小児医療・アレルギー・アトピー他

日々アレルギー疾患の診療をしている小児科医です.読んだ本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「切ってはいけません!」(石川英二著)

2012-08-26 12:38:23 | 小児医療
副題「日本人が知らない包茎の真実」
新潮社、2005年発行。

題名だけ見たら、何の本?・・・副題を見て初めてわかる珍しい本です。
そう、「切ってはいけない」のは「包皮」です。
著者は泌尿器科医で、男性の陰茎・亀頭の専門家。

数年前に購入してから本棚のインテリアと化していましたが、今回出張のお供に取り出して、往復の電車の中で読んでみました。

すると、目から鱗がぽろぽろ・・・いかに現在の包茎に対する認識が誤ったのものかが理解できました。
巷では「包茎は陰茎がん・パートナーは子宮頸がんになりやすい」「包茎は不潔で感染を起こしやすい」「包茎を手術すれば早漏が治る」・・・などなど「包茎を放っておくと大変なことになりますよ」的な情報が溢れていますが、これは医学的根拠がない、マスコミが作り上げた都市伝説のようなもの。

著者は包茎を巡る問題を紀元前のギリシャ、ローマ時代にまで遡ってその歴史を紐解くと共に、宗教における割礼習慣にも言及し、「包茎はよくない」という近代の認識が生まれた背景を考察しています。
さらに最新情報として、近年(この30年)包茎の生理的意義が見直され「アメリカでは包皮再生(出生後早期に割礼された成人男性が包皮を取り戻す手術をすること!)する人が増えてきている」という話題も提供し、読者に考えてもらうというスタンスを取っています。

医学的視点では、確かに真性包茎(包皮口が狭くて反転できない)は病的であり手術対象と思われますが、仮性包茎は日常生活に支障はないので病的とは思えません。包皮は亀頭を保護しているのに、悪者にされて切られてきた歴史にはなかなか興味深いものがあります。

世界には女性に対する割礼が行われている地域・宗教もあり、人間の罪の奥深さも感じました。

親からもらった人間の体に不必要なものなどないのです。
扁桃を取る手術もありますが、あれは大きすぎるとか、感染を繰り返すとか非常に希な病的レベルの話です。

この本を読み終わって、自信を持って「男性諸君、仮性包茎は正常です。手術が必要な異常・病気ではありません。」と云えるようになりました。著者に感謝します。

★ タイムリーにこんなニュースが流れました:

独で割礼めぐり大論議 宗教的慣習「傷害」か
共同通信社 2012年8月30日

 【ベルリン共同】男児に宗教上の割礼を行うことの是非が、ドイツで大きな論議になっている。医療目的でなく性器の一部を切除するのは「傷害罪」に当たると裁判所が認定したため、割礼が宗教上の慣習のユダヤ教徒やイスラム教徒が猛反発した。「ナチス以来のユダヤ人弾圧だ」との声すら上がり、政府は割礼を罰しないための新法を制定する方針を決めた。
 問題になったのは、西部ケルンの医師が2010年11月に当時4歳の男児に行った割礼。イスラム教徒の両親の依頼だったが、手術2日後に大量出血で病院に緊急搬送された。男児は回復したが、検察当局は傷害罪で医師を起訴した。
 一審は無罪。二審は今年5月の判決で、両親の意向だったため同様に無罪としたものの「子供の体の健全性は親の権利より優先される」と指摘、宗教上の割礼でも傷害罪と見なされるとの判断を出した。
 判決内容が報じられると、ユダヤ系の病院は割礼手術を一時中止。ロシアのユダヤ教のラビ(指導者)は「ドイツのユダヤ人に未来はない」と発言し、ナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)以来の暴挙だと激しく批判した。
 ユダヤ教では、男児の割礼は「神との契約のしるし」とされる。イスラエルの主席ラビ、ヨナ・メッガー師は今月21日にベルリンで記者会見し「ユダヤ教の割礼には4千年の歴史がある」と意義を強調した。
 事態を重く見たドイツ政府は、宗教上の割礼を罪に問わないための法案作成に着手した。ただ6月下旬実施の世論調査では56%が割礼に反対と回答している。
 ドイツにはユダヤ教徒が約10万人、イスラム教徒が約400万人いるとされる。

