのに対し、アルファやデルタ株流行期(4~5波)は25.0~28.5%だった。小児の場合も同様で、オミクロン株流行期は5.8~7.3%だったのに対し、アルファやデルタ株流行期(4~5波)は6.5~13.7%だった。

ポイント4◇感染前のワクチン接種者で低い
 ワクチン接種歴とLong COVIDの関連を調べたところ、成人、小児ともに、ワクチン未接種者に比べて、感染前のワクチン接種者の方がLong COVIDを有する割合が低かった。・・・

ポイント5◇症状があった感染者は主観的経済状況が悪化
 このほかLong COVIDが個人の主観的な経済状況に及ぼす影響についても解析している。その結果、3つの住民調査とも、症状がなかった非感染者に比べて、Long COVIDがあった感染者では主観的な経済状況が悪化していた。また、八尾市(4~6波)と品川区(7波)の調査では、Long COVIDを認めた感染者だけでなく、遷延する症状があった非感染者でも主観的な経済状況が悪化していた。・・・

 今回の研究は、Long COVIDを自覚症状に基づいて評価しており、医学的に評価されたものではない点が限界の1つ。また、若年層や男性で回答率が低い傾向が見られ、結果に影響した可能性も指摘されている。こうした限界はあるものの、住民調査でLong COVIDの実態の一端が明らかになった意義は大きい。特に、感染者と非感染者を比較した点は、Long COVIDを理解する新たな視点となっている。

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意外なところに隠れているアレルゲン物質〜家のホコリにクルミ、洗顔料に小麦・トウモロコシ!

2023年08月14日 10時33分29秒 | 食物アレルギー
約15年前、食物アレルギーの原因というか、
感作ルートが明らかになりました。
それは「バリアの壊れた皮膚」、つまり湿疹です。

バリアの壊れた皮膚から侵入する物質(たんぱく質)を、
人の免疫システムは“敵”と見なして排除しようとします。
このやり取りが繰り返されると、
人の身体はその物質を受け付けない体質に変化します。
これがアレルゲンとアレルギーの関係であり、
皮膚から侵入 → アレルギー成立という現象を“経皮感作”と呼びます。

注目されたのが乳児湿疹です。
生後数ヶ月の赤ちゃんに湿疹が出てくると、
部屋の中に存在するアレルゲン物質が皮膚に付着を繰り返し、
“経皮感作”が成立してしまうのです。

乳児アトピー性皮膚炎に食物アレルギーが多い現象が、
これで説明できるようになりました。
実際に乳児湿疹をしっかり治療すると、
食物アレルギー発生率が下がることが報告されています。

え、うちではしっかり掃除しているからそんなことは起こらない?

いえいえ、部屋の中にはダニアレルゲンや、
それを上回る卵の微粒子がたくさん存在しているのです。

▢ 100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出
100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出されました。
しかも、鶏卵アレルゲンがダニアレルゲンよりも高濃度で検出されました。
エコチル調査パイロット調査に参加している子どもの寝具を掃除機で埃を吸い取り、埃中のチリダニアレルゲン、鶏卵アレルゲンの量を調べました100%の子どもの寝具の埃から鶏卵アレルゲンが検出され、それら全ての家庭でダニアレルゲン量よりも高濃度で検出しました。この研究成果は、2019年3月5日に日本アレルギー学会公式英文雑誌であるAllergology Internationalより発表されました。

さて近年、ナッツアレルギーが急増していることが関連学会で話題になっています。

▢ 食物アレルギーにおいて3位の頻度になったナッツ類アレルギー。検査は?治療は?
堀向健太:医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

従来の食物アレルギーベスト3は、
1.鶏卵
2.牛乳
3.小麦
が定番でしたが、現在は小麦を抜いてナッツが3位に躍り出ました。
その中でもクルミの増加が著しい。
これはクルミの輸入量と比例しており、
クルミが日本人の食生活に浸透してきた弊害とも言えます。

