小児医療・アレルギー・アトピー他

日々アレルギー疾患の診療をしている小児科医です.読んだ本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「アトピーの女王」by 雨宮処凜

2011-06-09 21:59:27 | アトピー性皮膚炎
2009年発行、光文社知恵の森文庫

自分自身がアトピー性皮膚炎患者である作家が書いたすさまじい闘病歴です。
アトピー性皮膚炎診療が抱えてきた問題点を余すところなく暴露しているような内容。

とくに患者の精神状態が微に入り細に入り書き込まれていて、治療者である皮膚科医は必読すべきだと感じました。
また、アトピーの治療に関する事件や訴訟のスクラップ記事も役に立ちます。

ただ、医師の私から見ると、所々間違った記述があるのが気になります。
アレルギー学会では異端扱いされている「土佐清水病院」によい印象を持たれていますが、この病院の治療法はステロイド軟膏の域を出ません。
一方、漢方に良い印象を持たれていませんが、著者は本物の漢方診療を受けていないと思います。漢方薬は通販で使用するような薬ではありません。診察により皮膚の状態に応じてよりよい状態にすべくきめ細かく変更していきます。よくならないのに同じ漢方薬を使い続けることはあり得ないのです。上手く使うとステロイド軟膏を減量することが可能なんですけどねえ。

この文庫版のあとがきを記した時点(2009年)でも、著者のアトピー性皮膚炎は改善と悪化を繰り返しており、ゴールに至っていないのが残念です。

彼女の悩みを解決する治療法があります。
それは「プロトピック軟膏の間欠塗布法」です。
現在の治療法のスタンダードは、急性期はステロイド軟膏で炎症を抑え、安定期になったらプロトピック軟膏で維持する方法。
著者もプロトピックの驚くべき効果を経験したものの、良くなると「塗るべき場所がなくなった」とやめてしまっています。プロトピックの使い方のコツは「やめないこと」。改善した後も週に1回程度塗っていると良い状態が保てるのです。

※ 気になった文言をメモしておきます;

■ 私は痒いところを掻いているときが一番幸せであり、その時の私はまがうことなき「無」の境地だ。

 ・・・患者さんは掻くことを、また掻くことによってテカテカに光った爪を愛している、とよく表現されます。

■ たとえるなら、冬の乾燥アトピーが「かまいたち」だとすると、夏のドロドロアトピーは「ぬらりひょん」といった感じだ。冬は全身切り傷、夏は全身火傷と思ってもらえばいい

■ よくアトピーの人に「痒いのと痛いのとどっちがつらい?」と聞くと、決まって「痒い方がつらい」という答えが返ってくる。でも、アトピーじゃない人に同じ質問をすると、決まって「痛い方がヤに決まってんじゃん」という答えだ。そのたびにいつも私は思う。甘い、おまえはまだ本当の痒さを知らないのだ、と。それくらい、アトピーの痒さは独特で辛いのだ。

■ 水いぼがステロイドの非常にポピュラーな副作用と言われていることを知った。私はアトピーじゃない人で水いぼに感染したという人を知らない。

 ・・・水いぼは小児科医である私には珍しくない皮膚感染症です。水いぼがアトピーの子どもに多いのはステロイド軟膏よりも皮膚のバリア機能が低下している要素の影響の方が大です。湿疹と水いぼが混在しているときは、まずステロイドを塗って湿疹を良くしてから、水いぼの治療(摘除)をするのが一般的ですので。

■ 果たして重篤な食物アレルギーの人以外、食事制限はどれほど効果があるのだろうか?このような疑問を持っても、これまた答えは曖昧だ。医者によって言っていることが全然違うからだ。食事療法のみがアトピーを治すもの、と言い張る医者もいれば、食物はアトピーと関係ない、という医者。傾向としては、小児科の医者が食事制限を勧め、皮膚科の医者が食事制限は必要ない、というパターンが多い

 ・・・鋭い指摘。小児科と皮膚科の言うことが異なるのは、患者さんの年齢層に起因します。赤ちゃんに湿疹ができると、とりあえずかかりつけの小児科を受診することが多い。幼児期以降は皮膚科に行くことが多い。そして、食物アレルギーの関与は乳児期には多いのですが、3歳くらいまでに耐性が獲得されて食べても症状が出なくなる例が7割と言われています。
 食物アレルギーの治療は「食べられるようになるまで制限する、つまり摂取開始を遅らせる」ことに尽きます。
 近年、積極的に負荷して食べられるようにする「急速減感作療法」が話題になっていますが、この治療法の対象者は「小学校に上がった時点である食材を食べるとショックを起こす重症の食物アレルギー患者」です。

 私の経験談その1;
 卵を食べると翌日湿疹が悪化する赤ちゃんが皮膚科を受診しても「アトピーに食事は関係ありません」と取り合ってくれず、毎回ステロイド軟膏を処方するのみ。困った患者さんは小児科に来るのです。
 