メモ
 自分自身へのための備忘録。

根拠のない思い込み一覧
・アメリカでは、生まれてすぐにペニスの包皮を切ることが男児の将来の幸福に繋がると信じている医師が大勢いる。
・アフリカや南太平洋の島々には、包皮を切り取ることではじめて男子は一人前になるのだと考える部族が数多く暮らしている。
・韓国ではなぜか、先進国の男性は皆包皮の切除手術を受けていると信じられている。
日本では、包皮がムケたペニスは皮かぶりのペニスより上等だという理念が今も生きている

包皮手術の失敗例
・包皮を切りすぎてエレクト時に包皮が足りなくなって痛くなったりひどいと出血を伴う。
・出生時に切除手術を受けた外国人男性のペニスを診察する機会があるが、手術によって見にくい傷跡が残ったとか、包皮と亀頭の皮膚が部分的に癒着したとか、包皮の切り方が左右均等でなかったためにペニスが曲がったとか・・・外見的になんかカッコ悪いなあとしか思えない。

包皮再生(foreskin-restoration)
 アメリカやオーストラリアでは、切除された包皮を再生して「ムケたペニスを包茎にする手術」が盛んになってきている。
 包皮が再生することでペニスが本来持っていた感覚が次第によみがえってくる。以前は亀頭の皮膚が乾燥してカサカサだったけれど、包皮に覆われることでしっとりしてきたし、セックスでの喜びも以前の何倍も強くなったという。

歴史上の包皮・包茎観
・古代ギリシャやローマの人々にとっては、包皮は価値あるものだった。包皮に包まれた亀頭こそ、ペニスの正しい有り様だと考えられていた。逆に亀頭が露出しているペニスは、汚らわしいものと考えられていたらしい。
・エジプト神話では、太陽神ラーが自分でペニスを切り、したたるその血から様々な神が生まれたとされている。

宗教的理由による割礼
・ユダヤ教徒イスラム教の信者達は、現在でも割礼を続けているけれど、その根拠になっているのは『旧約聖書』の創世記17章にある、アブラハムの割礼の記述だとされている。アブラハムは神と契約を結ぶため、一族全ての男子と一緒に割礼を受けた。このときヤハウェの神は、イスラエル人と神との契約の印として、全ての男子は割礼を受けなければならぬと命じたという。これ以後、ユダヤ教を信じるイスラエルの人々は必ず割礼を受けなければならなくなったというわけ。ユダヤ教の教えでは男児は生後8日目に割礼を受けることになっている。ユダヤの流れをくむ男性達は、ダヴィデもソロモン王もイエス・キリストもみな割礼をしたんだ。
・キリスト教もユダヤ教から分かれたわけだから最初の内は割礼を行っていた。けれども使徒パウロが「肉体の割礼」よりも「こころの割礼」が重要であると主張して、割礼の廃止を訴えた。代わりにキリスト教では「洗礼」が入信の儀式として重要視されるようになった。

医学的理由による割礼・・・「包皮性悪説
 アメリカやイギリスで割礼が盛んになったのは19世紀の半ば以降のことで、宗教的な理由ではなく、医学的な理由から始まった。その最大の理由はマスターベーションの防止だった。19世紀には、それこそありとあらゆる健康障害がマスターベーションのせいにされていた。記憶力を弱めるとか、子どもの注意力が散漫になるとか、怠け癖がつくとか・・・。
 さらに、19世紀半ばにはヨーロッパでも、女性のマスターベーションを”治療”するために割礼が行われていた。もっとも敏感な陰核(クリトリス)を切りとってしまう方法で、動機となる快楽の元を取り去ってしまえばマスターベーションをしなくなるだろうと考えた。
現在ではイギリスやフランスなどでは、女児への割礼は法的処罰の対象となっている。
 もともと包皮の切除は、マスターベーションという悪癖を直す「治療法」として医学に導入されたものだった。ところがその効能がだんだんに拡大していって、頭痛、精神障害、てんかん、体の麻痺、斜視、水頭症など、あらゆる病気に効く万能療法と見なされるようになり、習慣的なけいれんや夜驚症にも効くと考えられた。
 第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて従軍したアメリカの兵士達は、軍医から切除を強制されたという。
 正確に云うと、医学的な割礼を行っていたのは英語圏の国だけだった。具体的にはイギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド。ヨーロッパ大陸の国々では行われていない。1950年代半ばのオーストラリアでは男性の9割が幼児期に包皮手術を受けていた(現在では1割強まで低下)。
※ 現時点では、包皮の切除には医学的メリットはない、という意見が医学界の大勢を占めている。