さて、クルミのアレルゲンは室内に存在するのでしょうか?
答えは YES です。

▢ 家庭内のほこりにクルミアレルゲン
 比企野綾子(2023年07月18日:Medical Tribune
 日本では近年、クルミアレルギー患者が急増している。国立成育医療研究センターアレルギーセンターの安戸裕貴氏、センター長の大矢幸弘氏らは、同センターアレルギーセンターを受診した小児の家庭内のほこりを調査した結果、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在を確認したと、Allergol Int(2023年6月29日オンライン版)に報告。「クルミアレルギー発症との因果関係を示すものではないが、家庭内のほこりにクルミアレルゲンが存在することが示された」としている。

◆ リビングルームと子供用ベッドからほこりを採取
 食物アレルギーの発症要因として、環境中の食物アレルゲンの存在が注目されている。これまでに大矢氏らは、3歳児の寝具を調べたところ、全例から鶏卵アレルゲンが検出されたことを報告している(Allergol Int 2019; 68: 391-393)。しかし、過去に環境中のクルミアレルゲンについて検討した研究はほとんどない。そこで今回、家庭内のほこりに含まれるクルミアレルゲンについて調査した。
 対象は、国立成育医療研究センターアレルギーセンターの外来を受診した小児(年齢中央値6.9歳、範囲1.6~16.6歳)の家庭のうち、食物アレルギーの患児がいる32家庭およびいない13家庭。食物アレルギーの内訳は、クルミアレルギーが11家庭、ピーナツアレルギーが13家庭、卵アレルギーが18家庭(複数回答あり)だった。
 家庭におけるクルミの摂取状況は、2021年8月と11月にアンケートを実施して調査。ほこり採取日前の6週間分について、週平均の摂取量を算出した。
 ほこりの採取はスタッフが各家庭を訪問し行った。リビングルーム、子供用ベッドの上のほこりを同一手法で採取し、ELISA法でほこり中のクルミアレルゲン量を測定した。
 クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1への感作については、ほこり採取日の前後1年以内に測定されたJug r 1特異的IgE値を用いた。

◆ Jug r 1感作陽性児の50%で、ベッドのほこりにクルミアレルゲン
 検討の結果、約3分の1の家庭(リビングルーム13家庭、子供用ベッド14家庭)で、家庭内のほこりから環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンが高レベル(200μg/g以上、最大6万μg/g)で検出された。
 また、家庭内におけるクルミの消費量が4g/週未満の家庭と比べ、4g/週以上の家庭ではリビングルームと子供用ベッドの両方でほこりに含まれるクルミアレルゲンの量が有意に多かった(順にP=0.0053、P=0.0025)。
 さらに、クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1に対する感作が陰性だった子供のベッド(9家庭)のほこりからは、クルミアレルゲンが検出されなかった。一方、Jug r 1に対する感作が陽性だった子供のベッドの半数(6家庭中3家庭)で、ほこりからクルミアレルゲンが検出された
 以上から、安戸氏らは「家庭内のほこりにはクルミアレルゲンが存在しており、小児のクルミアレルゲン感作と関連する可能性が示唆された」と結論。その上で、「昨今のクルミアレルギー患者の増加の一因として、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在が考えられ、今後注視していく必要がある」と付言している。