 私の経験談その2;
 アトピー性皮膚炎で皮膚科に通院中の赤ちゃん、なかなか良くなりません。「わたし(母)が卵を食べた後に母乳を飲ませると皮膚が赤くなって掻きむしる印象があるのですが・・・」と皮膚科医に訴えると、「食物アレルギーはよくわからないから小児科へ行って」と言われた患者さんもいました。

 小児科医の私には「皮膚科医は食物アレルギーをよく知らないので、その関与を見て見ぬ振りをしている」と見えてしまうのは誤解でしょうか。

■ 自分のためにいろいろやってくれているお母さんのためにも早くアトピーを治さなきゃ。子どもの頃の私は、非常に素直にそう思っていた。と同時に、何をやっても良くならない字bぐんに太子、どうにもならない後ろめたさを感じていた。母親もまた、私をアトピーに生んだことに罪悪感を感じていた。私が痛がったり痒がったりして泣くと、母親は「ごめんね」といってよく泣いた。私たちは怒りをぶつける場所もなく、お互い罪悪感ばかり感じていた。
 アトピー患者は、小さい頃からいろんな事を我慢している。痛み、痒さ、眠れないことはもちろん、汚い肌を露出しなければならないこと、いつも薬のことを気にしてなくちゃいけないことそれにひどくなったら怒られるし、食べ物や遊びだって制限される。また、私はアトピーで金のかかる自分がワガママなんか絶対に言っちゃいけないと思い、子どもの頃はワガママなんて言ったことがなかった。私は親に言われるまま勉強を市、徹底的にいい子であろうとした。そうしなきゃ、見捨てられると思っていた。
 アトピーは「抑圧」の病気でもあるのだ。


 ・・・悲しい患者心理。自己評価が低くなってしまいます。と同時に家族も病んでしまいます。

当時はあの懐かしい「バンドブーム」の真っ最中だった。中学生の私はバンドブームに猛烈にはまった。とくに何を間違ったのかビジュアル系バンドにはまった。被害妄想的な歌を歌うバンドが大好きだった。私の行き場のない怒りも絶望も、全部代弁してくれているような気がしていた。
 ビジュアル系バンドの追っかけの子には、アトピーの子も多かった。家にも学校にも居場所が泣く、何かと問題を抱えた子達が多かった。


■ ステロイドはアトピーを完治させる薬ではない。ステロイドを使うことは対症療法でしかないのだ。

 ・・・私もそう思います。でも皮膚科学会が作成したアトピー性皮膚炎診療ガイドラインには「十分な量のステロイド軟膏を十分な期間塗ればアトピーは治ります」としか書いてありません。

■ 皮膚科医には「何の薬ですか?」と聞いただけで猛烈に怒りまくる人が多い。

■ アトピーそのものよりも、アトピーによって精神的に追いつめられることの方がずっとずっと辛い。自分に自信が泣く、人に対して積極的になれないことから恋愛も友人関係も仕事もうまくいかず、人生をアトピーですごく損をしている。

■ 「アトピービジネス」は、ステロイド軟膏が恐いという患者の心の隙間に見事につけ込んで散々荒稼ぎし、今や兆単位を売り上げるマーケットにまで成長を遂げている。医療ビジネスにとって、死者が出ないアトピーはまさにおいしいターゲットだ。
 アトピー患者の8割以上が皮膚科医の治療に不信を抱いてアトピービジネスに走り、高いお金を払ったあげく、悪化させて病院に逆戻りしている。


■ アトピービジネスの言い分にも一理ある。それは「不満がなければ誰も民間療法なんかに走らない」ということだ。不満の種類はいろいろある。ステロイドへの不満。アトピーが全然治らない事への不満。医者本人への不満。説明がなにもない事への不満。
 そこに「これで絶対治る」という力強い言葉をアトピービジネスは根拠がなくても平気で言ってくれる。しかも、ふつうの皮膚科ではほとんどお目にかかれないカウンセリングシステムがあったりする。
 とにかく、アトピー患者はずっと皮膚科で行われてきた治療に対して並々ならぬ不満があり、そこを突かれてしまったのだ。
 この辺は、話を聞かない皮膚科医、何の説明もしない皮膚科医、患部をろくに見ることもしないでステロイドを出すだけの皮膚科医、それ以前にとても質問できないような空気を造り出している皮膚科医には、心から猛省を促したい。


■ 死ぬほど衰弱すればアトピーは治るということを何かの本で読み、突然断食を開始した。3日で5kgも体重が減り、このまま衰弱すれば死ぬけどアトピーは治るかも、と胸を躍らせた。

■ ステロイドの副作用は、日本に限らずいろいろな国で問題になってきているが、日本のように重篤な副作用は他の国ではあまり出ていないらしい。その理由の一つには、日本の医者がステロイドの副作用について説明しないことが大きいだろう。米国では、患者の同意を得ないで治療をすれば訴えられるし、場合によっては傷害罪に問われる。そのためステロイドの塗り方と副作用について医師から詳しい説明があり、患者もステロイドの副作用についてよく知った上で選択している。しかし日本の場合、何の説明もしなくても何の罰則もない。

 皮膚科の先生、著者に「正しい治療法・治る治療法」を教えてあげてください。
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