包皮は亀頭を守っている・・・「包皮性善説
 1949年、生まれたばかりの赤ちゃんの包皮切除には医学的なメリットがないという画期的な見解がイギリスで発表された。メリットがないだけでなく、合併症を起こしたり死亡する例もあるというショッキングな報告がBMJに掲載された(題目は「包皮の運命」by ガードナー)。小児科医であるガードナーは、包皮には亀頭を保護するという重大な役割があるんだということを、ペニスの発達プロセスに則して立証した。
 この論文が出た翌年、イギリスでは新生児の包皮切除術が保険制度の対象から外され、それ以後、手術の件数は減っていって、いまでは宗教的な割礼を除けば、きわめて少なくなっているという。オーストラリアやニュージーランドでも手術を受ける男児の比率は減ってきているけれど、アメリカだけはまだまだ高い。

ペニスの発達プロセス
 包皮ができはじめるのは受胎8週頃で、ペニスの成長と歩調を合わせて包皮も成長していく。妊娠16週頃になると、包皮は先端部までペニスを丸ごと筒状に覆って、亀頭はすっかり包まれてしまう。包皮の内側の亀頭に接している部分は、亀頭の表皮とぴったりくっついているのだけれど、この接合部分の薄い細胞層は、年月が経つにつれて少しずつ壊れていって、やがて包皮と亀頭の間には小さな隙間があちこちにできはじめる。この隙間が亀頭全体に広がっていき、すると包皮と亀頭の接合面積はどんどん小さくなって、ついには包皮をクルリと反転(リトラクト)させて、亀頭を露出させることができるようになる。
 反転(リトラクト)ができるようになる時期は人によってまちまちで、3歳までに可能になる人もいれば、20歳台まで反転しない人もいる。ガードナーは5歳までに90%以上が反転可能になると主張した(自然にムケるわけではなく、あくまでも「反転可能」です)・・・最近の報告では5歳時の反転可能率は25~30%とされている。
 日本の統計(秋田の藤原記念病院の報告)では、包皮が完全に反転できるペニスの率は、 
 6ヶ月児:0% →  11~15歳:62.9%
 1990年代に「ステロイド軟膏塗布法」が登場してから真性包茎の手術件数は減少し、現在は全体の0.07%まで下がっている。

アメリカ内での動き
 1971年、アメリカ小児科学会(AAP)が新生児の包皮切除には医学的な裏付けがないという声明を発表し、アメリカにおける包皮手術は1970年代前半をピークに減り始めたが、それでも2001年時点で55.1%が割礼を行っているというデータがある。

物心がついたら包皮がなくなってることに気づいた男性のつぶやき
 あるアメリカ人男性によると、「靴下をはいたら穴が開いていて親指が飛び出してしまっていることに気づいたときの感じに似ている」とのこと。

感覚器としての包皮
 1991年、カナダのマニトバ大学のテイラーが「生まれたときに切除される部分の包皮には、多数の神経終末がある」ことを報告した。
 包皮の先端の折り返し部分から少し内側に入ったところに「リッジド・バンド」という、小さなヒダがたくさん集まったシワシワの部分があって、そこから「Meissner小体」がたくさん見つかったという。Meissner小体は触覚小体とも呼ばれていて、圧力に敏感に反応する。解剖学的な所見からすると、包皮のこの部分は指先や唇と同じような触覚を備えていることになる。さらに包皮小帯と呼ばれる部分にも神経終末が密集していて、性的な刺激に大変敏感な場所として知られている。ユダヤ式の徹底した環状切除では、残念なことに包皮小帯もほとんど切り取られてしまう。
 包皮の先端を切り取ることは、人間が本来持っていた感覚を奪うことを意味する。包皮抜きのセックスなんて、色彩のないルノワールの絵を見るようなものだと語っている人がいるほどだ。さらに包皮を失ったペニスの亀頭は、下着の中で常に布地とこすられているうちに、表皮が角質化して厚くなり、当然刺激に対しては鈍感になると考えられる。