次は洗顔料に含まれるトウモロコシ成分で感作され、
トルティーヤを食べたらアナフィラキシー(重度のアレルギー症状)を発症した報告例を紹介します。

▢ 洗顔料のトウモロコシ成分に注意!トルティーヤでアナフィラキシーを起こした一例
・・・トウモロコシによるアナフィラキシーショック症例が、第52回日本皮膚免疫アレルギー学会(2022年12月16〜18日)で報告された。発表した京都府立医科大学附属病院皮膚科の谷口正和氏は、スクラブ洗顔料中のトウモロコシ成分による感作に注意を呼び掛けている。
◆ 摂取の15分後にアナフィラキシーを発現
 患者は51歳女性。幼児期からアトピー性皮膚炎を有していたが、食物アレルギーの既往はなかった。メキシコ料理店でトルティーヤ(トウモロコシ粉で作る薄焼きパン)を食べ、店を出て15分ほど歩いたときに頸部発赤、全身瘙痒、呼吸困難が出現、血圧低下がみられたため救急車を要請した。・・・原因精査の目的で京都府立大学皮膚科を受診した。
 谷口氏が血液検査を行ったところ、総IgEは3,075IU/mLと高かった。抗原特異的IgEではヤケヒョウダニとハウスダストIが高値(クラス6)を示したが、これはアトピー性皮膚炎の原因と考えられた。注目すべきはトウモロコシがクラス3と高い点であった。
◆ トルティーヤとトウモロコシアレルゲンがプリックテスト陽性
 次に、メキシコ料理店で供された玉ネギやチキン、トルティーヤやカルニータス(豚肉のラード煮込み)などに絞ってプリックテストを行った。すると、トルティーヤと「トリイ」トウモロコシ(診断用アレルゲン皮内エキス)のみ15分後判定で陽性だった。そして患者に日常生活を尋ねると、トウモロコシ成分の入った洗顔料の使用が判明した。また、前年までトウモロコシ入り食物繊維食品を摂取していたことも分かった。・・・再度のプリック検査を施行した。・・・陽性を示したのは、22品目中コーンスターチ、トウモロコシ缶詰、トウモロコシ生のみ。トウモロコシ含有洗顔料のスクラブパックは陰性だった
・・・
◆ 疑われるトウモロコシ含有洗顔料による感作
 以上から、本症例はトウモロコシアレルギーと診断された。以前は普通にトウモロコシを食べられていたので、トウモロコシ含有洗顔料で感作され、大量のトルティーヤでアナフィラキシーが生じたと谷口氏は考えた。感作経路は立証できなかったが、トウモロコシ摂取と洗顔料使用は控えるよう説明したという。
 一般に食物アレルギーの感作経路としては、
①経口:消化管粘膜で感作
②経気道:花粉に感作しそれに交叉性を持つ食物の摂取で症状が現れる
ーの両者が多数を占める。ところが近年、成人発症の食物アレルギーとして、
③経皮感作
が注目されている。健常な皮膚は分子量500 Da(ダルトン)以下の物質しか通過できない。トウモロコシの主なアレルゲンであるプロフィリンやLTP(lipid transfer protein)などはどれも9kDa以上で、本来、皮膚バリアを突破できないはずだ。・・・
 しかし、本症例にはアトピー性皮膚炎の既往があり、またスクラブ洗顔料で顔面をこすることで角質が除去され、バリア機能が低下していたそのため、食物抗原が皮膚を通過、経皮感作が成立してアレルギーを発症したのでないかと、同氏は推測している。
◆ 食品を含む洗顔料では食物アレルギーに注意する必要がある
 トウモロコシアレルギーの報告数は多くない1)。比較的まれな食物アレルギーといえるだろう。同大学病院皮膚科では、たまたま成人発症トウモロコシアレルギー症例を経験しており2)、容易にトウモロコシを疑うことができた。
 選考症例はトウモロコシ含有せっけんで洗顔しており、経皮感作後のアレルギー発症という流れも同じだった。今回の症例では、患者が日常使用していたスクラブ洗顔料にトウモロコシの穂軸の粒子が含まれていた。洗顔料はプリックテストで陽性にならず、トウモロコシ穂軸成分は入手できなかったため、経皮感作の証明はかなわなかった。しかし谷口氏は、食品成分を含有する洗顔料の使用については、食物アレルギーに細心の注意が必要だと述べている。

トウモロコシ成分以外にも、洗顔料に入っている食物成分に感作されてアレルギー症状を誘発した例が報告されています。
有名なのが、2010頃話題になった「茶のしずく石けん事件」

▢ 『茶のしずく石けん事件』とは?食物成分配合化粧品などが招く食物アレルギーに注意!

▢ 茶のしずく石鹸(加水分解コムギ)によるアレルギー~小麦アレルギー

他のアレルゲンの報告例の紹介はこちらにも;

▢ 洗顔料に含有する食物抗原によるアレルギー~小麦以外の例

というわけで、今回のブログのポイントは、
・湿疹病変はしっかり治療してツルツルすべすべが望ましい。
・食品成分の入った洗顔料・スキンケア製品は避けるべし。
でした。

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その青っぱな、抗生物質が必要な副鼻腔炎ですか?

2023年08月13日 18時36分32秒 | 感染症
副鼻腔炎は一般的に「ちくのう症」と呼ばれています。

風邪症状に続く青っぱな、鼻づまり…
耳鼻科を受診すると例外なく「副鼻腔炎」として抗生物質を処方されます。
症状が長引くと、別の抗生物質に変更され、
それでも治らないと、また別の抗生物質へ変更、
それでも治らないと、気がつく元の抗生物質が処方されています。

抗生物質を乱用する開業医は高齢医師に多いとされていますが、
当地域では圧倒的に耳鼻科医が多い印象があります。

さて、青っぱな=ちくのう症、なのでしょうか。
実は「3割は細菌感染ではなく抗生物質無効」という報告があります。

▢ 急性副鼻腔炎の抗菌薬、3割の児で無効なわけ
 米・University of Pittsburgh School of MedicineのNader Shaikh氏らは、小児の急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療において、上咽頭からの細菌検出の有無や鼻汁の色によって有効性が異なるか否かを検討するランダム化比較試験(RCT)を実施。その結果、3割の患児で抗菌薬の有効性が低かったとし、その理由が明らかになったとJAMA(2023; 330: 349-358)に報告した。
◆ 層別ランダム割付で、抗菌薬群とプラセボ群を比較
 急性副鼻腔炎とウイルス性上気道炎は、症状の大部分が重複する。また、急性副鼻腔炎と診断された患児の中には、抗菌薬による治療効果がほとんど認められないケースがある。
 Shaikh氏らは、上咽頭からの細菌検出の有無や鼻汁の色によって、抗菌薬治療を行うか否かを判断できるかについて検討する目的でRCTを実施した。
 対象は、米国小児科学会の臨床診療ガイドラインに従い2016年2月~22年4月に米国のプライマリケア6施設で急性副鼻腔炎と診断された患児のうち、急性副鼻腔炎が持続または増悪した515例(2~11歳)。小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS、0~40点)の初回スコアが9点以上の者を組み入れた。症状の持続は11~30日間症状(鼻、咳、または両方)が改善しない例、増悪はウイルス性上気道炎から回復したとみられる患児で、症状改善から6〜10日の間に鼻や咳の症状が再燃した例、または新たに発熱が出現した例と定義した。
 対象を、抗菌薬群〔アモキシシリン(90mg/kg/日)+クラブラネート(6.4mg/kg/日)〕とプラセボ群に1:1でランダムに割り付け、10日間経口投与した。色付き(黄色または緑色)の鼻水の有無および咽頭拭い液の細胞培養による細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ菌)の有無で層別化した。
 主要評価項目は、診断後10日間のPRSSスコアに基づく症状の程度とした。
◆ モラクセラ菌検出の有無は抗菌薬の有効性に関連せず
 515例のうち選別基準を満たした510例(2~5歳64%、男性54%)を解析したところ、平均PRSSスコアはプラセボ群(250例)の10.60点(95%CI 10.27~10.93点)に対し、抗菌薬群(240例)では9.04点(同8.71~9.37点)と有意に低かった(群間差-1.69点、95%CI -2.07~-1.31点)。
 症状消失までの期間は、プラセボ群の9.0日に対し、抗菌薬群では7.0日と有意に短かった(P=0.003)。
 上咽頭で細菌が検出された患児は355例(72%)、検出されなかった患児は138例(28%)だった。抗菌薬群とプラセボ群の平均PRSSスコアの群間差は、細菌検出児の-1.95点(95%CI -2.40~-1.51点)に対し、非検出児では-0.88点(95%CI -1.63~-0.12点)と、抗菌薬による治療効果が低いことが示された(交互作用のP=0.02)。
 色付きの鼻汁が出た患児は333例(67%)、透明な鼻汁が出た患児は163例(33%)。抗菌薬群とプラセボ群の平均PRSSスコアの群間差は、それぞれ-1.62点(95%CI -2.09~-1.16点)、-1.70点(同-2.38~-1.03点)で、鼻汁の色の有無で治療効果に有意差はなかった(交互作用のP=0.52)。
 さらに探索的解析の結果、治療効果の大部分はインフルエンザ菌と肺炎球菌の存在によるもので、モラクセラ菌検出の有無と抗菌薬の有効性に関連はなかった
 以上を踏まえ、Shaikh氏らは「上咽頭に細菌を保有していなかった28%の患児では、抗菌薬治療の効果が低かった。急性副鼻腔炎患児における抗菌薬の不適切使用を減らす合理的な方法は、処方を診断時に上咽頭に細菌を保有している患児に限定することである」と結論している。