動物の多くは包茎
 イヌをはじめ、動物の多くは成熟後も包茎状態である。包皮で亀頭を保護していると考えられている。ちなみにチンパンジーのペニスには亀頭はない(海綿体はある)。

日本人のペニス観
 少なくとも江戸時代後期には、包茎は恥と思う日本男児のペニス観ができあがっていたようだ。華岡青洲の手術の記録には、ある僧侶の包茎を治してやったところ「これでもう包茎と謗られることもない」と大喜びしたという記録がある。「皮かぶりではないから御縁組」などといった川柳からも、江戸時代には包茎が不名誉だと考えられていたことが読み取れる。

ペニスの大きさ
 『性の人類学』(吉岡郁夫・武藤浩)によると、日本人のペニスの平均腸は8.29cm(4.2~18.5cm)と記載されている。ペニスがエレクトしたときの容積膨張率は3件の調査データによると2.8、3.0、3.5倍だった。弛緩時と勃起時の長さの差は、それぞれ4.5cm、3.4cm、4.9cmだった。つまり、ふつうにしているときに包皮がだぶついているのは当たり前ということになる。
 他に、中村亮という泌尿器科医の報告(1961年)によると、引っ張って伸ばした状態(エレクトしたときのサイズに近い)では以下のように報告されている;
 12歳:5.01cm
 14歳:7.51cm
 16歳:8.63cm 
 18歳:8.96cm
 20歳:9.50cm

包茎に関する統計
 日本では、完全にムケているのは約5%、仮性包茎率は30~80%、真性包茎は約3%。
 ロサンゼルスでは仮性包茎率は75%、ニューヨークでは79%、完全にムケているのは日本と同じく約5%。
 ちなみに、英語では「仮性包茎」は「包茎」のカテゴリーに含まれていない。ところが日本語では「包茎」も「仮性包茎」も同じ「皮かぶり」というカテゴリーに分類されてしまう医学的な見地からいくと、仮性か仮性でないかというのは重要ではなくて、包皮が反転可能かどうかってことが問題になる
 
韓国の包茎事情・・・極端に高い包茎手術率と極端に低い包茎知識
 韓国では大人になってから包皮手術を受ける人がものすごく多く、若い世代では90%を超えるらしい。この習慣は1950年代以降に始まった、まだ新しい習慣。
 第二次世界大戦後にアメリカ軍が駐留するようになって文化がアメリカナイズされていく過程で、包皮切除も盛んになっていったらしい。1971年に行われた調査では5%程度だったものが、1999年の論文では約80%が切除済み(+切除希望が7%)という数字が報告されている。
 韓国の男性は「仮性包茎は恥ずかしい」というより「包皮切除を義務と考えている」らしい。思春期の頃、夏休みか冬休みを利用して行うのがふつうで、包皮切除は、ほとんと通過儀礼のように韓国男性の人生サイクルの中に組み込まれている。
 2002年のBMJ論文では「韓国では男性の包皮切除は50年ほど前に始まったに過ぎないが、いまや世界で最も手術率の高い国の一つとなっている。包皮切除に対する韓国の医師達の誤った旧弊な理解と、包茎に関する知識不足が、この異常に高い比率の主要因とみられる」とまとめている。

恥垢の存在意義
 恥垢には発がん性があるという説も一時期合ったけど、現在ではほぼ否定されている。逆に恥垢にはペニスを無菌状態に保つ働きがあると主張する人も増えてきた。動物の多くは包茎だけど、彼らは風呂に入ったりしないから恥垢はたまったままだけど、それで病気になったりはしない。ウマの恥垢を石けんで洗うとかえって病原菌が増えるという調査結果もある。

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