つまり、副鼻腔炎(ちくのう症)かどうかは鼻水の色ではわからない、
青っぱなの場合でも、3割は細菌感染ではなく、
そのような例に抗生物質を投与しても経過は変わらない(自然に治るので効いた感じはあります)、
ということです。
抗生物質を多用するなら、細菌培養検査を併用すべきでしょうね。

同じ報告を紹介した記事が他にもありましたので引用します。
「抗生物質適正使用」という視点から、注目される内容なのでしょう。

▢ 鼻水の「色」によって抗生物質を使うのは誤り? 米国医師会雑誌が報告
 石原藤樹/「北品川藤クリニック」院長
2023/8/13:日刊ゲンダイ
 風邪症状が長引く原因のひとつが副鼻腔炎、いわゆる「蓄膿症」です。鼻の奥の副鼻腔と呼ばれる空洞に細菌などが増殖して炎症を起こし、膿がたまるのです。 
 蓄膿は鼻詰まりや頭痛の原因になりますし、喉の奥に流れ込んだ鼻汁が、咳や痰がらみなどを起こす場合もあります。長引く蓄膿はぜんそくを悪化させたりすることも知られています。
  通常、細菌感染に伴う蓄膿に対しては抗菌剤(抗生物質など)が使用されます。一番多く使われるのは抗生物質のペニシリンです。 
 ただ、“どういう患者さんに抗菌剤を使用するべきか”という点については、まだ専門家でも見解が分かれています。透明な鼻水に色が付き、黄色や緑色の粘稠(ねんちゅう)な状態になることは蓄膿の特徴のひとつとして考えられています。 
 それでは、そうした症状があれば抗菌剤を使用してよいのでしょうか?
 今年の米国医師会の医学誌に、小児の蓄膿症に対して、鼻水の色で抗菌剤を使用した場合と、鼻汁の細菌培養検査を行って原因となる菌が検出されたときに限って抗菌剤を使用した場合とを比較した、臨床試験の結果が報告されています。 
 それによると、培養で菌が検出された場合に限って抗菌剤を使用すると症状が早く改善しましたが、鼻水の色が変わった場合に抗菌剤を使用しても、そうした改善効果は見られませんでした鼻水の色での診断は、実際にはあまり当てにはならないようです。 

もうひとつ。

▢ 鼻腔ぬぐい液の細菌検査で小児での抗菌薬使用の削減へ
2023年08月07日:Medical Tribune)(HealthDay News 2023年7月26日)
 副鼻腔炎が疑われる小児には、その原因菌であることが多い3種類の細菌の検査をすることで、不要な抗菌薬の処方を回避できる可能性を示したランダム化比較試験(RCT)の結果が報告された。このRCTは米ピッツバーグ大学小児科学およびクリニカル・トランスレーショナル・サイエンス教授のNader Shaikh氏らが実施したもので、詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」7月25日号に掲載された。
 副鼻腔炎は小児に頻発する疾患で、鼻づまりや鼻水、不快感、呼吸困難などの症状が現れるが、治療しなくても治る場合が多い。しかし、現状では、抗菌薬が有効な患児を予測する良い方法はなく、必要のない患児にも抗菌薬が処方されることがある。Shaikh氏は、「抗菌薬の効かない耐性菌は重大な公衆衛生上の問題だ。不必要な抗菌薬の処方を減らすべきだ」と話す。また、「抗菌薬には下痢などの副作用を伴うことがあるが、腸内細菌叢に対する抗菌薬の長期的な影響についてもよく分かっていない。したがって、小児の症状の原因が細菌感染ではない場合、抗菌薬で治療することのメリットよりもデメリットの方が大きくなる可能性もある」と指摘する。
 今回のRCTでは、2016年2月から2022年4月の間に副鼻腔炎に罹患した2〜11歳の小児510人(2〜5歳が64%、男児54%)を対象に、副鼻腔炎の主な原因菌とされる3種類の細菌〔肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)〕への感染や、色(黄、緑)の付いた鼻汁の有無で抗菌薬の使用によりもたらされるベネフィットが異なるのかが検討された。対象者は、10日にわたって抗菌薬(アモキシシリン90mg/kg/日・クラブラン酸6.4mg/kg/日)を投与する群(254人)とプラセボを投与する群(256人)のいずれかにランダムに割り付けられた。また、試験開始時と終了時に対象小児から鼻腔ぬぐい液を採取し、3種類の細菌の検査を行った。
 その結果、小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS)で評価した症状スコアの平均点は、抗菌薬群の方がプラセボ群よりも有意に低く〔9.04点対10.60点、群間差−1.69、95%信頼区間(CI)−2.07〜−1.31〕、また、症状が寛解するまでの時間も抗菌薬群の方が有意に短いことが示された(7.0日対9.0日、P=0.003)。鼻腔ぬぐい液から対象とした細菌が検出されなかった小児(抗菌薬群73人、プラセボ群65人)では、プラセボ群と比較した症状スコアの差が−0.88点(95%CI −1.63〜−0.12)であったのに対し、細菌が検出された小児(抗菌薬群173人、プラセボ群182人)でのスコアの差は−1.95点(同−2.40〜−1.51)であり、細菌が検出されなかった小児に抗菌薬を投与しても、細菌が検出された小児と同程度のベネフィットは得られないことが示された。こうした結果から、鼻腔ぬぐい液を用いた細菌検査は、抗菌薬投与の効果が期待できる小児を特定し、効果が期待できない小児に対する抗菌薬の処方を回避できる、シンプルかつ効果的な方法であることが示唆された。
 さらにShaikh氏によると、医師たちの間では一般的に黄色あるいは緑色の鼻汁は細菌感染のサインと考えられているが、今回の研究では、鼻汁の色の有無により、抗菌薬の効果に有意な差は認められないことが示された。このことは、鼻汁の色を基に抗菌薬の処方を決めるべきではないことを意味する
 Shaikh氏らは、鼻腔ぬぐい液を使って副鼻腔炎の原因菌の有無を迅速に検査できる検査法の開発に興味を示しており、「われわれの研究結果は、診断の向上や抗菌薬処方の削減のために、副鼻腔炎の症状が認められる小児の治療に細菌検査を導入することを支持するものだ」と述べている。
 一方、付随論評の著者の一人で米ジョンズ・ホプキンス大学小児科学教授のAaron Milstone氏は、「現状では、抗菌薬の有効性を判断する上で役立つ、安価で広範に導入できる検査法は存在しない」と話す。また、鼻の中に存在する細菌が、必ずしも重症の感染症の兆候を示すわけではないことを指摘し、「もし、小児の鼻腔ぬぐい液の迅速検査が利用できるのであれば、必要以上に頻繁に検査が行われるようになり、抗菌薬の使用頻度が減るどころか増える可能性がある」との見方を示す。さらに、そのような検査法は、メリットが小さいにもかかわらず医療コストの増大につながる可能性もあるとしている。
 Milstone氏によると、ほとんどの副鼻腔炎は自然に治癒する。また、下痢などの抗菌薬の副作用は、親や子どもにとっては副鼻腔炎の症状よりもつらい場合もある。同氏は、「副鼻腔炎は極めて高頻度に生じる疾患だ。また、抗菌薬の効果が得られたとしても、その効果はさほど大きなものではない。したがって、子どもが副鼻腔炎を発症した場合、親は子どもの回復を辛抱強く待つ必要があり、それには時間がかかることを理解しておくべきだ」と話している。

<原著>

さて、小児科医である私はどの様に治療しているのかを公開します。
私は青っぱなの患者でも抗生物質は基本的に使いません。
その代わりに漢方薬を処方します。
風邪の初期の水っぱな(透明鼻汁)には小青竜湯、
何日か経過し、白く濁った鼻水になったら葛根湯加川芎辛夷へ変更、
それでもよくならなくて、青っぱなになったら小柴胡湯を併用、
小柴胡湯+葛根湯加川芎辛夷を2週間投与しても治りきらない場合は、
辛夷清肺湯を2週間投与。
…全例とは言いませんが、だいたいこれで治ります。
とくに、小柴胡湯+葛根湯加川芎辛夷の組み合わせは著効例が多い印象があります。

あ、漢方薬を飲ませるコツもアドバイスしていますが、
どうやっても飲めない患者さんは、たぶん耳鼻科へ流れていると思われます。


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